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March 2019の記事

March 31, 2019

大善自然公園@延岡六峰街道

【六峰街道からの眺め】

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 九州脊梁山地の稜線を走る六峰街道は、その景観の良さから、ドライビングやツーリングコースとして有名だけど、その街道を走っていると、ETOランドの近くに「大善自然公園」の不自然なまでに立派な門が、誰しも目につく。
 この門、その扉は固く閉ざされており、中を窺い知ることは出来ず、ここはいったい何の施設なのか誰しも不思議に思う、延岡最大のミステリースポットとして、「大善自然公園」はあり続けていた。

【大善自然公園】

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 で、その「大善自然公園」の正体は何か?というと、じつは名前の通り、公園そのものなのである。ただし、一般の「公園」とは異なり、その成り立ちはかなりロマンがある。
 他県在住のとある資産家氏が、自分の理想とする公園を建設しようと思い立ち、九州のいろいろな土地を探したところ、延岡の山奥にそれを見出し、広大な敷地を購入して、そこに多額の費用を費やして整備を続けた。ある一人の理想を追い求める男の、情熱の産物なのである。
 そして、その構想はとても雄大であったため、完成には数十年の歳月がかかったのであるが、ようやく理想形の完成に近づいて来た。そしてオーナー氏は身近の人にのみ公園を開いていたのだけど、延岡にとんでもない公園があるという情報を得た宮崎県北の観光促進NPOノベスタが動き、オーナー氏の御好意を得て、一般の人にも公開するプレオープンが行われることとなり、物見高い人たちがそれにわらわらと応募して、公園内に入る、ということができた次第。私もその物見高い者の一員として、延岡の秘境に在る、驚異のワンダーランド「大善自然公園」を訪れてみました。

【駐車場】

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 白い象が守る門をくぐると、すぐに駐車場がある。そのとんでもない広さにまず驚いてしまう。

【徒歩隊】

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 今回の参加者は、歩いて散策する人たち20名と、自転車で全体を回る10名の計30名。オーナーの解説を受けながら、まずは徒歩隊が出発。

【自転車隊】

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  徒歩隊に引き続き、自転車隊も出発である。道路は基本的に舗装はされていないので、マウンテンバイク使用。

【山神社】

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 公園内には、和から漢までいろいろなものがあるけど、最初は「山神社」がお迎え。

【林道】

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 林道は整備されて走りやすい。

【幸運の門】

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 幸運の門をくぐると、幸運になれるアイテムがいっぱいそろっています。

【幸運の玉】

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 巨大な御影石を磨き上げた「幸運の玉」。なでるとなんかいいことがありそうで、みななでています。

【七福神】

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 幸運の場なので、当然七福神もずらりと並ぶ。

【池、滝】

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 地形を上手く使って、滝と池を造成。
 オーナー氏がこの地を選んだのは、この山域で、水が十分に流れているのはここだけだったからということである。

【ほたる池】

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 清冽な水を生かして、蛍の養殖も行われている。
 6月下旬には公園内を蛍が飛び交い、それはきれいだそうだ。

【モミジの園】

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 たくさんのモミジが植えられた園。
 公園内にはモミジの樹が多く、秋には見事に染まるそうだ。それで、ノベスタは秋の訪問も企画しているそうである。
 このモミジ園の上方には、「古代中華テラス」とでもいうべき庭園があり、始皇帝の巨大な像が見えている。

【漢城へ】

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 石灯篭に誘われ漢城門への坂を登って行く。

【漢城門】

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 兵馬俑の武士俑が守る門。その奥にも武士俑や、戦車、馬の像がずらりと立ち並ぶ。

【桃園の誓い】

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 入ってすぐに、三国志の「桃園の誓い」の場面を表した像がある。

【始皇帝像:下の画像はノベスタ撮影】

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 その向かいには、始皇帝の巨大像。始皇帝が先の劉備、関羽、張飛像を見守る、という意匠らしい。
 この庭園は見晴らしがよく、腰かけ、テーブルも用意されており、休憩するのにもってこいの所である。

【展示館】

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 先ほどのモミジ園に戻り、この建物に入ってみる。この建物は、一種の秘宝館であり、たいへん珍しい宝物が納められているのである。

【剥製群】

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 建物のなかには、パンダの剥製。現在では国際条例でパンダの毛皮や剥製の輸入は禁止されているので、もう新品は日本に存在しない、という貴重なものである。他にも虎、白熊、狼等の剥製。これらもまた珍しいものである。
 延岡の山奥に、こんな秘宝が隠されていたのだ。

【林道】

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 昼食休憩後は外周の林道を自転車走行。道がラフで、傾斜も急なので大変。
 ノベスタとともに公園訪問を企画したミッチー氏は、コースが面白いので、いずれこの地でもサイクリング大会を開きたいとのことであった。

 

