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September 2018の記事

September 21, 2018

ロンドン行ったところ、見たところ

【大英博物館】
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 ロンドン随一の名所といえば、大英博物館。何はともあれここに行ってみよう。

【展示物】
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 膨大な大英博物館の収蔵物のうち、一番人気はロゼッタストーン。ここは常に大勢の人だかり。
 大文明を築いたエジプト王国において、王国の没落とともに、滅びてしまったと思われていた古代エジプト語(神聖文字)が、この石碑を手がかりにして解読できるようになり、古代のエジプトの書物が読めるようになった、歴史的記念物。
 学者シャンポリオンによる神聖文字の解読の物語は読んでいてとても面白いけど、「エジプトの古代語はじつは文字の形を変えて、コプト語として現代まで細々と生き残っていた。つまり古代エジプト語は滅びていなかった」というオチはけっこう好きである。

【展示物】
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 館内の展示品でひときわ目を引くのが、モアイ像。
 はるか離れた太平洋上の孤島、イースター島からわざわざ運んできたもので、レプリカでなく、本物である。
 しかもこれは本物すぎるほどの本物。
 イースター島では、かつて信仰の対象とされていたモアイ像は、歴史の流れとともに住民から見捨てられ、殆どのモアイは倒れたままに放置されていたのだが、一体だけ立ったまま残っていた。そのモアイは、島民から特別なものとして神聖視され、大事に祀られていたのだが、イギリス海軍の調査隊は、わざわざその一体を強奪するようにしてイギリスに持ってきて、そのモアイ像がこれとのことである。それゆえ、イースター島の先住民から返還を強く要求されている。

【展示物】
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 アテネのパルテノンを模した部屋に、パルテノンから持ってきた大理石の彫像の数々が並べられている。持ってきたエルギン卿の名前から、エルギンマーブルと名付けられた傑作の数々。
 もちろんギリシャからは返還の要求があるけど、イギリス政府は頑として応じていない。

 大英博物館には、とにかく世界中の宝が集められており、その量と質に圧倒されるわけであるが、ただしイギリス本国のものは非常に少ないのもまた印象的である。
 創造よりは、収集の才に長けた民族であったのだろうか。

 そしてこれらの宝を奪われた各国が文句を言ってくるのもよく分かるが、しかしながら近年の中近東や北アフリカの混乱で、数多くの芸術品、美術品が奪われ、破壊されたことを考えると、人類の宝は、こういうきちんと維持管理できる施設が保管すべきとも思え、なかなかに難しい問題である。

【ロンドン塔】
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 これもロンドン名物、ロンドン塔。
 塔というより城塞である。
 世界でも有数の幽霊の名所であるが、外見的にはそういった凄惨なイメージは乏しく感じられた。
 中に入ってみようかとも思ったが、入り口も切符売り場も長蛇の列だったので、あきらめた。

【ロンドンアイ】
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 テムズ川傍にそびえる大観覧車のロンドンアイ。
 かなりの高さまで達するので、ここから一望するロンドンの眺めはいいだろうと思い、乗ってみようかとは思ったけど、ここも入り口、切符売り場とも大行列であり、あきらめた。

【ノッティングヒル】
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 ロンドンを舞台にした映画は数多かれど、私としてはまずは「ノッティングヒルの恋人」の舞台であるノッティングヒルを訪れたい。
 ジュリア・ロバーツの超人的な美人っぷりが印象的な映画ではあるが、それとともに洒落た感じの美しいノッティングヒルの街もまた印象的であったから。
 ノッティングヒルでは、主人公の営む本屋と、それから住んでいた家がそのままの形で残っていたので、そこを訪れてみた。それから街を散策。パステルカラーで彩られた高級住宅街が、エレガントであり、とても趣味よく思えた。

【セントブライズ教会】
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 ロンドンには有名な教会がいくつもあり、そのどの教会も立派な建物であり、なかには美術品も多く飾られているであろうと思われた。しかし、それらの教会は、入るには予約がいるようで、なかなか容易に観光客は入られない。
 他の国の教会は、宗教行事と関係なしに、容易に入ることができるのに、これはカソリックと英国教会の文化の違いなのであろうか。

