和食

June 16, 2019

大丸別荘@二日市温泉

【大丸別荘】

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 温泉王国九州において、福岡県は火山帯から外れているので、例外的に温泉の乏しい地であり、温泉掘削技術が発展するまでは、まともな温泉の出るのは二日市しかなかった。ただしその二日市は、万葉集の時代から記録が残る由緒する温泉地であり、そのためであろう、ここには一軒の有名な老舗旅館があり、福岡では(たぶん)唯一の高級旅館として全国から多くの客が通っている。
 今回大宰府を訪れたついで、そこに近き温泉宿である「大丸別荘」を訪れてみた。

【庭】

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 大丸別荘は幹線道路に面しているものの、高い塀が巡らされており、なかの具合は外からはよく分からない。なかに入ってみると、複雑なつくりの廊下を歩くうち、広大な庭が目に入る。それが3500坪もの敷地を使った回遊式日本庭園であって、樹々、石灯篭、池、橋、東屋等々が美術的に配置されており、二日市の町のなかに、このような贅沢な空間があることに驚きを覚えた。

【部屋】

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 大丸別荘は創業は江戸時代という老舗であり、それからいろいろと建て増しをして新旧混在の今の形になったのだが、今回泊まった部屋はそのなかで最も古い大正亭という建物のなかのもの。硝子の微妙なゆがみが、年代ものということを教えてくれる。
 部屋からは先ほど見た庭を見下ろすことができるが、この方向からの眺めもまた格別である。

【夕食】

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 夕食は会席料理。八寸、お造り、お椀、焼物、御飯。
 料理そのもの、あるいは素材に特筆すべきものはないけれど、どれもしっかりした技術で丁寧に造られた、高級旅館にふさわしい、安心感のある美味しい料理である。
 手際のよい和服姿の仲居さんの給仕で、風情ある部屋のなか、美しい庭を眺めながら食事をとっていると、高級旅館とは、すべてがそろった総合芸術みたいなものだなあということが実感できる。

【朝食】

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 朝食は小さな料理がたくさん並べられた楽しいもの。これもまたずいぶんと手間のかかるものと思われる。朝から食が進む進む。

【温泉】

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 温泉は大浴場と、それから大正亭宿泊客専用の貸し切り風呂を使ってみた。
 この貸し切り風呂、いわゆる家族風呂なのであるが、その広さにまず驚く。そしてこの浴槽は二つに仕切られていて、手前はぬるめなので、ゆったりと浸かっていることができる。
 温泉は当然源泉掛け流しで、泉質は柔らかめであり、かすかに硫黄の匂いがする。とてもいい肌触りの湯である。

 

 名旅館と知られる「大丸別荘」、初めて訪れたけど、建物、接遇、庭、温泉、料理、どれもが高水準のいい宿であった。また大宰府を訪れる機会があったら、ぜひとも泊まってみたいものだ。

 

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June 08, 2019

多摩川ランニング & てんぷら近藤@銀座

 金曜、「かわむら」で遅い夕食を食べたのち、土曜日の朝を迎える。
 ひさしぶりに肉をたらふく食べたので、やはり胃がもたれていて、どうにもすっきりしない。そして本日の夕方には、有名な天麩羅店「てんぷら近藤」に予約を入れていた。
 これはなにか運動しないと、夕食が入らない、ということで軽くランニングをすることにした。
 東京も梅雨は突入していたが、予報では曇り時々雨とのことで、ランニングには支障はないようである。そしてランニングに適したところをネットで検索すると、多摩川沿いの10kmを走るコースが信号もほとんどなく道も変化に富んでいて面白そうなので、行ってみることにした。

【矢口渡駅】

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 東京とは交通の便利のよいところであり、たいていの所は電車を乗り継いで行けば到着できる。
 多摩川ランニングのスタート&ゴールは、この矢口渡駅である。

【多摩川】

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 多摩川のコースは河川敷や土手を走ることが出来る。土手のほうが眺めが良いので、おもに土手を走ってみた。

【川崎市】

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 多摩川の向うは川崎市である。高層ビルディングが立ち並び、けっこうな都会だ。川崎市、行ったことはないけど、たいしたものであったのだ。

【多摩川大橋】

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 丸子橋で折り返して、そして多摩川大橋を渡って駅まで戻った。合計で約13kmのランニングであった。気温は高めだったけど、川沿いにはいい風が吹いていて、快適に走ることができた。

 