 大善自然公園は、オーナー氏が高齢なので、いずれはこの公園を公的機関に譲渡して、みんなで楽しめるものにしたいとの希望をもっている。その最初の候補は当然延岡市ということになるのだが、維持費が年間数百万円かかることから、貧乏自治体の延岡市としては二の足を踏んでおり、それで他の自治体に今は話がまわっている状況、とのことであった。
 情熱ある個人が一代で耳目を驚かす巨大な施設を造り観光名所になるものの、しかし時がたちそれを維持する後継者がいなくて、結局は廃墟と化していってしまう、そういう話はじつは多くて、それには明石の平和観音寺とか福井の越前大仏などがすぐに例として思い浮かぶ。
 けれども、宮崎には高鍋大師のように、地元のNPOによって維持され、町を象徴する施設にまでなった例もあるので、それにならって、この豪快でユニークでそして唯一無二の施設が延岡の山のなか、人々の訪れる施設として在り続けることをせつに願う。

 

 

 

 

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March 30, 2019

大海寿司&別府の変遷

 ひさしぶりに別府を訪れてみたら、ずいぶんと人の通りが多いのに驚いた。
 以前は閑散としていた駅前通りは、若者受けしそうな、カジュアルな新しい店が何軒も出来ており、食料品店もまた多く立ち並んでいる。
 そして道歩く人は異国語を話す人も多く、別府って、インバウンド効果が如術に現れている街だなあ、と実感。

【料理&鮨】
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 大海寿司に入って、「なんだか人が増えましたねえ、数年前までは閑散としていたのに」と言うと、とにかく別府のいたる所で外国人観光客が増えてきた、とのこと。路地の少し奥まったところにある大海寿司にも、ときおりひょっこりと外国人観光客が顔をのぞかすことも増えてきたそうで、………まあ、そのあとのことの話まではあえて聞かないことにしました。

 大海寿司の料理、豊かな海産物に恵まれた大分の、そのなかでも特上のものを使った素晴らしい料理の数々を楽しむ。今が旬のオコゼに、アオリイカ、赤貝、関鯖、車海老等々。どれも本当に美味しい。

 別府は、観光客はおもに温泉を目当てに訪れるわけだけど、ここは食の宝庫の地でもあるので、料理でも「とり天」以外の名物をどんどん出して、そして「食の地」としても有名になってほしいと思った。

 ………というふうなことを話すと、別府は宿泊のキャパが全く足りなくて、ホテルも何軒か新たに建設はしているものの、現在の空前の人手不足が災いして従業員が集まらずうまく稼働ができない状況であり、なかなか大変なのです、とのことであった。

 ほんの数年間までは、別府はあまりに人がいなくて、廃墟になってしまいそうなので、NPOが人を集める運動をやっていた、そういう時代があったのに、変われば変わるものだと私は感心したのであった。

 

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春の由布岳

 週末の予報では寒気団が大分まで下がり、九重の最低気温は4℃とのことで、そうなると標高1400m以上では霧氷が楽しめるだろう。では、由布岳の御鉢巡りにでも行ってみよう。
 しかし登山口に着くと、気温はたいして低くなく、そして向かいに見える由布岳もまったく白くなっていない。これは外れか、と思ったが、引き返すわけにもいかないので登って行く。

【由布岳】

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 由布岳一帯は野焼きした後で、野原に焦げ跡も生々しく残っている。では野焼きの野を行こうと、稲盛ヶ城経由で登ることにした。

【登山道】

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 野焼きは草も樹も全部火につつむはずだが、こうやって灌木が何本も生き残っているのはどういう機序によるものだろう?

【稲盛ヶ城山頂】

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 稲盛ヶ城山頂。ここから見る由布岳は、ぐっと近くなるので迫力がある。

【稲盛ヶ城山頂】

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 山頂には他にも柴犬連れの登山者が。

【登山道】

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 いったん下って、由布岳正面登山道を登って行く。馬酔木が満開であった。

【登山道】

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 淡々と歩を進めて行くうち、さっき登った稲盛ヶ城が、だいぶ下に見えるようになった。

【障子戸】

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 マタエに着いて御鉢を覗いて、霧氷などまったくないことを確認。とりあえず、西峰方向に向かう。障子戸は渋滞中であった。

【御鉢】

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御鉢の岩場。雪も花もないので、あじけない。

【登山道】

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御鉢巡り途中で東登山道方向への分岐で下山することにした。

【日向越】

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 東登山道と正面登山道の分岐点である日向越は、馬酔木の群生地になっており、丁度満開の時期だったので、花々を楽しめた。

【由布岳】

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 正面登山口に戻り、由布岳を振り返る。やはり形のよい山である。

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March 24, 2019

登山:泉水山~黒岩山@九重

 マンサクを目当てに佐渡窪を訪れ、そのまま長者原のホテルに一泊。
 今年は暖冬でこれからは春山のシーズン、のはずだったが、夜温泉に入っていると寒くて雪が降ってきた。まさか雪見風呂が楽しめるとは思っていなかった。そして夜が明け、外を見ると、あたりはうっすらと雪が積もっている。
 日曜24日は久住か三俣でも登ろうかと思っていたが、それらの山は霧氷で白く覆われている。今シーズン最後の雪山が楽しめる、と思いつつ、そういう事態は想定していなかったので、冬用装備を持ってきていない。なによりサングラスを持ってきていないでの、日の当たる霧氷の道など、それなしだと目が痛くなる。
 それで遠目に霧氷を楽しもうと、三俣山と正対する位置にある泉水山へ登ることにした。

【長者原から】
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 長者原から見る三俣山。逆行で分かりづらいが山の半分ほどは霧氷で白く染まっている。

