ミュージカル:オペラ座の怪人@ケンヒル版
東京に行く用事があり、そのついでに何か面白そうなコンサートはないかなと探したところ、渋谷ヒカリエでの開演のミュージカル「オペラ座の怪人(ケンヒル版)」を見つけた。「オペラ座の怪人」、といえばもちろん天才アンドリュー・ロイド・ウェーバーによるものが有名だけど、それより先につくられたケンヒル版もなかなかの傑作との説明があり、それではと行ってみることにした。
オペラ座の怪人については、私はウェーバー版と、ルルーの原作しか知らず、ケンヒル版については何の予備知識もないまま観てみたが、たいへん面白かった。
劇の筋については、前半はほぼ原作に準拠したもの。
有名なウェーバー版は、じつはけっこう原作と異なっている。
ウェーバー版での主人公ファントムは、容姿にやや難はあるものの、極めて優れた音楽の才能の持ち主で、さらには演出、歌、演技、そして教育でも名人である。彼はその能力を十二分に生かして、若い魅力的な歌手をスター歌手に育てあげ、そして愛人にしてしまう。そしてやがてその愛人の歌唱力と容色が衰えると、彼女を捨て去り、また他の若い女性を同様に育てて愛人にする、ということを繰り返す、なんともけしからん男であり、まさに作曲者自身をモデルにしているかのような、まあそういう「人間味のある」怪人である。
しかし、ケンヒル版のファントムは、芸術面では圧倒的な才能の持ち主であることは変わりないが、人格画はまったく「非人間的」としかいいようがなく、己の欲のまま妄執に囚われ無慈悲な行動を続けるモンスターであって、その行動が様々な悲劇を起こしていく。
そういうファントムが主役となって筋を進めて行くので、このミュージカルは陰惨な物語になると思いきや、ファントム以外の登場人物は、歌姫クリスティーヌを除いては、みな変人そろいであり、彼らのやりとりは始終コミカルなものとなり、ファントムの毒が彼らによって中和される、なんとも微妙なダークコメディとなっている。そして、そこで流れる音楽は、どれも美しく、舞台の美しさもあいまって、全体的にはファンタジックな雰囲気に満ちている。
そうして、今回のミュージカル、肝心の役者の演技と歌が、これがまた高いレベルのものであった。まあ、主役にジョン・オーェン=ジョーンズみたいなミュージカル界の大スターを招聘しているくらいなので、それは予想できていたことだが、彼のみならず、出演者たち全体のレベルが高く、アンサンブルも見事なもので、とても素晴らしいミュージカルとなっていた。
この「オペラ座の怪人」。ウェーバー版のかげに隠れてあまり知られることないミュージカルだが、まったくアプローチの違う、そしてとても個性的なものであって、観てとても得をした気分になった。
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