 そのなか、路地に「これは世界的に有名な教会です。お寄りください」みたいなことを書いている看板を見つけ、それに従ってその教会に入ってみた。
 ……、まあ普通の教会であった。
 どこがどう有名なのだろうと思っているうち、近所の住民らしき中年のご婦人が傍に来ていろいろと説明してくれた。ロンドンの大火から始まるロンドンの歴史を絡めての、けっこう長い説明だったのだが、要は「近くのケーキ職人が、この教会の形をモチーフにウェディングケーキをつくり、それが現代に到るウェディングケーキの発祥となった。だから世界中の花嫁たちは、この教会で結婚式をあげることに憧れている」とのことであった。
 なるほど。聞かねば分からなかった。

 ちなみにロンドンにおいて、住民はたいてい親切で礼儀正しかった。「イギリスは紳士の国」と言われているけど、今回の旅で本当だったことを知った。

【バッキンガム宮殿 衛兵交代式】
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 ロンドン名物、バッキンガム宮殿における、赤い上着に黒の帽子の衛兵たちの交代式。
 交代時刻近くに行くと、すでに正門近くの多くの人で占められており、観るスペースがない。それで衛兵の出発場所であるウエリントン兵舎に行き、バンド演奏とともに出発するところを観た。
 賑やかな楽隊の音楽とともに行進する衛兵を、しばらくバッキンガム宮殿まで後をついて行った。

【パディントン@パディントン駅】
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 ロンドンの主要駅であるパディントン駅は、有名な「くまのパディントン」の出身地でもある。それゆえ銅像が置かれており、記念撮影。


 ロンドン、いろいろと回ってみたけど、とにかく行くべきところが多すぎて、まだまだ見残したところがたくさんあるので、近いうちにロンドンを再訪してみたい。

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イギリス料理:サヴォイ・グリル@ロンドン

 近代ホテルの歴史はここから始まったと称される老舗ホテル「ザ・サヴォイ」のなかのレストラン。
 ガイド本「地球の歩き方」のイギリス料理の項に、このレストランが一番最初に紹介されていたので、それなりの店ではあるだろうと思い、選んでみた。

【ザ・サヴォイ】
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 このホテル一目見た時、どうも見覚えがある気がしたが、「ノッティングヒルの恋人」のロケに使われていたのをあとで思いだした。

 ホテルに入ると、さすが高級ホテルの典型であって、全てが格調高いつくりであった。
 レストラン「サヴォイ・グリル Savoy grill」は玄関から入ってすぐのところにあった。
 中に案内されると、室内はホテル同様に、高級感あふれる空間であった。客もドレスコードをみなきちんと守っており、今回訪れたレストランではここが一番格が高いと思った。

【舌ビラメのグリル】
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 この店のスペシャリテである舌ビラメのグリル。
 ドーバー海峡の質のよい舌ビラメを厳選して調理したものだそうだ。

【鶏の丸焼き】
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 この店のスペシャリテは魚は舌ビラメ、肉はローストビーフだそうだが、メニューをみるとビーフは300g以上からとなっており、その量をとても食べられるわけないので、鶏を選んでみた。

 それで、魚も鶏も、普通に火を通して、普通に味付けしたという感じで、よく言えば昔からの料理を伝える伝統的な料理、悪く言えばあんまり特徴のない料理、というところで、私の感覚としては、いわゆる世間一般が想像する「イギリス料理」に、これはけっこう近いものではと思った。

 もちろん、不味い、とかいうことはまったくなく、普通においしい料理である。
 そして何と言っても、クラシカルなレストランの雰囲気がたいへん良く、かつてハリウッドの大スター達がこのレストランを贔屓にして幾度も訪れたという歴史をダイレクトに感じとれる、そういう大いなる魅力がある。