【登山道】
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 長者原から泉水山へと登る。最初のほうは防火帯を使っての登山。野焼きをしたばかりみたいで、周囲には焦げた匂いがまだ残っている。そして遠い草原も、今野焼き中のようで煙が立っていた。

【登山道】
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 林のなかに入ると、道には霜が降りていた。

【三俣山】

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 朝のうちは寒かったけど、10時を過ぎると気温が上がり、向かいの三俣山の霧氷は9割かた溶けていた。

【稜線の馬酔木】
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 泉水山から黒岩山にかけては馬酔木の群落がある。まだ蕾であり、満開にはあと10日くらいかかりそうだ。

【大崩ノ辻】

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 稜線から大崩ノ辻へ寄ってみる。ここから見る涌蓋山の眺めが見事である。

【マンサク】

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 大崩ノ辻の鞍部はツクシシャクナゲの名所であるが、今の時期はマンサクを見ることができた。

【黒岩山山頂】

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 黒岩山山頂にて。ここにもマンサクがあり、開花を見ることができた。

【三俣山】

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 三俣山を見てみると、霧氷はすっかり溶けてなくなっていた。

【馬酔木】

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 泉水山から黒岩山にかけては蕾であった馬酔木だが、長者原の高さまで来ると、もういずこの馬酔木も開花していた。そのなかで一番見事だったのが、馬酔木茶屋前の馬酔木。さすが人の手が入っていると、咲きかたも格があがる。

【阿蘇の野焼き】

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 帰宅の途上、阿蘇は野焼きの真っ最中で、阿蘇から久住高原にかけては、煙がもうもうとたなびき、視界が悪かった。

 予想外の寒波到来で春の気分が損ねた日であったけど、とはいえ季節は確実に春に向かっているのであった。

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March 23, 2019

マンサクを見に九重佐渡窪へ

 九州の山では主な花の咲くのは、福寿草→マンサク→馬酔木→ミツバツツジ→アケボノツツジといった順であり、3月中旬からはマンサクの順番である。
 それでマンサクの群生地のある九重の佐渡窪へと行ってみることにした。ただ佐渡窪にだけ行ってもしかたないので、鳴子山経由で佐渡窪を訪れることにしてみた。

【一番水登山口】

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  一番水登山口、駐車場はほぼ満車である。やはりマンサク目当ての人が多いのか?
 正面に見える鳴子山は山頂には雲がかかっていて、全体は見えない。

【四千本桜】

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 このルート上の名物、くたみわかれの四千本桜は、まだ蕾もつけていない。

【登山口】

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 四千本桜が終わってしばらく歩いたのち、鳴子山への登山口がある。トラロープが張っているけど、進入禁止というわけではない。

【稜線】

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 急傾斜の尾根をのぼりつめると稜線にと出る。すると風が強く、その風がたいへん冷たい。暖冬のシーズンだけど、本日九重の上空には寒気団が到来していたらしい。

【鳴子山山頂】

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 冷たい風とともに粉雪も降るような、冬に逆戻りしたような天候のなか、鳴子山山頂に到着。寒い。

【山頂から】

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 鳴子山山頂からの見晴らしは良好。稲星山、白口岳、中岳、九重の秀峰が見渡せる。

【稲星山】

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 稲星山まで来ると、標高もそれなりにあるので、霧氷を見ることができた。

【鉾立峠へ】

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 稲星山から白口岳に行き、それから鉾立峠へ向かって高度を下げて行く。この山腹も霧氷が見事であった。

【大船山】

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 東方向はずっとガスがかかっていて展望がよくなかったけど、午後になってようやくガスが晴れ、本日初めて大船山の姿を見ることができた。

【鉾立峠】

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 九重交通の要所、鉾立峠。下りてきた方向を振り返れば、高くそびえる白口岳の姿が見える。

【マンサク@佐渡窪】

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 鉾立峠から佐渡窪へはすぐに到着する。
 マンサクは佐渡窪では時期を過ぎていたようだが、山腹の高いところにあるものはちょうど時期のようであった。

【マンサク】

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 マンサクは高い樹で、そしてその高いところに花をつけるので、近くで見ることはなかなかできない。そのなか、近接して見られたものを撮影。この花、「山の錦糸卵」とも呼ばれているけど、まさにそういう形である。

【登山道】

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 佐渡窪からは鍋割峠を越えて下山。
 その途中、大船南西尾根への入り口が進入禁止になっていた。九重は崩れやすい山なので、環境保護のため、どんどんと登山道が閉鎖されていて、それによってルートの取り方が単調になってしまってきている。まあ、しかたないのだけど。

【鳴子山登山口】

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 鳴子山登山口、行きはトラロープが張られていたけど、帰りには撤去されていた。

【一番水登山口】

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 スタート地点に到着。出発時は雲にかくれていた鳴子山山頂は、いまはすっきりと晴れた青空のもと、その形良い姿を見せていた。

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March 16, 2019

台湾料理:麗白@小倉

 小倉の台湾料理店「麗白」で夕食。
 ここは台北の老舗料理店「欣葉」で料理長を務めていた人が小倉に開いた店で、欣葉直系の本格的台湾料理が食べられるということで、人気の高い店である。