【てんぷら近藤】

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 走ったおかげでいい塩梅に腹もすき、夕方「てんぷら近藤」へ。
 この店は、野菜の天麩羅で有名であり、たしかにどれもいい素材を使って、その甘味旨味を高めるよう揚げていて、なるほどこれはたしかに評判になるわけだと思った。上の天麩羅は「甘甘娘」という、それだけでたいへん甘いトウモロコシを、天麩羅にすることによりさらに甘みを増している。
 そして近藤の名物は下の写真の「さつま芋の天麩羅」。さつま芋の甘さを生かす料理法といえば、まずは石焼き芋であるが、天麩羅でもそれができるはずとの考えで、手間暇かけて揚げ物にしあげたもの。たしかに甘みたっぷりであるが、それならべつに石焼き芋でもいいのでは、と思わぬこともない。

 てんぷら近藤は広い店で、カウンターに20人以上の客が並んでいるけど、高齢の店主は一手に揚げるのを引き受け、お弟子さんたちの指揮も行い、店全体を〆ている。まさに職人芸の極みであり、その姿を見ているだけでも、こちらの気も引き締まってきた。

 

 ……………………………

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May 11, 2019

徳山鮓@滋賀県余呉

【徳山鮓】

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 「徳山鮓」は琵琶湖の上にある小さな湖の余呉湖を見下ろす高台にある、発酵料理で全国的に有名な店である。
 ずいぶんと不便な所にあるのだが、それにはもちろん理由があり、自然豊かなこの地で獲れる川の幸、山の幸を専ら使っているゆえであり、この土地に店を建てる必要があったのだ。

【前菜盛合わせ】

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 前菜は季節の野菜、山菜、稚鮎、鹿のテリーヌなど。
 面白い形の器は、余呉湖の形を模したものである。

【造り】

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 造りは、鯉の刺身に、鮒鮓の卵をまぶしたもの。
 鯉はうまく処理できていて全く臭みはなく、歯ごたえもよい。鮒鮓の卵も濃厚な味で、鯉の淡泊な味をうまく支えている。

【山菜天麩羅】

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 山菜はもちろんこの地で採れたもの。コシアブラ、モミジガサ、コゴミ。
 山登りが趣味の者として、今の時期山のなかでは見慣れたというか、身飽きたようなものばかりだけど、極上の油と技術で揚げられたこれらの天麩羅は見事としかいいようのない出来栄え。

【ハム盛合わせ】

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 猪、鹿のハム。季節の野菜を添えて。

【熊鍋】

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 本日のメインは、熊肉に豪華にどっさりと花山椒を盛った熊鍋。
 花山椒の種類を変えたもので二種の鍋。
 花山椒の香りは鋭角的であるけど、熊肉もまたシャープなエッジの利いたものであり、互いの味がぶつかり合って引き立てているという感じの、鮮烈な印象を与える鍋であった。

 今では京料理では当たり前のように使われる花山椒だけど、それはこの店が走りだったそうだ。なぜなら余呉の山には花山椒がいくらでも獲れるため、それを豪勢に使うことが出来たから。今の時期はちょうどその時期なので、料理長は親子そろって毎日険しい山に入って、花山椒を採取しているとのこと。
 ただし、花山椒が高級食材として京料理に当たり前のように使われてしまうようになって、今では新しさを失ってしまったので、徳山鮓では花山椒を使った鍋は今シーズンで終了になるそうである。
 初めて訪れた徳山鮓であったが、ちょうど間にあってよかった。

【珍味三種】

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 これは熟鮓を使った、この店のスペシャリテ。鯖とチーズ、鮒鮓、鮒鮓サンド。
 どれも酸味とほのかな甘みをもった、上品で洗練されたものであった。
 鮒鮓は滋賀では郷土料理的なものであり、また家庭料理にも使われたりするのだが、これらの料理はそれらとは異なる、いわゆるプロの料理的なものであった。

【熊雑炊】

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 熊鍋は雑炊で〆ものとしてまた出て来る。
 熊の肉にはまったく獣臭さはなく、かえってあっさりとした脂と旨味が乗った出汁で、美味しい雑炊となっていた。

 初めて経験する徳山鮓、冬は雪に閉ざされる地にあることもあって、コテコテの保存食系の発酵食品みたいなものを想像していたのであるが、じつは全然違っていて、発酵を料理を旨くする技として自在に用い、素材の美味さを存分に引き出す、洗練された料理の数々を出す店であった。
 そういう意味では、こんな僻地でそんな料亭的料理を出さなくとも一瞬思ってしまたりもしたが、いやいや、この素材の料理を出すためにはこのロケーションではなければと、すぐ気付きもする。
 まったくこの店の料理はじつに魅力的であり、それゆえこんな不便な地にあっても、全国から客が来るわけである。

