香港
March 03, 2019
March 02, 2019
四川料理:渝川菜館@湾仔
幻想交響曲+レリオ:レ・シエクル管弦楽団
香港最後の夜のコンサートは、ベルリオーズの幻想交響曲。
初日のN響の現代曲シリーズと違い、ポピュラーな名曲であって、聞いていて分かりやすい。指揮者はマキシム・パスカル(Maxime Pascal)という若い人であった。初めて聴く人だったけど、若者らしくエネルギッシュできびきびとした気持ちのよいテンポで音楽を運び、この曲の良さを十分に表現していたと思う。
そしてこの指揮者、注目すべきことは指揮法がユニークであり、指揮棒とともに身体全体を使って指揮を取り、演奏中指揮台の上でずっと踊っている。それが誇張でなく、プロのダンサーのごとき踊りで、それは当然ながら音楽に合っているので、たとえ耳をふさいでいても、その動きを観るだけで、今どのような音楽が流れているか分かるであろうほど。
というわけで、聴くとともに、観ても楽しめた幻想交響曲であった。
ただし今回の旅程を仕切った幹事氏は、「演奏はよかったけど、あの指揮スタイルは気に入らない」とあとで不平を言っていた。幹事氏はかつてクライバーの追っかけをやっていてカナリア諸島までも行ったという大のクライバーファンだったので、「クライバーだって同じように踊ってたじゃないですか」と言ったら、「いやまったく違う。クライバーは体幹がしっかりしていたので、動きがエレガントだったけど、今日の指揮者は、芯がなくて身体全体がふにゃふにゃで、あれじゃまるで『ひょっとこ踊り』だよ」とけなした。なんでこの人は宮崎日向のローカルな祭りのことを知っているのだろう、と不思議に思ったが、言われてみれば、たしかにあれはひょっとこ踊りであった。
こうして私は、「マキシム・パスカルといえばひょっとこ踊り」と頭にインプットされてしまった。
幻想交響曲のあとは、「レリオ」。朗読、声楽、管弦楽から成る複雑な曲である。
この曲は元々は幻想交響曲とセットで創作され、そしてセットで演奏されるように作曲家から指示されていたのだが、時代がたつにつれ幻想交響曲は残ったけど、この曲はほぼ忘れ去れてしまったので、現在ではそのようの形式で演奏されることは滅多になく、今回の試みは希なものである、ということである。よほどのベルリオーズファンでないと聴いたことないたぐいの音楽であり、じっさい今回の一行も誰も聴いたことなかった。
香港芸術節は、プログラムに先端的なものや、通常で行われないものを取りこむのが好きなので、これもその試みの一つであろう。
この作品はまず舞台上の俳優による朗読から始まる。俳優は観衆に向かってフランス語で語りかけ、聴衆は泣き所とか笑い所ではなにか反応しないといけないだろうけど、字幕も出ていないので、まじめにリスニングに勤しむ。ただその内容は、poison, désespoir, tortures…と陰気な単語が続き、鬱々と、失恋というか見向きもされない恋の苦しみを語るものであり、要は我々が標題音楽「幻想交響曲」で知る内容の、解説版みたいなものであった。ついでながら全編通じて笑わせ所は全くなかった。
音楽そのものに関しては、この作品が忘れられていったことが分かる、そのようなものであった。すなわち「幻想交響曲」に比べると、一段二段落ちる、つまりは魅力がない。それで少々退屈な時間を過ごしていたのだが、そうなると困ったことが生じて来た。
隣の客が、寝だして、さらにはイビキまでかきだしたのである。音楽会で寝てイビキをかくなんて会場内のテロ攻撃みたいなもので、客として最も行っていけない行為である。さらには我々の座っていた席は実質最前列であり、演奏者にもとても近い。この世で最も耳の良い職業人の集団を前に堂々とイビキをかいて寝られる、その外道ぶりに、私は驚き呆れたのであるが、まさかそのままにもしておけず、寝たと同時にゆり動かして起こすことを何度も何度も行うことになり、注意力が散漫してしまった。