【前菜】
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 鴨燻製、蒸しトコブシ海鮮ソース、切干し大根のオムレツ、カラスミ揚げ、茹で海老、季節野菜、等々。見た目美しく、また味もそれぞれ特徴つよい。

【スッポンの薬膳スープ】
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 この料理は、麗白のスペシャリテ。薬膳というだけあって複雑で繊細なスパイスの使い方をしていて、旨味の奥に広がる余韻が特徴のスープ。スッポンはコラーゲンたっぷり。ショウガや芋、ブタ等の食感もよい。

【牛ヒレと季節野菜の炒め物】
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 野菜も牛もしっかりと火が通っていて、それによって更に素材の旨みを引き立てている。

【フカヒレと上海蟹味噌あんかけ】
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 上海蟹味噌の濃厚な味がとろとろの餡に溶け、それがフカヒレの染み込み、強い旨味の極致のような、力強い料理。

【大エビのチリソースとホタテ貝柱のマンゴーマヨ】
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 ぷりぷりの食感の海老に、弾力あるホタテ、それにマンゴマヨの味がぶつかり、華やかな食感と旨さを楽しめる。

 どの料理も、台湾料理ならではのスパイス、甘味、酸味がよく利いたものだったけど、そのバランスがとてもよいので、全体としては優しい味付けとなっており、箸がどんどん進む、まことに美味しい料理であった。
 九州ではこの手の高級系台湾料理はけっこう珍しい部類になると思うけど、この実力、貴重な存在であろう。

 

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キュリオス@シルクドソレイユ福岡公演

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 シルク・ドゥ・ソレイユ30周年を記念する作品ということで、彼らの芸の集大成みたいなところもあるショー。
 開演前に、ステージには産業革命の時代のころと思しき骨董品(サイズはでかい)が並べられ、真空管はピカピカと光り、蓄音器からはホーンよりレトロな音楽が流れ、それらはいちおう現役のもののようである。そして開幕して蒸気機関車が現れ、そこからアーティストたちが続々と現れ、それぞれの芸を見せる、というなかなか懐古的にして情緒的な演出。

 そして、いくつものショーが為されていく。これ、最初のシーンからは、ショーが進むにつれ文明が発展していくような筋書きなのかと予想していたけど、そういうことはなく、いつものごとくシルク・ドゥ・ソレイユ得意の大道芸に、筋力自慢の力芸が次々と披露されていく。それらには何のつながりがあるようにも思えず、昔のシルク・ドゥ・ソレイユがやっていた全体が統合された象徴的ストーリーというのからはずいぶんと離れたところに来た、という印象を受けた。

 まあそのほうが小難しいことは考えずに、アーテイスト達の人間離れした、超人的芸をありのまま楽しめるわけで、シルク・ドゥ・ソレイユを観たとき常に感じる、「人間って、鍛えればこれほどまでのことが出来るんだ」という感嘆が、より直接的に出て来る。

 まったくシルク・ドゥ・ソレイユは一貫して人間賛歌をやっているサーカス団であり、そのショーを観ると、何か勇気とかやる気とかが湧いてくる。
 福岡にシルク・ドゥ・ソレイユが来るたびに観にいっているけど、今回もいいものを観させてもらった

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March 11, 2019

春の国東半島

 3月半ば、雪にしろ、花にしろ中途半端な時期であり、それでは古仏や寺を目当てに国東半島を散策してみることにしよう。

【両子寺】
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 国東半島は火山である両子山を中央に配する険しい地形の半島であり、それゆえ奈良時代から修験者の修業の場として開かれていた。そこにはたくさんの磨崖仏や寺院があり、歴史の刻みこまれた地である。そしてそれらのもので一番有名なのが両子寺の山門。この仁王像は芸術性高く、石段を背景に格調が高い。

【仁王像2】
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 先の山門を進み、次の石段ではまた仁王像がある。こちらは、少々くだけた表現の、庶民的な仁王像である。

【狛犬】
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 石段は続き、逞しい狛犬に挨拶して登って行く。

【道】
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 奥の院を過ぎると道は山道となる。

【針の耳】
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 百体の観音像を祀っている岩壁の隙間、針の耳をくぐってそれから下り道を行く。

【熊野磨崖仏石段】
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 両子寺の次は、これも国東半島の名所「熊野磨崖仏」へ。

【鬼の石段】
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 磨崖仏までは、鬼が一夜で築いたという伝説のある、乱積みの石段を登って行く。

【熊野磨崖仏】
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 階段の途中で、磨崖仏のある岩壁へ。
 この磨崖仏は不動明王を彫っているのだが、普通のものと違って柔和な顔立ちが特徴。
 そしてその隣には大日如来像も彫られている。

【清明石】
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 磨崖仏と奥社のお参りを済ませて、返りはパワースポットに寄ってみる。安倍清明由来の地だそうで、ここは見晴らしがよく、たしかに何かの「気」はありそう。

【海喜荘】
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 両子寺と熊野磨崖仏参拝ののちは、国東半島の東端にある、料理旅館「海喜荘」へ。
 このあたりは寂れた漁港町という雰囲気のところだけど、この旅館はオーバースペック気味に立派な建物である。おそらくこの地は、かつて栄えたことがあったと思われる。

