コミック:月夢 (著:星野之宣)
日本最古の物語である「竹取物語」は、月世界からエイリアンが地球に超常の手段でやってくるという、日本最古のSFでもある。それゆえ、SF作家の創作欲をかきたてる題材でもあって、いくつもの翻案が為され、作品となっている。
そのなかで、私が最も優れていると思うのは、星野之宣の「月夢」である。
「月に還ったかぐや姫を諦めることが出来なかった男が、執念の努力のすえ宇宙飛行士になって月までかぐや姫に会いに行く。」という、あらすじだけ書けばギャグ漫画すれすれの話なのであるが、これがどうして、ギャグの要素など一切ない、ハードSFの一大傑作となっている。
30頁ほどの短編ゆえ、内容を詳細に書くと全てのネタバレになってしまうので書かないが、テーマの一つは永遠のものを求め続ける男の夢である。それはあくまでも夢なのであり、夢であるがゆえに儚いものである。しかし、その儚さを知っていても追い続けねばならない、その悲哀が全編を覆っていて、胸に強く迫って来る。
そして、星野之宣ならではの緻密な画がまた見事なものである。
とくに主人公が宇宙服の姿で月上の寝殿造りの屋敷に現れるシーンは、名画「2001年宇宙の旅」のラスト近くのロココ調の部屋のシーンにも匹敵する、衝撃性と、美術性にあふれた名場面。その他、かぐや姫も天上のものらしい非現実的な美しさをもっており、とにかく全ての画面が素晴らしい。
映画「かぐや姫の物語」にも感心したが、「月夢」の傑作性を思い出し、この日本最古のSFは、優れた作家たちに刺戟を与え続けている名作なのだとも思った。
…………………………………
星野之宣 妖女伝説(2)