…残念ながら音楽会で寝る人って、少ないながらも常にいるわけで、クラシックの音楽会って値段もけっこうするのに、そこにわざわざ寝に来る人が一定数いるというのは、私にとって大きな謎の一つである。
とかなんとか考えているうちに、音楽は最終章のほうに行き、朗読者は音楽家ということが分かり、舞台は現実の世界に変じて、演奏家たちも舞台上の役者の一員として演奏を行うという、面白い仕組みの作品であったことが判明。
朗読者=音楽家は、演奏が終わりのほうで、オーケストラの演奏を称え、演奏者たちもそれに応え、そして幕。こういうメタ表現のクラシック作品は初めて見たけど、話のネタにはなったので、いい経験だったとしよう。
広東料理:龍景軒@香港中環
広東料理に関して、香港随一の格を誇る「龍景軒」。
毎年の香港ツアーで必ず一度は寄ることになっている、中華料理ツアー本命の名店である。
香港在住のメンバーがこの店の常連客(一時期は毎日通っていたという)であり、龍景軒の旬の味にとても詳しいので、その人にメニューを考えてもらい、お勧めのコースを組んでもらった。今回は15名という人数だったので、いつもの個室は使えず、二つのテーブルを使っての宴。
昼の料理なので、まずは点心シリーズ。
ぷりぷりの食感の蝦蒸し餃子、焼豚腸粉と小籠包は普通の店のものと違ってとても上品な味。そしていかにもこの店らしい高級感漂う黒トリュフと蟹肉の春巻。
これは特別注文の子豚の丸焼き。あらかじめ予約しておかないと出てこない。
丸焼きと言っても全部の部分を食べるのではなく、パリッと焼いた皮のところを脂と一緒に食べる、北京ダック方式。初めて経験する料理だったけど、食感、香り、脂の旨み、見事なものであった。
肉料理は子鳩のクリスピー焼と蛙のジンジャーソース炒め。
とにかく素材が良く、それを引きたせる調理もまた素晴らしい。
これは松茸と茸のスープ。松茸も中華料理に使うのだけど、日本の使い方とは違って松茸は香りを支配していず、いろいろな茸の香りと合わさって、複雑な香りの料理となっていて面白い。
豆苗、ピータン、塩玉子の上湯煮。いろいろと個性の強い具の入った上湯煮。もとの上湯が優雅な味で、それでこれらの具材の味もまたうまく引き出されている。
茸と筍のチキンスープ。
このスープは常連氏一のお勧めで、たしかに鶏の出汁が尋常でなく濃厚で美味。
海鮮を使った料理は、ホタテの卵白茶碗蒸し紹興酒ソースとエビのニンニクと豆豉チリ炒め。この店の特徴である、「極上の素材と、極上の調理」を徹底的に味わえる。
〆はいつもは麺か炒飯だけど、龍景軒にボージャイファンが出せるということなので、どんなものか興味をもった一行によるリクエストにて、それを予約注文。
この牛肉炒めのボージャイファン、じつに繊細で上品な料理であるが、それゆえワイルドな火の料理のはずのボージャイファンの特徴はまったく出ていず、この料理のみ皆の不評を買っていた。まあ、龍景軒らしい料理であることは事実であった。
デザートは定番でありこの店のスペシャリテであるマンゴーサゴクリームに、杏仁ミルク。じつに美味。
それにしても、こうやって改めて並べてみると、けっこうな数の料理を食べたものである。そして、これは昼食なのに3時間半かけて食べたため、可能であった。
中華料理は、香港の店ではさっさと出て来て、さっさと食べることが多いけど、この店はさすがに別の時間が流れており、他の客達も同じように、優雅にして緩やかな時間を過ごしていた。
March 01, 2019
潮州料理:創発@九龍城