【料理】
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 料理は国東で獲れた新鮮な魚介類を使ったもの。城下カレイに、平目、車海老、アオリイカ。どれも国東が海の宝庫の地であることを示す良いものばかりである。

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March 08, 2019

映画:翔んで埼玉

Film
 魔夜峰央作の「翔んで埼玉」は30年ほど前に出版された、埼玉を徹底的にディスったマニアックなコミックで、それを今回武内英機監督が映画化。
 元々のコミックは当時埼玉に住んでいた魔夜氏が自虐を込めてギャグ漫画にしたもので、原作では東京で優雅に学生生活を送っていた主人公が埼玉県民ということがバレたため、逃亡生活に入ったところで、尻切れトンボで終わっていたと記憶している。
 作者は「自分が埼玉から住居を移したため、さすがに埼玉県民でないものが埼玉をディスったギャグは描いてはいけないだろう」と弁解してたけど、いや普通にあれ以上は話の続けようがなかったのが真相だろと私は思っていた。あとを続けるとしたら、逃亡生活のあいだ埼玉県民と差別され続け窮乏のかぎりを尽くす、なんて話にしかならないだろうし、そこまでいくとギャグを通り過ぎてしまうだろうから。
 というわけで、映画ではどのように改変して、うまく着地をつけるのだろうかと思っていたら、最初から主人公の逃亡までは原作そのままなので、少々驚いた。なにしろポリコレ無視のけっこう過激な台詞が多く入っていたから。
【コミックより】
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 この映画、そのつくりはお笑い満載のギャグ映画ではまったくなく、映画の世界は、関東地区は東京は一級市民のみ住むことを許された特別区であり、埼玉はその上級市民に奉仕する下級市民の住む低層区域であり、そして群馬は魑魅魍魎の跋扈する未開の地、というのが関東人の常識とされているディストピアなのであった。その世界を役者は真面目に、時に鬼気迫るほどの真剣さをもって演じていて、一種の不条理劇が繰り広げられ、シュールな面白みが広がっていた。
【群馬@映画より】
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 そして、映画は魔夜峰央の耽美な世界をそのままリアルに映像化していて、演じる役者は主役、脇役、男女そろえて美形ばかり揃えていて、舞台背景道具もロココ調の貴族趣味で統一している。
 ヴィスコンティ、とまではいかないけど、これほど手の込んだ繊細にして華麗な画面が続く映画って邦画では珍しいだろう。
 映画は後半では原作から外れ、千葉VS埼玉の争いが始まるくらいからギャグ要素が入って来るけど、これが関東ローカルネタであり、「この場面って、あっちでは笑わせどころなんだろうな」と九州人としては反応に困るネタが続き、じっさい50人くらい入っていた映画館、そこでは笑い声は出なかった。
 というわけで、後半はギャグ映画としてはイマイチだったのだけど、演出のテンポは快調であり、話はうまく伏線を拾いながら進んで、そしてなかなか感動的なエンディングを迎える。
 そうか、この映画はまったく埼玉をディスってなく、どころかリスペクトしていたのか。さらには、ひどい扱いかた受けてた群馬、ああいうオチだったんだな。
 笑いどころ沢山のバカ映画を期待して行くと戸惑うけど、しっかりした脚本を元に、芸達者な役者たちが熱演する(少々怪演気味のところもあったが)、邦画の良作であった
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 映画:翔んで埼玉

 

 

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March 03, 2019

飲茶:陸羽茶室@中環

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 香港最終日の朝は、定番の「陸羽茶室」で点心をいただく。
 香港で飲茶といえば、真っ先にこの店の名前が挙げられる飲茶の名店。「飲茶」というものの本質が詰められたような料理の数々をいただく。
 昔から連綿と受け継がれてきた素朴なものばかりだけど、それは伝統によって確立されたものであり、どの料理もそれぞれの個性をもって美味い。 この店はもう6回目だけど、家庭料理的に、飽きることのない味で、香港に来るたびにやはり食べたくなる料理である。
 ただし、餃子にしろ焼売にしろ、一品一品が大きいので、朝食としてはヘビーであり、この朝食を食うと昼食、夕食はいらねえやという気になるので、昼に香港を発つ最終日がいいです。

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March 02, 2019

四川料理:渝川菜館@湾仔

 広東料理、潮州料理と上品系の料理が続いたので、次の料理は湾仔の有名な四川料理店「渝川菜館」へ。  
 この店の料理は本格的四川料理だけあって、とにかくスパイシー。唐辛子は何種類も使いわけており、さらには山椒もふんだんに使っていて、メリハリの利いた辛さと旨味を楽しめた。
【四川凉麺、焼椒手撕茄】  
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 見た目に辛い焼きナス料理は見た目通り辛い。麺料理は四川の冷麺仕立て。これにもしっかりとスパイスが利いている。
【江津酸菜魚】
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 これは四川の名物料理で、魚を四川の漬物と、唐辛子、花椒で煮たもの。 たぶん日本では食べられないたぐいの料理で、種々のスパイスが複雑に絡み合っていて、刺戟的な味になっている。
【重慶辣子雞】
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 唐辛子と鶏を一緒に揚げたもの。とてもビールにあう料理。
【蒜泥青瓜】
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 胡瓜の浅漬けみたいな料理。辛さの口休めになると思いきや、これもピリリと辛い。
【農家回鍋肉】
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 香港風ホイコーロー。
 けっこう辛い料理のはずだが、このへんになると口が痺れて来て、よく分からなくなっていた。
【泡椒魚】
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 鰻の炒めもの。日本の鰻はもっぱら蒲焼や白焼だけど、香港では鰻はブツ切りにして油で炒めるのが主流みたい。身に弾力があって独特の歯ごたえ。
【麻婆豆腐】
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 四川料理といえば、やっぱり麻婆豆腐。本場の麻婆豆腐はやはり辛い。
 四川料理といえば、「辛い」のが特徴だけど、この店はたくさんの「辛いスパイス、辛い素材」を複雑に組み合わせての料理だったので、凡百の「辛いだけの四川料理」と違って、それぞれの料理に個性があり、美味しかった。
 ただ、なにはともあれ、どれも辛いので、あらかじめ心して食べるべし。