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憧れのアビーロード

【アビーロード ジャケット】
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 ビートルズは今では伝説的、神話的グループではあるけど、私のような中年世代にとっては、解散がTVのニュースになったことや、新聞に大きな記事で載ったことが記憶に残っている、僅かながらも時代を共有できた、我が身の一つとなっている大事な存在である。

 ビートルズがポップス音楽史上いかに偉大な存在であるかは、私ごときがいちいち説明するまでもないけれど、その偉大な存在を我々はライブで知る経験は永遠に失われている。
 しかしビートルズがこの世にあった、というその名残は世界各所に残されており、それを目当てにリバプールやロンドンを訪れる人はいまなお多い。それは、なにやら宗教信仰にも似た行為であり、じっさいいくつかの地は「聖地」と呼ばれている。

 今回ロンドンを訪れたさい、是非とも訪れたかった憧れの地、世界一有名な交差点とも言われる「アビーロード交差点」に行ってみた。

【ポールの家】
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 アビーロードに行くためには、普通は地下鉄のセント・ジョンズ・ウッズ駅で下りてから歩くことになる。その途中にポールの自宅があるので、それにまず寄ってみた。
 そしてここからアビーロード交差点へ向かう。

【アビーロード交差点】
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 アビーロード交差点はその有名さは歴史的価値によるものであり、交差点そのものはいたって普通のものである。しかし、観光名所だけあって、観光客が群がっているので、これがそうだと行けばすぐ分かる。
 そして、アビーロード交差点は現役の交差点なので車の通行量は多く、それが邪魔となり、アルバムジャケット通りの構図の写真を撮影するのはけっこう難しい。
 だいたいジャケットでの撮影位置は、車道上なので、撮影ポイントを確保することからして難儀である。

【アビーロード交差点】
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 とりあえず、交差点向かいの安全なところから写真を撮ったが、ジャケットとは異なる方向からの写真になり、風情がない。

【アビーロード交差点】
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 それで、車の流れが切れたところを狙って、車道上から写真を一枚。
 なんとかそれっぽい写真とはなった。
 しかし冒頭のジャケットの写真と改めて比べると、同じところを撮ったのに、まったく芸術的雰囲気がないのは、哀しい。やはりプロが撮った写真は、構図、ピント、フォーカス、光と影、等々全てにおいて素晴らしい。


 アビーロード交差点では、観光客がひっきりなしにポーズをつけて歩いているので被写体には事欠かないが、せっかくなので私もこの交差点を横断してみた。
 1969年の8月8日、今から半世紀近く前に、ジョン・リンゴ・ポール・ジョージの、音楽の歴史をつくった四人組が渡った交差点を、その音楽に強い影響を受けて生きていた、東洋の日本人の私が遠路はるばる来て、自分の足でしっかりと歩いて行く。

 たいへん感慨深いものがあった。

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September 20, 2018

オセロ@ロンドン グローブ座

【グローブ座】
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 イギリスという国は、ヨーロッパにおいて政治・経済・産業・科学等の分野で歴史的に非常に重要な役割を果たした国であるが、芸術面においてはさしたる役を果たしていない面がある。
 それこそ大英博物館に行ったら、そこには偉大な美術品は数多くあるものの、大半は他国から持ち運んできたものであり、自国産のものは極めて乏しく、イギリスは芸術に関しては、国力が弱かったようだ。
 ではイギリスに偉大な芸術を生み出す作家はいなかったかといえば、まあ数は全然いないのだが、一人だけ特筆すべき大物がいて、彼一人でその分野において、それ以後の作家を全員束にしてもとうてい敵わないような仕事を成し遂げた、そういう大天才がいる。
 もちろん、ウィリアム・シェイクスピアのことであって、彼の創作した劇はいまなお世界中で演じられ、ずっと高い人気を保ち、かつ現代の劇作家たちにも尽きることなき影響を与え続けている。

