映画:翔んで埼玉
魔夜峰央作の「翔んで埼玉」は30年ほど前に出版された、埼玉を徹底的にディスったマニアックなコミックで、それを今回武内英機監督が映画化。
元々のコミックは当時埼玉に住んでいた魔夜氏が自虐を込めてギャグ漫画にしたもので、原作では東京で優雅に学生生活を送っていた主人公が埼玉県民ということがバレたため、逃亡生活に入ったところで、尻切れトンボで終わっていたと記憶している。
作者は「自分が埼玉から住居を移したため、さすがに埼玉県民でないものが埼玉をディスったギャグは描いてはいけないだろう」と弁解してたけど、いや普通にあれ以上は話の続けようがなかったのが真相だろと私は思っていた。あとを続けるとしたら、逃亡生活のあいだ埼玉県民と差別され続け窮乏のかぎりを尽くす、なんて話にしかならないだろうし、そこまでいくとギャグを通り過ぎてしまうだろうから。
というわけで、映画ではどのように改変して、うまく着地をつけるのだろうかと思っていたら、最初から主人公の逃亡までは原作そのままなので、少々驚いた。なにしろポリコレ無視のけっこう過激な台詞が多く入っていたから。
【コミックより】
この映画、そのつくりはお笑い満載のギャグ映画ではまったくなく、映画の世界は、関東地区は東京は一級市民のみ住むことを許された特別区であり、埼玉はその上級市民に奉仕する下級市民の住む低層区域であり、そして群馬は魑魅魍魎の跋扈する未開の地、というのが関東人の常識とされているディストピアなのであった。その世界を役者は真面目に、時に鬼気迫るほどの真剣さをもって演じていて、一種の不条理劇が繰り広げられ、シュールな面白みが広がっていた。
【群馬@映画より】
そして、映画は魔夜峰央の耽美な世界をそのままリアルに映像化していて、演じる役者は主役、脇役、男女そろえて美形ばかり揃えていて、舞台背景道具もロココ調の貴族趣味で統一している。
ヴィスコンティ、とまではいかないけど、これほど手の込んだ繊細にして華麗な画面が続く映画って邦画では珍しいだろう。
映画は後半では原作から外れ、千葉VS埼玉の争いが始まるくらいからギャグ要素が入って来るけど、これが関東ローカルネタであり、「この場面って、あっちでは笑わせどころなんだろうな」と九州人としては反応に困るネタが続き、じっさい50人くらい入っていた映画館、そこでは笑い声は出なかった。
というわけで、後半はギャグ映画としてはイマイチだったのだけど、演出のテンポは快調であり、話はうまく伏線を拾いながら進んで、そしてなかなか感動的なエンディングを迎える。
そうか、この映画はまったく埼玉をディスってなく、どころかリスペクトしていたのか。さらには、ひどい扱いかた受けてた群馬、ああいうオチだったんだな。
笑いどころ沢山のバカ映画を期待して行くと戸惑うけど、しっかりした脚本を元に、芸達者な役者たちが熱演する(少々怪演気味のところもあったが)、邦画の良作であった
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映画:翔んで埼玉
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