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幻想交響曲+レリオ:レ・シエクル管弦楽団

Berlioz

 香港最後の夜のコンサートは、ベルリオーズの幻想交響曲。
 初日のN響の現代曲シリーズと違い、ポピュラーな名曲であって、聞いていて分かりやすい。指揮者はマキシム・パスカル(Maxime Pascal)という若い人であった。初めて聴く人だったけど、若者らしくエネルギッシュできびきびとした気持ちのよいテンポで音楽を運び、この曲の良さを十分に表現していたと思う。
 そしてこの指揮者、注目すべきことは指揮法がユニークであり、指揮棒とともに身体全体を使って指揮を取り、演奏中指揮台の上でずっと踊っている。それが誇張でなく、プロのダンサーのごとき踊りで、それは当然ながら音楽に合っているので、たとえ耳をふさいでいても、その動きを観るだけで、今どのような音楽が流れているか分かるであろうほど。
 というわけで、聴くとともに、観ても楽しめた幻想交響曲であった。
 ただし今回の旅程を仕切った幹事氏は、「演奏はよかったけど、あの指揮スタイルは気に入らない」とあとで不平を言っていた。幹事氏はかつてクライバーの追っかけをやっていてカナリア諸島までも行ったという大のクライバーファンだったので、「クライバーだって同じように踊ってたじゃないですか」と言ったら、「いやまったく違う。クライバーは体幹がしっかりしていたので、動きがエレガントだったけど、今日の指揮者は、芯がなくて身体全体がふにゃふにゃで、あれじゃまるで『ひょっとこ踊り』だよ」とけなした。なんでこの人は宮崎日向のローカルな祭りのことを知っているのだろう、と不思議に思ったが、言われてみれば、たしかにあれはひょっとこ踊りであった。
 こうして私は、「マキシム・パスカルといえばひょっとこ踊り」と頭にインプットされてしまった。

【参考:日向ひょっとこ踊り】
Hyottoko

 幻想交響曲のあとは、「レリオ」。朗読、声楽、管弦楽から成る複雑な曲である。
 この曲は元々は幻想交響曲とセットで創作され、そしてセットで演奏されるように作曲家から指示されていたのだが、時代がたつにつれ幻想交響曲は残ったけど、この曲はほぼ忘れ去れてしまったので、現在ではそのようの形式で演奏されることは滅多になく、今回の試みは希なものである、ということである。よほどのベルリオーズファンでないと聴いたことないたぐいの音楽であり、じっさい今回の一行も誰も聴いたことなかった。
 香港芸術節は、プログラムに先端的なものや、通常で行われないものを取りこむのが好きなので、これもその試みの一つであろう。

 この作品はまず舞台上の俳優による朗読から始まる。俳優は観衆に向かってフランス語で語りかけ、聴衆は泣き所とか笑い所ではなにか反応しないといけないだろうけど、字幕も出ていないので、まじめにリスニングに勤しむ。ただその内容は、poison, désespoir, tortures…と陰気な単語が続き、鬱々と、失恋というか見向きもされない恋の苦しみを語るものであり、要は我々が標題音楽「幻想交響曲」で知る内容の、解説版みたいなものであった。ついでながら全編通じて笑わせ所は全くなかった。
 音楽そのものに関しては、この作品が忘れられていったことが分かる、そのようなものであった。すなわち「幻想交響曲」に比べると、一段二段落ちる、つまりは魅力がない。それで少々退屈な時間を過ごしていたのだが、そうなると困ったことが生じて来た。
 隣の客が、寝だして、さらにはイビキまでかきだしたのである。音楽会で寝てイビキをかくなんて会場内のテロ攻撃みたいなもので、客として最も行っていけない行為である。さらには我々の座っていた席は実質最前列であり、演奏者にもとても近い。この世で最も耳の良い職業人の集団を前に堂々とイビキをかいて寝られる、その外道ぶりに、私は驚き呆れたのであるが、まさかそのままにもしておけず、寝たと同時にゆり動かして起こすことを何度も何度も行うことになり、注意力が散漫してしまった。

 …残念ながら音楽会で寝る人って、少ないながらも常にいるわけで、クラシックの音楽会って値段もけっこうするのに、そこにわざわざ寝に来る人が一定数いるというのは、私にとって大きな謎の一つである。