 だからイギリスに行ったからには、シェイクスピアの劇は当然観るべきであり、そしてそれは聖地グローブ座で観るに限る。
 それではネットでグローブ座のチケットを購入してみよう。で、グローブ座のホームページを開くと、いろいろな劇が載っていたけど、旅程からは「オセロ」しか観られないことが分かった。「オセロ」は、シェイクスピアの劇のなかでは私は例外的にあまり好きでないのだが、しかしこれしかないのでとにかくゲット。

 ゲットしたのちメールが来て、料金払ってチケットを自宅に送ってもらうか、あるいはメールの添付アドレスにあるチケットを印刷して持ってくること、とのことが書いていた。そりゃ印刷のほうが楽なので印刷してみた。

【Eチケット(の一部)】
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 印刷したはいいのだけど、PDF文書を印刷しただけの「print at home tickets」なるEチケットであり、バーコードやQRコードがあるわけでもなく、これって簡単に偽造ができそうである。
 それでこんなのが本当に使えるのかいと不安に思い、念のため当日早めに劇場に行ってカウンターで聞いてみたら、まったく問題なしとのことで、ひと安心。私以外にも同じように不安に思う人もたぶんいるであろうから、いちおうwebに情報提供しときました。

 そして劇が始まった。
 私はシェイクスピアの悲劇では、オセロは苦手である。
 何故かというと、登場人物がイヤーゴを除いて、全員馬鹿にしか見えないからだ。それゆえ、馬鹿の群れが、一人の悪人に振り回され、悲劇の底に陥って行く、そういう馬鹿の愚かな集団劇に思え、悲劇特有のカタルシスを感じられないからである。
 そしてさらに大事なことには、シェイクスピアの主な悲劇は、登場人物は各人が懸命に自分の人生を己の強い意思で切り開いているけど、劇全体には、見えない巨大な歯車のようなものが回っていて、誰しもがいかに逃れようとしても、その歯車に巻き込まれ、砕かれ、破滅していく、そういう形をとっている。脚本の行間全体に感じ取れる、劇を進行させていくその歯車の超自然的かつ圧倒的な存在感が、シェイクスピア悲劇の真の醍醐味と私は思うのだが、「オセロ」にはそういうものはない。
 劇を回していくのは、イヤーゴという、肉体を持った一人の人間であり、彼の策略通りに人々は動き、そして破滅していく。それゆえ、その劇は「人間の劇」以上のものは感じられない。

 というふうな印象を私は持っていたわけだが、舞台が始まってしまうと、やっぱりシェイクスピアだけあって、とても面白い。なにしろあらゆる台詞が過剰なまでに美しく、過剰なまでに意味深いものなので、その素晴らしい台詞を一流の役者たちが途切れることなく喋りまくるのだから、まさに言葉の贅沢なショーである。

 さらには劇を読んでいるだけでは分からないものが、舞台にするとよく分かったりする。
 「オセロ」では、イヤーゴが劇進行係であり、その台詞は非常に多い。そしてその台詞の多くは一人言であり、彼はなんらかの行動をなすとき、常に一人言を言って説明をするので読者は筋を容易に追えるわけだが、現実的にはあんなに一人言を言う人間の存在は奇妙である。「オセロ」を読んでいると、「なんでこの男はこんなに一人言ばかり言うのだろう?」と変に思ってしまうのだが、舞台を観てそのわけがわかった。
 あれは一人言ではなかった。観客に向かって己の心情と行動を説明しているのであった。
 グローブ座の造りは、舞台のすぐ前が立見席になっていて、役者たちは観客に話しかけ、その反応を伺いながら演技を進めて行く。反応が悪いと、そこにちょっとしたアドリブも追加されていた。そしてそのやり取りには笑いもあり、憎しみもあり、恐怖もある。シェイクスピアの劇は、観客も劇のなかに取り込む、全体一体型の仕組みであり、まさに生き物であったのだ。

 そういう具合に、興味深く劇を観るうち、終幕となる。
 本来「オセロ」は罪なく気高きものが滅び、悪人はなんの反省もなく沈黙に沈む、なんの救いもないエンディングなのだが、現代的感覚ではこれはひどい、ということになっているのであろうか、そのあとに舞踊と歌による、「でも、二人はあの世で、あらためて結ばれることになりました」というふうなシーンが付け加えられていた。
 たいへん美しいシーンではあったが、……まあ蛇足だよな。