かつての魔窟、現在もあやしい雰囲気を残している街、九龍城にある潮州料理の名店。尖沙咀でタクシーの運転手に店の名前を告げると、あっさりと店まで行けたので、地元でもけっこう有名な店と思われる。
有名店であれど、店の外観と中は、もっぱら地元民の使う中華大衆食堂という感じであり、知らないとまず訪れない店ではある。
店の前には、潮州料理のシンボルである生鮮魚介類の水槽。
客はこれらの素材を選んで、料理してもらうことが可能である。
店内入ってすぐには、このように料理が並べられている。これらは温めるだけで、すぐにテーブルに運んでくることができる。
店内にはこのようにずらりとメニューが書かれてある。
中華料理の特徴として、これらは一品だけで4~6人前はあるので、本場の中華料理を食べに行くときは、人数をそろえて行く必要がある。そうでないと、一皿だけで満腹、ということになってしまう。
いろいろなメニューを頼んだけど、最初に出て来たスープでみな感嘆。
鶏の出汁は濃厚なのに、くどくなく、旨さだけを取り出したような感じのもので、この店の料理の技術の高さがよくわかった。
なかの具材の、茸、野菜、それにフカヒレも上質なもの。
頼んだ料理をずらずらと。
巨大蝦蛄の唐揚げは、蝦蛄そのもの自体が見事。鶏肉は無駄な味付けを抑え、鶏の味そのもので勝負している。鵞鳥の肝はまったく臭みやえぐみがなく、とても上品な味に仕上げている。貝と野菜のスープ、豚肉ローストも素材の味重視の立派なもの。
どれも美味であったが、ただ料理によっては日本人にとっては塩味が強めなものがあり、その手のものが苦手な人にはちょっと困るかも。
この店は前評判通り、潮州料理の名店であって、まだまだ注文できていないメニューがたくさんあることから、ぜひともまた来てみたい。
歌劇:タンホイザー@香港芸術節2019年
吟遊詩人であるタンホイザーはエリザベート姫という恋人がいたが、清き乙女である姫との愛に物足りなさを覚え、愛欲の女神ヴェーヌスの統べる国ヴェーヌスベルクに赴き、そこで情欲の日々に溺れる。しかしタンホイザーはその生活に飽きてそこを去ろうとする。タンホイザーに惚れていたヴェーヌスは彼を引き止めようとするも、もうヴェーヌスに興味を失っていたタンホイザーは彼女を振りきって、元住んでいた国に戻り、姫とも復縁した。
そして国では歌合戦が開かれ、そこでの歌のお題は「愛とは何か?」というものであり、歌手たちは騎士道精神に満ちた奉仕の愛の歌を次々に歌いあげる。それを聞いていたタンホイザーはその欺瞞性に腹を立て、さらには俺は本当の愛欲というものを知っているのだぞと自慢したくなり、ヴェーヌスを称える愛欲賛歌を朗々と歌い、その場にいた騎士達や領主から総スカンをくらい追放されてしまった。
一時の私憤で全てを失ったタンホイザーはうろたえ、元の生活に戻るためにローマまで行って教皇に赦しを乞うのだが、「お前のような罪深きものが赦されることは永遠にないだろう」と冷たく突き放される。そういうことならばと、一回袖にしたヴェーヌスのもとに戻り、また愛欲の日々に浸ろうとヴェーヌスベルクに向かうことにした。そこへエリザベート姫の葬列が通る。エリザベート姫はタンホイザーの罪の赦しを得るべく自分の命を絶ったのだ。己の愚かさに悲嘆にくれ、姫の亡きがらにすがるタンホイザーのもと、ローマの教皇から使者が現れる。エリザベート姫の願いが聞きいられ、タンホイザーの罪は赦されたのだとの知らせをもって。
というふうな話。
あら筋だけ書くと、いかにもつまらないというか、男にとって都合のいい話、というのはヴァグナーの楽劇の特徴ではある。しかし良い脚本を書く才能はなかったけど、音楽の創造については音楽史上希にみる才能を持っていた大天才の造り上げた作品だけあって、いざ幕があけ音楽が鳴り出すと、序曲最初のホルンの抒情的な調べから一気に音楽に引き込まれ、その旋律が盛り上がっていきトロンボーンが咆哮するころには世界がこの音楽に満たされているような、圧倒的な迫力でもって劇は進んでいく。