 とかなんとか考えているうちに、音楽は最終章のほうに行き、朗読者は音楽家ということが分かり、舞台は現実の世界に変じて、演奏家たちも舞台上の役者の一員として演奏を行うという、面白い仕組みの作品であったことが判明。
 朗読者=音楽家は、演奏が終わりのほうで、オーケストラの演奏を称え、演奏者たちもそれに応え、そして幕。こういうメタ表現のクラシック作品は初めて見たけど、話のネタにはなったので、いい経験だったとしよう。

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広東料理:龍景軒@香港中環

 広東料理に関して、香港随一の格を誇る「龍景軒」。
 毎年の香港ツアーで必ず一度は寄ることになっている、中華料理ツアー本命の名店である。
 香港在住のメンバーがこの店の常連客(一時期は毎日通っていたという)であり、龍景軒の旬の味にとても詳しいので、その人にメニューを考えてもらい、お勧めのコースを組んでもらった。今回は15名という人数だったので、いつもの個室は使えず、二つのテーブルを使っての宴。

【点心】
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 昼の料理なので、まずは点心シリーズ。
 ぷりぷりの食感の蝦蒸し餃子、焼豚腸粉と小籠包は普通の店のものと違ってとても上品な味。そしていかにもこの店らしい高級感漂う黒トリュフと蟹肉の春巻。

【前菜】
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 これは特別注文の子豚の丸焼き。あらかじめ予約しておかないと出てこない。
 丸焼きと言っても全部の部分を食べるのではなく、パリッと焼いた皮のところを脂と一緒に食べる、北京ダック方式。初めて経験する料理だったけど、食感、香り、脂の旨み、見事なものであった。

【肉料理】
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 肉料理は子鳩のクリスピー焼と蛙のジンジャーソース炒め。
 とにかく素材が良く、それを引きたせる調理もまた素晴らしい。

【スープ1】
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 これは松茸と茸のスープ。松茸も中華料理に使うのだけど、日本の使い方とは違って松茸は香りを支配していず、いろいろな茸の香りと合わさって、複雑な香りの料理となっていて面白い。

【スープ2】
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 豆苗、ピータン、塩玉子の上湯煮。いろいろと個性の強い具の入った上湯煮。もとの上湯が優雅な味で、それでこれらの具材の味もまたうまく引き出されている。

【スープ3】
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 茸と筍のチキンスープ。
 このスープは常連氏一のお勧めで、たしかに鶏の出汁が尋常でなく濃厚で美味。

【魚介】
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 海鮮を使った料理は、ホタテの卵白茶碗蒸し紹興酒ソースとエビのニンニクと豆豉チリ炒め。この店の特徴である、「極上の素材と、極上の調理」を徹底的に味わえる。

【煲仔飯】
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 〆はいつもは麺か炒飯だけど、龍景軒にボージャイファンが出せるということなので、どんなものか興味をもった一行によるリクエストにて、それを予約注文。
 この牛肉炒めのボージャイファン、じつに繊細で上品な料理であるが、それゆえワイルドな火の料理のはずのボージャイファンの特徴はまったく出ていず、この料理のみ皆の不評を買っていた。まあ、龍景軒らしい料理であることは事実であった。

【デザート】
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 デザートは定番でありこの店のスペシャリテであるマンゴーサゴクリームに、杏仁ミルク。じつに美味。

 それにしても、こうやって改めて並べてみると、けっこうな数の料理を食べたものである。そして、これは昼食なのに3時間半かけて食べたため、可能であった。
 中華料理は、香港の店ではさっさと出て来て、さっさと食べることが多いけど、この店はさすがに別の時間が流れており、他の客達も同じように、優雅にして緩やかな時間を過ごしていた。

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March 01, 2019

潮州料理:創発@九龍城

 かつての魔窟、現在もあやしい雰囲気を残している街、九龍城にある潮州料理の名店。尖沙咀でタクシーの運転手に店の名前を告げると、あっさりと店まで行けたので、地元でもけっこう有名な店と思われる。
 有名店であれど、店の外観と中は、もっぱら地元民の使う中華大衆食堂という感じであり、知らないとまず訪れない店ではある。

【創発】
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 店の前には、潮州料理のシンボルである生鮮魚介類の水槽。
 客はこれらの素材を選んで、料理してもらうことが可能である。

【店内】
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 店内入ってすぐには、このように料理が並べられている。これらは温めるだけで、すぐにテーブルに運んでくることができる。

【店内】
1menu

 店内にはこのようにずらりとメニューが書かれてある。
 中華料理の特徴として、これらは一品だけで4~6人前はあるので、本場の中華料理を食べに行くときは、人数をそろえて行く必要がある。そうでないと、一皿だけで満腹、ということになってしまう。

【鶏のスープ】
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 いろいろなメニューを頼んだけど、最初に出て来たスープでみな感嘆。
 鶏の出汁は濃厚なのに、くどくなく、旨さだけを取り出したような感じのもので、この店の料理の技術の高さがよくわかった。
 なかの具材の、茸、野菜、それにフカヒレも上質なもの。