 「オセロ」、好きではなかったが、やっぱりシェイクスピア、圧倒されるものがありました。
 そして、次回は「マクベス」「ハムレット」「リア王」、残りの悲劇も是非観たい。

 ……………………………

【グローブ座】
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 立見席のヤードはもちろん自由席。
 早めに並ぶと、舞台のすぐ近くで観ることが出来る。でも、90分立ちっぱなしは、中年の人とかにはきつそうであった。

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September 19, 2018

ミュージカル:レ・ミゼラブル@クイーンズ劇場

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 ピカデリーサーカス駅を出ると、そこはミュージカルの聖地ウエスト・エンド。数多くの劇場が立ち並び、そこでいくつものミュージカルが開催されている。
 今回の目的の一つはクイーンズ劇場での「レ・ミゼラブル」。この高名なミュージカルが最初に演奏された地での、まさに本場の演奏であり、さらにはオリジナルの演出で行われているのは、今ではロンドンだけなので、それも楽しみにしていた。

 ロンドンの劇場は、歴史のあるものが多く、それゆえ規模が小さく、また設備も古い、ということになりがちであり、クイーンズ劇場はまさにその典型であって、ずいぶんとこじんまりとした、そして音響がややこもりがちの施設であったけれど、それが幸いして、音のリアル感が強く、演奏が進むにつれ、舞台と観客とが一体化したような迫力あるミュージカルを経験できた。

 役者については、世界中からこれを目当てに人が集う演目に選ばれただけあって、どの人も歌が上手く、また演技も立派であった。
 とりわけ良かったのが、ヤング・コゼット。
 コゼットって、レミゼのなかでは、少女時代で役割が終わっていて、成長してからはマリウスの恋人としての脇役的立場しか与えられていない、さして劇中重きを置かれていない役なんだけど、コゼットを歌った役者がじつに素晴らしく、まさに天使のような美しい声で、情感豊かに各パートを歌うものだから、彼女が歌いだすと、舞台の雰囲気が一変して、明るく、幸せあふれるものになり、舞台を支配してしまう。
 観ていて、コゼットって、こんなに重要な役だったのかあ、とか思ってしまった。
 そしてそれで何が起きるかというと、マリウスとコゼットのかけあいの歌のところ、彼らが愛の二重唱を歌うところは、たいてい片思いのエポニーヌが絡んできて、「なんて私は惨めなんだろう」「私って何というつまらない人生を送ってるんだろう」と哀切なる心情を歌い、それが観客の心に痛切に突き刺さるわけだが、この舞台ではコゼットがあまりに良すぎて、カップルの幸せオーラが強すぎるため、エポニーヌの歌が二人の歌に割り込むと、観客としては、つい、「エポニーヌ、お前じゃま」とかひどいことを思ってしまう。
 ああ、なんて可哀相なエポニーヌ。

 とはいえ、エポニーヌって「徹底的に可哀相な存在」なのだから、これはこれでいいのかもしれない。だからこそ、エポニーヌの最後のところ、傍目には悲惨であるけど、しかし彼女なりの幸せをつかむところが、より印象的、感動的になったし。

 それやこれやで、観て聞いて、いろいろな新発見もあり、そして改めてこのミュージカルの偉大さも知り、たいへん充実した時間を過ごせた。

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September 18, 2018

インド料理:Amaya@ロンドン

 日本における代表的インド料理「カレーライス」はじつはインドから直接もたらされたものではなく、かつてこの国を植民地としていたイギリスがインド料理を輸入したさい、それを洋風にアレンジして作られたものであって、オリジナルとはずいぶんと異なっていた、というのは有名な話である。
 そしてイギリスは、インド料理をけっこう好んでいたようで、インド料理店がいまもかなりの数がある。

