不思議物件:山口市のパラボラアンテナ群
中国自動車道を走っていると、山口IC近傍で、巨大なパラボラアンテナをいくつも空に向けている施設が見え、その特徴ある姿は誰しも強い印象を受けているであろう。
これは民間企業の一施設なのであるが、構内の立ち入りが一部許されているので、山口市に行ったついでに寄ってみることにした。
遠目にもたくさんのパラボラアンテナが並ぶ施設だなあと思っていたが、近づいてみると、小さなものもさらに多数あることが分かり、その数に驚かされる。
こういう施設はじつは日本にはここにしかなく、日本における業務用重要なパラボラアンテナはここに集約されているので、これほどの数が必要になるのだ。
さて、この施設、誰しも疑問に思うことがいくつかある。それらを書いてみると、
(1) アンテナはみな勝手勝手な位置を向いているが、何故なのか?
(2) アンテナはいろいろな大きさのものがあるが、特に大きなものは直径30mを越える巨大なものである。なぜそんなに大きなものが必要なのか?
(3) このパラボラアンテナ群施設は日本に一つしかないのだが、なぜ山口市がそこに選ばれたのか?
(1)については、この施設の正式名称が「KDDI衛星通信センター」ということを知れば容易に解ける。すなわちパラボラアンテナは衛星の電波をキャッチするための装置であり、各自が目的とする衛星にその面を向けているから、アンテナごとに向きが違うのだ。
(2)については宇宙開発史の知識がいる。衛星通信の黎明期、衛星を宇宙に運ぶロケットは性能が低く、小さな通信衛星しか打ち上げられなかった。その衛星の発する電波は微弱であり、その電波を拾うためには、巨大な面積を持つアンテナが必要だったのである。
現在の技術では、5トンもの重さの通信衛星でも、ロケットは平気で宇宙に運べるため、そういう衛星の発する電波は強力であり、アンテナも小さなもので済むようになった。
じっさい、巨大アンテナは現在ではオーバースペックなものであり、この手のアンテナはもう製造されていない。
それゆえ、この巨大アンテナは「過去の遺物」に近いものといえる。まあ、まだ現役なのだが。
(3)のなぜ山口市?という疑問に対する答えはなかなか難しい。通信衛星というものが静止衛星というものを理解していないと、答えは出てこないだろう。
地球は丸いので、360度を三つに分割して、120度ずつ担当する衛星が3つ空に固定されていれば、全地球の通信はカヴァーできる。そしてじっさいにそのような衛星が3つ存在しているのだが、日本は太平洋とインド洋上にある衛星の範囲に入っている。その両方を担当するのに、山口市というロケーションが最適だったのである。というより、日本において山口市より東では、インド洋上の衛星の電波は受信できない。
さらに山口市には好条件がいくつもあった。
このような一国の通信を一手に担っている重要施設は、天災に強いことが求められる。山口市は天災の少ない土地であり、たしかに台風、地震、雪害、水害等の損害の記事はあまり見たことがない。
そしてそれに加え、衛星通信施設には、周りに余計な電波が少ないことが必要とされる。本来なら天災の少ない地には人が集まり、大きな都市が形成され、電波が多くなりそうだが、山口市は天災が少ないわりには、辺鄙、というか人の少ない地であり、業務妨害となるような電波源は少なかった。
そういうわけで、奇跡的に好条件が重なり、この地山口市にたいへん立派な衛星通信施設が建設されたわけだ。
今まで私が述べたことは、このセンターの付設施設である「KDDIパラボラ館」に、豊富な画像、映像、音声、模型等々を使って、詳しく説明されており、宇宙開発、通信技術の歴史がよく分かって、たいへん面白い。
山口市には観光名所が多いけど、この「パラボラ館」も、観光のさいぜひ寄ってほしい、隠れた名所である。
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