そういうふうに音楽はとてもよい。しかし、ヴァグナーの楽劇は、CDとかで聞くぶんにはそうも思わないのだが、劇場でライブを観ると、「筋はこんなにくだらないのに、何故こんなにも自分は感動してしまうのだろう」という感想が、どうにも頭のなかに浮かんでしまうのが常ではある。
ヴァグナーの劇はだいたいワンパターンで、「情欲、情動に溺れた人物が、自らの救済を試みるも、己の欲の深さにそれはできず、結局は自分を愛する乙女の献身にてようやく救われた」というものである。タンホイザーは典型的なそれであり、ヴァグナーはその後もえんえんと似たような筋の楽劇を亡くなるまで書き続けることになる。
ヴァグナーの伝記を読むと、ヴァグナー自体が情欲に溺れ続けた人であり、自身の懊悩を一貫して書き続け、そして己の欲望を音楽に浄化することによって己の精神を救おうとした、芸術家としてはある意味立派な人であり、しかし情欲から死ぬまで逃げられなかった点では、業の深い人であった。
ただしヴァグナーの時代の倫理観は現在では少々厳しすぎる点があり、(もちろんヴァグナーその人のように、人妻ばかり手を出して、さらには自分の弟子の妻を奪って我がものにしてしまうようなのは、さすがに今の基準でも論外だとは思うけど)、あの時代の倫理観に基づくタンホイザーの苦悩について、現代人には理解しがたいことも多く、そのため今回の演出は、全体的にすべてを曖昧にした、観客によって解釈自由というふうなものになっていた。
今回の演出を担当したビエイトという人は、独特のエログロ路線で有名だそうだが、べつにそんなに個性的な演出はなく、演出家自身の独自の解釈はあえて盛り込まず、ヒントは与えますが解答はありませんよ、といった抽象的な場面が続いた。これはつまりは演出家自体、タンホイザーについてよく分かっていなかった、あるいは現代の倫理観では観客をうまく納得させる解釈を作れなかった、というふうなことだったのだろう。
そういうわけで、演出に関してはグダグダだったと思うが、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の演奏はさすが本場だけあって立派なものであり、ヴァグナーの偉大な音楽に酔いしれることができた。
February 28, 2019
香港 音楽と食の旅
毎年春に香港で開かれる芸術祭で当代一流のアーティスト達の演奏を楽しみ、かつ香港特有の多彩な中華料理も満喫しようという、恒例の音楽と食の旅に、今年も行ってきた。
初日、香港に夕方到着。
演奏会は午後8時からで、夕食はその後10時からというゆっくりプランなので、ホテルでのんびり寛いでそれから出かけようと思っていたら、スマホのグループメールに「演奏の前にホール近くの料理店で小腹を満たしてからコンサートに行きましょう。皆そろっています」とのお知らせが。
それで、せっかくなのでその料理店へと。
この店は予約とかはしていなかったのだけど、ネイザンロード界隈を歩いていて、よさげな雰囲気の店なので入ってみたとのこと。
私が着いたときにはだいぶ料理が来ていて、みなわいわいと楽しく騒いでいた。
潮州料理の店のようで、素材をシンプルに味付けした料理の数々。一通り食べたのちの〆は、炒飯に焼そば。
美味しかったけど、「小腹を満たす」なんて量ではなかったな。ビールもさんざん飲んだし。
食事を済ませたのち、すぐ近くの文化センターホールに行き、NHK交響楽団による演奏を観賞。