 現代の日本では、本場で料理をつくっているプロの料理人がいたるところにインド料理店を開いており、そういう店でオリジナルに近いものが容易に食べられる時代となっている。
 ただし、この手の料理がイギリスで受けがいいとは私にはあまり思えず、イギリスのインド料理は、「カレーライス」と同様にオリジナルとは異なった進化をたどっているであろうと予測し、ロンドンの有名なインド料理店「Amaya」を訪れてみた。

【キッチン】
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 広いレストランには、広いオープンキッチンがあり、強い炭火で焼かれた料理が次々をつくられる活気ある店である。
そして客は地元の人がほとんどであり、インド料理はすっかりイギリスに溶け込んでいる印象だ。

【料理】
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 料理は種類が多いけれど、たいていは地元産の肉、魚のたぐいをスパイスを利かして煮たり焼いたりしたもの。それから当然、カレー。
 これらの料理は私が予想していたとおり、オリジナルのインド料理とはけっこう異なっていて、スパイスの利かせかたが柔らかかつ繊細で、うまく元の食材を味を引き出す、上品なものであった。
 オリジナルを輸入したときから、ずっと工夫をこらし続け、イギリス流の繊細なインド料理が完成したのであろう。
 元々のガツンと来るインド料理も好きであるが、こういうエレガントなインド料理もたいへん美味しいものであった。

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ストーンヘンジ

 イギリス名物で、これは外せないのが世界遺産のストーンヘンジ。
 調べてみると、ロンドンから200kmくらいの距離で、急行列車で容易に日帰りできるところにあるので、天気の良い日に行ってみた。
 ロンドンの駅で、サウス・ウェスタン鉄道ソールズベリー行きの切符を自販機で買おうとし画面をみたら、なにやら複雑な料金体系になっていて、理解するのに少々時間がかかったが、要するに、特急料金はいらない、乗る時間によって料金が変わる、買う日付でも値段が変わる等々、とのことであった。……面倒なり。

【ツアーバス】
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 ロンドンから1時間半ほどでソールズベリー駅に到着。
 車窓から見る風景は、1時間半のあいだ、ずっとただっ広い平原であり、イギリス、土地余っているなあと感心した。
 ガイド本によれば、駅の近くにツアーバスが止まっていて、そこでチケット購入とか書いていたが、確かに駅を出て目立つところに、やはり目立つグリーン色の二階建バスがあった。
 このバスは1時間に一本ペースで発着しており、駅の列車到着時刻にだいたい合わせていたので、便利である。

【ストーンヘンジ】
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 駅からは20km弱、30分ほどでストーンヘンジに到着。
 有名な観光地だけあって、多くの観光客が集っていた。
 ストーンヘンジは平地から見るとその全体像が分かりにくいので、ビジターセンターにある模型像でそれを頭に入れてから行こう。

【ストーンヘンジ】
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 日本からはるばる来たぜストーンヘンジ、というわけだが、この遺跡は、要は巨大な岩が一定の幾何学的様式に従って並べているだけで、さほど心を打つような造形というわけでもない。
 しかしながら、ロケーションが素晴らしい。
 ストーンヘンジは他にいっさいなにもない(* ビジターセンターを除く)、地平線が見えるような広大な牧草地のなかの、低い丘の上に立ち、遥かなる広々した空間のなかに、唯一立つ人造物である。これは太古から人々に神聖視され、周辺には何もつくらないように、それそのままにして残すように、連綿と伝えられて来た、まさに歴史遺産なのであり、風景とセットにして初めてその価値が分かる、そういうものであった。
 こればっかりは、現地に行かないと分からない、体感的な感銘である。