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April 20, 2019

串揚げ 六覺燈@大阪市

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 出張で久しぶりに大阪へ。
 夕食は何にしようかと思ったけど、大阪の名物は串揚げ、ということで「六覺燈」へ。
 旬の素材を用いた創作系の串揚げ店であり、一般的な大阪串揚げとはイメージが少々異なる、繊細で優しい味付けの串揚げがお任せで次々と出て来る。
 この店はワインでも有名で、「ソムリエのいる串揚げ店」という、少々珍しい特徴を持っている。それを生かして、同じ系統の串揚げを数セットごとまとめて、それにあうグラスワインをペアリングしてくれると楽しそうなのだが、そういうことはなくて、串揚げは各々ランダムにやって来る。それで白、赤、それに日本酒をあらかじめて並べて、来た串揚げにあわせて飲むことにしてみた。野菜系、魚系は白か日本酒、肉系は赤という感じであわせてみたけど、どれも大吟醸が一番あっていたように感じで、串揚げってやっぱり和食なんだよな、と思った。

 一通り食べておおいに満足。
 やはり大阪の串揚げは、美味しい。

 

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March 11, 2019

春の国東半島

 3月半ば、雪にしろ、花にしろ中途半端な時期であり、それでは古仏や寺を目当てに国東半島を散策してみることにしよう。

【両子寺】
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 国東半島は火山である両子山を中央に配する険しい地形の半島であり、それゆえ奈良時代から修験者の修業の場として開かれていた。そこにはたくさんの磨崖仏や寺院があり、歴史の刻みこまれた地である。そしてそれらのもので一番有名なのが両子寺の山門。この仁王像は芸術性高く、石段を背景に格調が高い。

【仁王像2】
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 先の山門を進み、次の石段ではまた仁王像がある。こちらは、少々くだけた表現の、庶民的な仁王像である。

【狛犬】
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 石段は続き、逞しい狛犬に挨拶して登って行く。

【道】
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 奥の院を過ぎると道は山道となる。

【針の耳】
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 百体の観音像を祀っている岩壁の隙間、針の耳をくぐってそれから下り道を行く。

【熊野磨崖仏石段】
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 両子寺の次は、これも国東半島の名所「熊野磨崖仏」へ。

【鬼の石段】
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 磨崖仏までは、鬼が一夜で築いたという伝説のある、乱積みの石段を登って行く。

【熊野磨崖仏】
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 階段の途中で、磨崖仏のある岩壁へ。
 この磨崖仏は不動明王を彫っているのだが、普通のものと違って柔和な顔立ちが特徴。
 そしてその隣には大日如来像も彫られている。

【清明石】
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 磨崖仏と奥社のお参りを済ませて、返りはパワースポットに寄ってみる。安倍清明由来の地だそうで、ここは見晴らしがよく、たしかに何かの「気」はありそう。

【海喜荘】
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 両子寺と熊野磨崖仏参拝ののちは、国東半島の東端にある、料理旅館「海喜荘」へ。
 このあたりは寂れた漁港町という雰囲気のところだけど、この旅館はオーバースペック気味に立派な建物である。おそらくこの地は、かつて栄えたことがあったと思われる。

【料理】
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 料理は国東で獲れた新鮮な魚介類を使ったもの。城下カレイに、平目、車海老、アオリイカ。どれも国東が海の宝庫の地であることを示す良いものばかりである。

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January 28, 2019

光洋で蟹とワインを楽しむ

 光洋で「蟹の会」があるとのことで、その日ワイン仲間と光洋で蟹とワインを楽しむことにした。
 店の扉を開けると、炭火で焼く蟹の香りが、店のなかに充満している。寿司屋なのに、ほぼ蟹料理店の雰囲気である。

【松葉蟹】
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 蟹は今が旬のズワイガニ。
 境港から直送の松葉蟹である。

【焼き蟹】
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 蟹の香ばしさを味わうには、焼き蟹が一番。香り、歯ごたえ、味、全てよし。

【蟹身】
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 蟹の身は自分で黙々とほぐして食べるのも良いが、店ではこうしてほぐしたものが出て来る。楽である。

【蟹鍋】
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 蟹鍋は岐阜の平茸と一緒に茹でたもの。
 蟹もよいけど、蟹の出汁をたっぷり吸った平茸もまた美味である。

【エゴンミュラー】
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 正月のドタキャン騒動で予約客に捨てられ行方を失ったエゴンミュラーであるが、それは可哀相なのでと、本日のワイン会で抜栓となった。捨てる神あれば、拾う神あり、ということである。というか拾ったのはW氏なんだけど。
 蟹料理に合うかどうかは微妙なワインであったが、それでも美味しいことは間違いないワインであった。