プログラムは、(1)武満 徹/ハウ・スロー・ザ・ウィンド (2)ラヴェル/ピアノ協奏曲 ト長調 (3)プロコフィエフ/交響曲 第6番という何やら玄人好みの構成。指揮はN響首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィ氏。
香港に来てまでN響を聞かなくとも、という気がしないでもないが、この芸術祭は各国の一流オーケストラが来ているので、それらと日本のオーケストラの聴き比べが出来て、ためになった。
曲のなかでは、ラヴェルが一番良かった。曲そのものが親しみやすいし、ピアノを弾いたツゥオ・チャン氏も大変なテクニシャンで、快適なリズム・メロディに溢れたこの曲の魅力を存分に引き出していたと思う。
武満徹の音楽については、こういうのは「音楽的教養」の勉強みたいなものなんだろうなとか思いながら聞き、プロコフィエフと共に、こんな音符が好き勝手に飛び交うような難しい音楽を正確に弾ききるN響の技量に感心した。さらには聞きながら、音楽って本来はエンターテイメントそのもののはずなのに、どうしてクラシック音楽の歴史は、その本質と離れる方向に進んでしまったのだろうとかいろいろ考えた。
演奏会のあとは、尖沙咀の料理店「潮福蒸気石鍋」。
この店の料理は、「中華料理」の本道とは少し外れたところにあり、潮州料理を東南アジアの料理器具を用いてアレンジしたもの。
テーブルの上に載せてある陣笠帽みたいなのがそれで、この下に素材を置いて、蒸気で蒸すという、ある意味シンプルな料理であるが、この器具の構造に何やら秘訣があるらしく、通常の蒸し料理よりも香りや味の凝集度が増している。
こういうふうに生きている新鮮な具材を展示して、それらをチョイスして調理してもらうのが潮州料理の特徴である。
この店では様々な素材を蒸したあと、それらから滴り落ちたエキスによるお粥で〆るという流れになっているので、まずは鍋底に米と具を敷く。
貝、魚、海老、鶏肉、野菜、糸瓜等々が、高圧蒸気で一気に調理され、次々に出てくる。
そして、全部の素材が蒸されたあと、それらの全てのエキスを吸い込んだお粥がいつの間にか鍋底に出来ている。
これがやはりとても見事な味。
日本にはない珍しい料理であり、普通に美味しいので、香港に来た際はぜひ経験すべき店だと思う。
March 09, 2018
潮福蒸気石鍋@尖沙咀
香港食べ歩きツアーは、「確実に美味しいものが食べられる定番の店」と「珍しい料理を求めての新規開拓店」の組み合わせで構成されている。
今回の新規開拓店の第一は、尖沙咀の「潮福蒸気石鍋店」。
料理は海鮮蒸し+雑炊であって、いかなるものかの説明が少々しいのであるが、写真を使って説明。
蒸しものは、これらの海鮮ものから選ぶ。タラバガニやロブスターのような高級海鮮もあり、貝類、魚類、種類はさまざまである。
蒸し上げられた素材は、好みの薬味で味をつけて食べる。
四川の名物火鍋料理と同じような方式である。
これがこの料理の肝要なところである。
蒸し鍋に水のみを張るのでなく、米やホタテなどを入れて加熱する。ここから蒸気を出すと同時に、上で蒸された素材のエッセンスが下に零れ落ちて来ることから、それらば混ざり、複雑にして濃厚な味の雑炊がのちに誕生する仕組みである。
浅蜊、ホタテ、ハタ、海老、鶏肉、野菜、等々が蒸されて、各人の好みのたれをつけて食される。
ただ蒸すものはおもに海鮮のものなので、もとより塩味がついており、素材がいいものを使っているので、タレなしで十分に美味しかった。
海鮮蒸しを存分に食べたところで、〆はこの雑炊。
各素材の良いところがミックスされた豊穣な味の雑炊であり、みごとに〆ることができた。
日本ではみかけないユニークな料理であり、おもしろい食体験をあじわえた。