【ソールズベリー】
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 ソールズベリーについては、ストーンヘンジの停車駅くらいの前知識しかなかったけど、いざ訪れてみると、古き良き時代の建築物が立ち並ぶ、たいへん情緒ある街であった。そして、特に街の要である、ソールズベリー大聖堂はどこから見ても目立つ大伽藍である。
 じつはイギリスの南部は先の大戦で、ドイツから大規模な爆撃を受けており、古い時代の街並みがそのまま残っているところは少ないのだが、ソールズベリーに関しては、この極めて高い大聖堂が、爆撃機にとって格好の道標となったため、敢えて攻撃せずに残していたので、ソールズベリーの街も保存されたとのこと。
 ソールズベリーはたいへん美しい街だったので、十分に散策したかったが、本日はロンドンの夕食を既に予約していたので、それに間にあわすため、大聖堂を訪れる時間もなく戻る羽目になった。
 次回イギリスに来るときは、この街を宿泊の地に選び、存分に街を歩きたく思った。

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September 17, 2018

イギリス料理:ファイブフィールズ@ロンドン

 イギリスに行ったからには、レストランではイギリス料理を食べてみたい。
 もっとも私はイギリス料理なるものについて良く知っておらず、ちょっと調べてみたら「イギリス料理は素材を単に煮たり焼いたりするのが特徴で、味付けはシンプルであり、イギリス人自体が美味しいと思っていない、そういう料理です」とか失礼なことを書いてある文献ばかりが見つかり、どうにも料理そのものには期待が持てそうにない。
 といってイギリスでフレンチやイタリアンましては和食を食べても仕方ないので、初心貫徹ということでイギリス料理店にまずは行ってみよう。
 ネットで検索すると、イギリス料理店はいろいろあれど、「ファイブフィールズ five fields」という店が、美味しそうな雰囲気濃厚であったので、そこに予約をとってみた。

【前菜】
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 前菜はフォアグラのキノコ、根菜類の付け合わせ。ボール状のものがフォアグラであり、フレッシュフォアグラを用いた優しい味つけのもの。野菜もフォアグラも素材がたいへん良い。
 味付けは控えめだけど、素材を上手く支えている。

【メイン:魚料理】
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 イギリスの魚料理って、どこに行っても、ヒラメとスズキをサーモンしか見かけなかったが、これもヒラメの料理。葱とカイワレ、それに紫蘇のソース。
 火の入れ加減は丁度良く、ヒラメも良いものを使っている。

【メイン:肉料理】
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 メインの肉はマトン。マトン料理は、この店のスペシャリテらしい。腹肉、腰肉、頬肉の三種を用い、それぞれの味の違いを味わせてくれる。マトンにはどうしても独特のくさみがあるけれど、ワインソースや付け合わせの野菜やハシバミがそれにうまくあわせていて、総合的によい感じの肉料理となっていた。

【デザート】
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 デザートは林檎。それをジャスミンで香りをつけて。爽やかな一品。

 どうにも事前勉強していた「イギリス料理」とはそうとう異なる料理であって、良い素材を、繊細な仕事を加えて、さらに美味さを引き出す、まあ極めて真っ当な、美味さの本道を行く料理であった。
 料理全体からいえば、モダンフレンチに似た方向だとは思うのだが、とにかくどの料理もレベルが高く、文句なしの名店である。
 あまりに感心したので、チェックの時、マネージャーらしき人に感想を聞かれたさい、「たいへん美味しかったです。イギリスに来るのは私は初めてで、そしてイギリス料理は美味しくないと聞いていましたが、それは嘘と言うことを思い知りました」とつい言ってしまったら、彼は肩をすくめて「ああ、それはとんでもない大嘘です」と笑って答えました。

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September 16, 2018

ロンドン橋がロンドン橋でなかった話

【ハロッズの土産物】
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 都市にはその都市を一発で示すような象徴がたいていはあって、ロンドンだと、ビックベン、ロンドン橋、二階立ての赤バス、ロンドンタクシーなどがそれにあたる。
 映画の一シーンやニュースの画像でこれらが出たなら、誰でもその場所がロンドンということが容易に分かるであろう。