 九州だとズワイガニが近場にいないので、いいズワイガニを食べる機会が少ないのだけど、こうして良いスワイガニを仕入れて、それをまた上手く料理してくれる店が近くにあるのは幸せなことである。

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November 24, 2018

旅館:洋々閣@唐津市

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 唐津の老舗旅館「洋々閣」は、唐津という小さな地方都市にしては、規格外の文化遺産的価値を感じさせる旅館であり、訪れた人は一様におどろくわけであるが、それは唐津が以前には海上貿易の要所として、また背後に有する炭田の積出し港としておおいに栄えた過去を持つことに由来し、その栄えた時代に遊郭として建てられた由緒ある建物だということに依る。
 さらには唐津は先の大戦で空襲の対象にならなかったという幸運もあり、それで洋々閣をはじめとする歴史的建築物が数多く残されている。
 今回唐津を訪れたからには、やはり洋々閣に泊まってみようということで、宿泊。

【部屋】
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 落ち着きある和室からは、洋々閣の自慢の庭が見渡せ、その眺めはたいへん風情がある。

【食事】
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 唐津は海の宝庫玄界灘に面しているゆえ、とても質のよい海産物が豊富に用意できる。それらを使った、海の幸の数々。
 立派な料亭なみの、レベルの高い料理である。
 そして食事処からは、ライトアップされた庭を見ることができ、これも幻想的に美しい。

【庭】
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 翌朝に洋々閣の名園を散歩。
 樹齢200年を超える老松は、全てで100本を超えるという。それは常に専門家によって手を入れられ、日本画のような世界を形成しており、風格ある建物とともに、洋々閣全体としての美術品となっているようだ。

 建物、部屋、庭、料理、全てが高レベルであり、この旅館に泊まるためだけでも唐津を訪れる価値がある、そういう名旅館である。

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November 23, 2018

のんびり古湯温泉

 佐賀県の山間にある、小さな温泉街、古湯温泉。
 今年夏に泊まったとき、よい雰囲気の温泉地と思ったけど、今年のあまりの猛暑に温泉街を散策することなく宿から退散したので、秋になり、紅葉巡りを兼ね、その続編として訪れてみることにした。

【扇屋】
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 古湯温泉が古い歴史を持つ温泉であるけど、そのなか、やはり古い歴史を持つ創業130年になる老舗旅館の扇屋に宿泊。和歌の巨匠斉藤茂吉が懇意にしていたそうである。

【夕食】
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 扇屋の料理は、鯉料理が有名だそうだが、今は旬ではないので他の郷土料理をメインに。鯉のあらい、モクズガニ、こんにゃく刺身、山女甘露煮等、地元の食材を使った、素朴な、味わいある、料理の数々。
 そして佐賀は日本酒の蔵元の多い地なので、それらを使った利き酒セットもある。

【風呂:公式ページより】
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 古湯温泉は、人肌程度のぬるい湯で知られている。泉質は弱アルカリ性なので、そのぬるさもあいまって、柔らかな肌触りのよい湯だ。

【古湯温泉散策】
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 古湯温泉街は温泉街は石畳の道路沿いに、いくつもの温泉宿が立ち並ぶ、こじんまりしたつくりである。
 すぐ傍を山女が泳ぐような清流である嘉瀬川が流れ、まわりには色づいている雑木林の山が囲み、山間の自然豊かな景色が広がる。
 川で目立つ水車小屋は、現役であって、今も蕎麦粉を挽いているそうだ。

 のどかな雰囲気のなか、やわらかな湯の温泉宿で、のんびりと日を過ごすのは、極上の時間が流れるのを感じとれる。

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July 14, 2018

7月の俵屋

 祇園祭の山鉾を見に夏の京都を訪れたが、暑さは覚悟はしていたものの、想定以上に暑く、四条通りにいくつも立ち並ぶ山鉾のいくつかを見たのみで、それ以上の見物はあまりの暑さに断念して、本日の宿である俵屋に逃げ込む。
 俵屋は午後2時がチェックインなので、早めのチェックインが可能であり、たいへん助かった。

【俵屋旅館 桂の間】
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 暑い京都の街で焦がされ、青菜に塩、蛞蝓に塩の状態で部屋に入ったが、すでに空調のよく利いた部屋はたいへん快適であり、ここでビールなどを飲んでいると、干からびた青菜、あるいは蛞蝓の身がだんだんと水気ある元の人間に戻るのであった。

