映画 キャッツ
ミュージカル「キャッツ」の実写版映画。原作は世界で最も人気のあるミュージカルだし、それにスター達が出演するということで注目はされていたが、いざ米国で公開されると、その怪作ぶりのみが話題になり、映画そのものは大コケに終わった、という不幸な作品。
それでも映画館で観た予告編での映像・音楽は雰囲気のよいものだったし、さらにはそれだけ評判が悪いとかえって観たくもなる。そういうわけで映画版キャッツ観賞。
私の事前情報といえば、先ほど述べた酷評と、それから以前に映画館に貼ってあったポスターにジュディ・デンチ、テイラー・スウィフトの名前が出ていた、ということくらい。それだとジュディ・デンチがグリザベラ、テイラー・スウィフトがジェミマかな? しかしデンチが今さらグリザベラ歌えるのだろうか、いや歌えるわけないから本職が吹き替えか。テイラー・スウィフトは歌はまったく問題ないけど、踊れるのかね、とか漠然と思っていた。
そういう情報のみで映画を観ていたのだが、出て来たグリザベラはジュディ・デンチと全くの別人である。そうなると老女が演じる役って、この劇ではグリザベラ以外にないので、ジュディ・デンチはいったい何を演じるのだろうと混乱する。というかこのグリザベラ、全然老いていない、現役感バリバリの中年猫で、なんか変だ。そしてテイラー・スウィフトは群猫のなか、どれを演じているのかよく分からなかったが、歌いだしてボンバルリーナと判明。となるとなんか大スターにしては役不足に思える。歌の重みからするとビクトリアを演じるべきだったのでは。…いや、あんな踊りはプロダンサーしか無理か。そしてジュディ・デンチはといえば、なんとオールド・デュトロノミー。これははっきりいって失敗。キャッツの終幕は、猫の扱いかたについて、じつに下らない歌詞を歌って〆るのだが、あの下らない歌詞を荘厳なバリトンで歌うから面白いのに、ジュディ・デンチのメゾでは軽過ぎて、その下らなさのみが目立ってしまう。ジュディ・デンチの演技はオールド・デュトロノミーの持つ威厳と慈愛をうまく表現していたけど、歌はどうにもならない。
さて映画全体の感想といえば、まずはオリジナルとは、ずいぶんと内容が違っているなあ、というものであった。オリジナルは、老雌猫グリザベラが主人公であり、個性的な猫たちの歌あり踊りありの宴会芸大会は、グリザベラの歌う「メモリー」への長い前座になっている。そして「メモリー」も二段構えになっていて、幾度かの転調ののちに、「Touch me~」と高い声で歌いあげるところが、ミュージカル全体のクライマックスであって、あそこで観客は誰しもガツンと来て、感動する。そういう構造になっている。
ところが映画では捨て猫の若い雌猫ビクトリアが主人公になっていて、その猫が「メモリー」の前に、それと同様の「孤独」をテーマとした曲を歌うので、そのあとで歌われる「メモリー」は二番煎じみたいな感じとなり、どうにもこの曲に心が入っていけない。それゆえそのあとのグリザベラの昇天もなんだかピンとこなかった。昇天のシーン自体も、怪しげな気球船が遭難覚悟で空に突っ込んでいくような妙なものであったし。
というわけで、原作ファンの者が観に行くと、頭に?マークがいくつも浮かんでしまう映画であり、そしてこの映画は原作ファンが客の大半を占めていたであろうから、映画の酷評もまたやむをえなしと言えよう。私も駄作とまでは思えないが、(なにしろ歌と踊りは素晴らしいので)、いろいろと残念な映画であったとは思う。
それでも部分部分ではいいところもあり、それらは原作ファンとしても楽しめるものであった。それらを紹介してみよう。以下ネタバレ少々あり。
【ミストフェリーズ】
原作では自信満々の魔法使い猫ミストフェリーズは、映画では気弱なマジシャンとなっている。
オールド・デュトロノミーがマキャヴィティに瞬間移動術で攫われたのち、オールド・デュトロノミーを取り戻すため、猫たちがミストフェリーズに魔法を使って戻すよう懇願する。ミストフェリーズはそんな凄い魔法なんて使えないので、その無理難題に困惑するけど、断るわけにもいかず懸命に魔法を使っているふりをして、そしてそれは当然上手くいかず泣きそうになる。
そこへ、自力で脱出したオールド・デュトロノミーが背後に現れ、よく頑張りましたというふうな慈愛の笑みを浮かべ、Oh, well I never, was there ever a cat so clever as magical Mr. Mistoffelees? と歌うところ。原作とはまったく違う筋になってしまっていたけど、ここは和めてとても良かった。
【アスパラガス】
落ちぶれた老俳優猫アスパラガスはイアン・マッケランが演じている。
キャッツはCGとメイク技術が高度なので、どの役者も猫にうまく化けているけど、ジュディ・デンチとこの人だけは、いかに猫の扮装をしようが、本人そのものであった。これが大スターのオーラというものか。
アスパラガスが若き日の自分の栄光の日々を思い出すシーンは、アスパラガスに今も燃え続ける役者魂を表しているが、それをイアン・マッケランは見事に表現している。
【スキンブルシャンクス】
キャッツのなかで一番の人気者、鉄道猫スキンブルシャンクス。鉄道が好きで好きで仕方がない鉄道オタク猫、なんだけど、映画ではオタク風味が減って、凄腕タップダンサーとして登場。快適な鉄道行進のリズムを、見事なタップスで刻んでいくのはじつに見ものである。単なる鉄オタ猫であった原作とは相当違ってしまったが、これはこれで素晴らしく、改めて原作の歌を聞くと、タップダンスの音がないのが物足りなくなってしまうほど。
などなど、みどころはそれなりにあったが、原作ファンにはあんまりお勧めできない映画ではあると思う。
そして、ミュージカルのほうのキャッツの知識がない人が、この映画を観たさいにはどのような感想を抱くのか、そちらにも興味を覚えた。
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映画 キャッツ 公式サイト
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