【料理】
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 頼んだ料理をずらずらと。
 巨大蝦蛄の唐揚げは、蝦蛄そのもの自体が見事。鶏肉は無駄な味付けを抑え、鶏の味そのもので勝負している。鵞鳥の肝はまったく臭みやえぐみがなく、とても上品な味に仕上げている。貝と野菜のスープ、豚肉ローストも素材の味重視の立派なもの。
 どれも美味であったが、ただ料理によっては日本人にとっては塩味が強めなものがあり、その手のものが苦手な人にはちょっと困るかも。

 この店は前評判通り、潮州料理の名店であって、まだまだ注文できていないメニューがたくさんあることから、ぜひともまた来てみたい。

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歌劇:タンホイザー@香港芸術節2019年

Tannhauser

 吟遊詩人であるタンホイザーはエリザベート姫という恋人がいたが、清き乙女である姫との愛に物足りなさを覚え、愛欲の女神ヴェーヌスの統べる国ヴェーヌスベルクに赴き、そこで情欲の日々に溺れる。しかしタンホイザーはその生活に飽きてそこを去ろうとする。タンホイザーに惚れていたヴェーヌスは彼を引き止めようとするも、もうヴェーヌスに興味を失っていたタンホイザーは彼女を振りきって、元住んでいた国に戻り、姫とも復縁した。
 そして国では歌合戦が開かれ、そこでの歌のお題は「愛とは何か?」というものであり、歌手たちは騎士道精神に満ちた奉仕の愛の歌を次々に歌いあげる。それを聞いていたタンホイザーはその欺瞞性に腹を立て、さらには俺は本当の愛欲というものを知っているのだぞと自慢したくなり、ヴェーヌスを称える愛欲賛歌を朗々と歌い、その場にいた騎士達や領主から総スカンをくらい追放されてしまった。
 一時の私憤で全てを失ったタンホイザーはうろたえ、元の生活に戻るためにローマまで行って教皇に赦しを乞うのだが、「お前のような罪深きものが赦されることは永遠にないだろう」と冷たく突き放される。そういうことならばと、一回袖にしたヴェーヌスのもとに戻り、また愛欲の日々に浸ろうとヴェーヌスベルクに向かうことにした。そこへエリザベート姫の葬列が通る。エリザベート姫はタンホイザーの罪の赦しを得るべく自分の命を絶ったのだ。己の愚かさに悲嘆にくれ、姫の亡きがらにすがるタンホイザーのもと、ローマの教皇から使者が現れる。エリザベート姫の願いが聞きいられ、タンホイザーの罪は赦されたのだとの知らせをもって。

 というふうな話。
 あら筋だけ書くと、いかにもつまらないというか、男にとって都合のいい話、というのはヴァグナーの楽劇の特徴ではある。しかし良い脚本を書く才能はなかったけど、音楽の創造については音楽史上希にみる才能を持っていた大天才の造り上げた作品だけあって、いざ幕があけ音楽が鳴り出すと、序曲最初のホルンの抒情的な調べから一気に音楽に引き込まれ、その旋律が盛り上がっていきトロンボーンが咆哮するころには世界がこの音楽に満たされているような、圧倒的な迫力でもって劇は進んでいく。

 そういうふうに音楽はとてもよい。しかし、ヴァグナーの楽劇は、CDとかで聞くぶんにはそうも思わないのだが、劇場でライブを観ると、「筋はこんなにくだらないのに、何故こんなにも自分は感動してしまうのだろう」という感想が、どうにも頭のなかに浮かんでしまうのが常ではある。

 ヴァグナーの劇はだいたいワンパターンで、「情欲、情動に溺れた人物が、自らの救済を試みるも、己の欲の深さにそれはできず、結局は自分を愛する乙女の献身にてようやく救われた」というものである。タンホイザーは典型的なそれであり、ヴァグナーはその後もえんえんと似たような筋の楽劇を亡くなるまで書き続けることになる。
 ヴァグナーの伝記を読むと、ヴァグナー自体が情欲に溺れ続けた人であり、自身の懊悩を一貫して書き続け、そして己の欲望を音楽に浄化することによって己の精神を救おうとした、芸術家としてはある意味立派な人であり、しかし情欲から死ぬまで逃げられなかった点では、業の深い人であった。

 ただしヴァグナーの時代の倫理観は現在では少々厳しすぎる点があり、(もちろんヴァグナーその人のように、人妻ばかり手を出して、さらには自分の弟子の妻を奪って我がものにしてしまうようなのは、さすがに今の基準でも論外だとは思うけど)、あの時代の倫理観に基づくタンホイザーの苦悩について、現代人には理解しがたいことも多く、そのため今回の演出は、全体的にすべてを曖昧にした、観客によって解釈自由というふうなものになっていた。
 今回の演出を担当したビエイトという人は、独特のエログロ路線で有名だそうだが、べつにそんなに個性的な演出はなく、演出家自身の独自の解釈はあえて盛り込まず、ヒントは与えますが解答はありませんよ、といった抽象的な場面が続いた。これはつまりは演出家自体、タンホイザーについてよく分かっていなかった、あるいは現代の倫理観では観客をうまく納得させる解釈を作れなかった、というふうなことだったのだろう。

 そういうわけで、演出に関してはグダグダだったと思うが、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の演奏はさすが本場だけあって立派なものであり、ヴァグナーの偉大な音楽に酔いしれることができた。

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