ラフマニノフピアノ協奏曲第3番@ ピアノ:マツーエフ
近頃毎年訪れている、春の香港芸術祭。
今回のメインの目的は、マツーエフのピアノ演奏によるラフマニノフ協奏曲。
超絶的なテクニックの持ち主で有名なマツーエフの得意とする曲であり、期待大である。
舞台にマツーエフが現れると、熊なような立派な体格であり、まずそれに驚かされる。
そして演奏が始まると、いきなり音量がでかい。まるでピアノに何か仕掛けがあるかのごとく、通常のピアニストの音をはるかに越える音が鳴り響き、鍵盤の端から端までの全領域から豪快な音が立ち上がり、音楽は迫力満点で進んでいく。
まるで、シベリアの原野を、重たい客車を引きずりながら、ありったけの石炭を燃やしながら疾走する、巨大機関車のようなイメージが浮かんでくる。
この曲の特性として、ピアノは始終鳴りまくっているのであるが、マツーエフは常に全開で音を鳴らし、そこには繊細さや玄妙さといった芸術性にはなきに等しいが、しかしこの曲にはそんなもの無用とばかりに、楽譜が持っているパワーを、限界まで、いや限界を超えてまで解放し、やりたい放題で、輝ききらめく音をホール中に駆け巡らす。そのテンションは、エンディングに向けて、加速、増幅していき、最後は観客をぶん殴るかのごとき、和音の巨大な柱が群れをなしてステージから飛んできて、観客は圧倒されて、幕となる。しばしの沈黙ののち、観客からは大歓声、それから大拍手。
いやはや、凄いものを見せてもらい、聴かせてもらった。
まさに名人芸、ヴィルティオーソとはこの人のことを言うのだと思った。
CDで聴くだけでは分からない、生のコンサートの真の魅力を久々に経験できた。
香港100万ドルの夜景
香港といえば、その美しさから「100万ドルの夜景」と称される、香港一帯を見下ろすヴィクトリア・ピークからの夜の眺めが、一番の名物である。
しかし近年は中国大陸からの大気汚染物質により、空気がよどんでいるために、夜景はその美しさを減じてしまって、100万ドルは、今では「50万ドル」あるいは「10万ドル」なみにデフレを起こしてしまっていた。
私も4年前に初めて香港を訪れた時に、初日真っ先に観に行ったのが夜のヴィクトリア・ピークであったが、残念ながら天気は晴れなのに、あたりはガスに覆われ、靄った空気を通してのぼんやりした香港の夜の眺めは、たいして興あるものではなかった。
その後香港をいくど訪れても、空気のよどみは変わらず、そのうちこの100万ドルの夜景に関して興味を失っていたのだが、……今回香港を訪れたところ、終日空は澄んでおり、いつもたちこめていたスモッグのごときものは消散していた。
これは、香港訪問5回目にして初めて100万ドルの夜景を見るチャンスだと、夜にヴィクトリア・ピークを訪れてみた。
そしてそこから観る、香港の夜景。
じつに素晴らしいものであった。
海に陸の建物の明かりが映える、港町はどこも夜景が名物となるけど、香港の場合は、その光源である陸の建物群が複雑であり、それでここに独特の趣を与えている。
海に近き商業地区にある現代的ビルディング群は、LEDならではの鮮やかな明かりを放ち、かつスタリリッシュであるけど、そこから離れた居住地区の高層ビル群は、数十年も前に建てられたものであり、落ちついた人の生活を示すようなあたたかな橙色の明かりを灯し、これらの長い歴史が混ざった混淆の夜景が、香港というカオスな都市の魅力を一目みれば納得させる説得力をもっていた。
5回訪れて初めて経験することのできた、香港随一の名物「100万ドルの夜景」。
ようやく、その名前の通りの景色を観ることができた。
より以前の記事一覧
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