【俵屋二階の庭の景色】
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 本日の部屋は「桂」であり、二階の部屋である。
 俵屋は庭の見事さで有名であり、一階の部屋からは、その極めて精緻に造っている、水墨画のような庭をダイレクトに見られるのであるが、二階からはまた別の魅力を味わえる。
 庭に植えられた数々の樹々は、二階の高さで枝を存分に伸ばし、そこで木の葉が風景を埋め尽くしている。そして 夏は圧倒的な生気を持つ緑の葉に満ちていて、それらは、日の向きにより風情を変えていく。
 完璧なまでに磨き上げられた硝子窓は曇りひとつなく、この窓枠のなかに、樹々の緑は風景画のようにはまり、それが時とともに表情を変えて行く、生きた絵画というものを部屋のなかからじっくりと眺める。
 俵屋ならではの、贅沢な時間が楽しめる。

【夕食】
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 造りは、アコウ、マグロのヅケ、鱧湯引き。
 アコウの造りの包丁の入れは俵屋独自の繊細なもの。そして夏の京都名物の鱧は、やはり歯ごたえも味も見事。

 これも夏の名物、琵琶湖の鮎の笹焼きは、鮎の香りがこうばしく、頭からかじって味わう内臓のほろ苦さと、それに独特の香りが素晴らしい。

 さらに、これも夏の京都名物、鱧鍋。
 本来なら夏に鍋など食べる気にもならないのだが、この手のあっさりとした、しかしコクのある料理はまったく別である。

 俵屋にはけっこうな数を来ているけど、7月に訪れるのは初めてであり、そしてこれらの料理は初めて食べるものが多く、どれも感心して食べられた。

【朝食】
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 俵屋の朝食はワンパターンであるけど、焼き魚、湯豆腐、香のもの、山椒じゃこ、等々全てが美味しい。朝から幸せになれる朝食である。

 俵屋、ひさしぶりに泊まったけど、やはりとてもレベルの高い宿だと思う。
 個人的には、日本一の宿だと思っている。

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March 03, 2018

旅館:たから湯@西人吉

 山間の温泉地人吉の、明治創業の老舗旅館「たから湯」。
 もとは豊富な温泉をいかしての湯治宿だったのだが、今のオーナーが、温泉に加え宿泊そのものが旅の目的となるような魅力的な宿にしようという思いでリフォームを行い、それからは人吉では異質の、独自の個性を持つ宿となっている。

【庭】
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 旅館はなかに入ると、大まかな造りは古民家のようであるが、調度品はどれでも一流の洋風のものであり、その対比がおもしろい。
 そして部屋に案内され、庭を見ると、紅梅が満開であった。

【部屋】
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 和と洋の調和が、この宿のコンセプトらしい。
 部屋は二部屋からなり、和室と洋室である。
 洋室のほうは、ソファ、椅子、それにベッドの質がすばらしい。

【大浴場】
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 現代風な趣が強いロビー、部屋とはことなり、大浴場は昔からのものが保存されており、湯治の雰囲気を残したままのレトロなものである。
 源泉掛け流しの湯は、とてもきもちがよい。

【夕食】
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 「たから湯」の夕食は、ダイニングにて。このスペースもまたテーブル、椅子、すべて一流のものが揃えられており、美しい空間であった。
 そして食事は、球磨川流れる山深き地人吉、という場所からは、ジビエや山菜などをふんだんに使うようなものを予想していたら、まったくちがって本格的な会席料理であった。
 まず前菜から、その繊細で丁寧な仕事に印象を受ける。
 椀物は蛤真丈で、蛤の濃厚な味がうまく描出されている。
 造りは赤貝とサヨリで、山のなかで食べるようなものでもないのだが、とても良い素材である。焼物は鰆で、炊きものは甘鯛であり、これもまた同様にいい素材であり、そして調理もそれを生かす技術の高いものである。

 見てわかるように華やかな演出を行った料理の数々であるが、それを盛る器がまたどれも質の高いものばかりであった。

 全体として、一流の和食店に引けをとらない、旅館の枠を超えたような、見事な料理であったと思う。

【朝食】
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 朝食は、夕食とは変わって、地元の野菜や、名物を使った、田舎風の素朴なもの。
 これもまた美味しいものであり、この宿では、二通りの料理に味わいかたをできる。


 宿のつくりも、温泉も、接客も、そして料理もどれも高レベルのものであった。
 だいぶと前に、旅慣れた人から、人吉の「たから湯」はいいよと教えられ、ずっと気にはなっていたが、いざ訪れてみると、たしかに素晴らしい宿であった。
 そして、人吉といえば、やはり鮎が食の名物なので、いつか鮎の時期にまた来たいと思った。

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