 ロンドンを訪れて、まずはそれらを目当てに散策してみることにした。
 名所が数多くあるテムズ河沿いを歩くうち、遠目にロンドン橋が見えてきた。ロンドンに来たのが初めてであるからして、ロンドン橋を見るのも当然初めてであり、鮮やかなる印象を受ける。
 さてロンドン橋まではあとどのくらいであろうと、Google Mapで確認すると、それがやけに近い位置にあることが分かった。1km以上は離れているはずなのに、数百メートル先がロンドン橋ということになっている。
 これはもしかして遠近法マジックというもので、じつはロンドン橋ってとても小さくて、そのため実際よりも遠くに見えるのかなあ、などと思いつつ歩くうち、「ロンドン橋」の一つ手前にある橋に着いたので、そこを渡り、中ほどから写真を撮ってみた。

【橋風景】
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 しかし、その橋、名前がプレートに書いてあったが、それは「London Bridge」、すなわちロンドン橋である。あれっと思い、Google Mapをまた見てみると、まさにこの橋がロンドン橋であることが判明した。どうりで近かかったわけだ。
 なんたることぞ。
 そして、私が「ロンドン橋」と思っていたものは何かというと、それは「タワー・ブリッジ」であり、ロンドンの橋といえば誰もがそれを思いつく、この立派な造形の橋は、本名「タワー・ブリッジ」だったのだ。

【ロンドン橋】
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 「落ちる、落ちる」と全国の子供たちから歌われる不幸な橋「ロンドン橋」は、近代建築による堅牢な橋であり、落ちることはまずないと、実物を見た私は自信をもって言える。
 さてロンドン橋、地理的に重要な位置にあることは分かるけど、橋そのものはいたって普通の橋である。
 テムズ川にはたくさんの橋がかけられており、その多くは美麗な装飾をまとっていたり、豪華な色彩に塗装されたりしていて、どれも目立つのに、ロンドン橋は機能性重視というわけなのか、この橋のみ平凡な印象であった。

【タワー・ブリッジ】
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 ロンドン橋を渡って対岸を歩き、そしてロンドン橋ならぬタワー・ブリッジへと。
 ゴシック様式の二つの塔を持つ跳開橋であり、中世の雰囲気濃厚な、威厳ある橋であり、やはりこの橋のほうがはるかに目立つ。

 それにしても、ロンドンに来なかったら、私は一生この橋をロンドン橋と思い込んでいたわけで、……まあそれでなにが困るということもないのだが、といあえず訂正できておいてよかったなり。

 そして、この橋をロンドン橋と勘違いしているのは私だけではないようで、どころかそちらのほうの人が、日本のみならず世界的に多いようで、「ロンドン橋」あるいは「London Bridge」をキーワードにしてGoogle画像を検索すると、ずら~りとタワー・ブリッジの画像ばかりが並んで出て来るのはいっそ壮観である。

【ビッグ・ベン@修理中】
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 こうして「ロンドン橋」を見物し、そして道路には二階立バスやロンドンタクシーはいくらでも走っており、あとの見るべき名物はビッグ・ベンということになるが、それはなんと修理中であり、真っ当な姿を見ることはできなかった。残念。
 これはロンドンが「また来いよ」と言っている、というふうに思っておこう。

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September 15, 2018

パブ雑感@ロンドン

 イギリスで食事するなら、その名物は、やはりパブである。
 地元の人で賑わうなか、フィッシュ&チップスをツマミにビールを飲む。パブに対してはそういうイメージが一般的に出回っており、イギリスの代表的風景として、パブは是非経験してみたかった。

 そして、ロンドンに着いた初日。
 現地時間午後6時くらいにホテルに着き、それから8時ごろ食事に出かけることにした。
 Google Mapを開いてみると、さすがロンドンだけあって、ホテルの近くにパブはいくらでもある。それで一番近いところあたりからパブに入ろうとしたが、8時の時点ですでに中は相当に盛り上がっていた。店内はほぼ満員状態であり、戸外にはみでて騒いでいる人もいるし、歩いて談笑しながら飲んでいる人もいる。どうにも一見の外国人は入りにくい雰囲気であり、ここはパスして他の店に行くも、やはりそこも地元の人たちで相当な賑わいぶりで、かつ店の前に「House Fun Only」って書いてある、「パブの達人以外お断り」みたいな看板も出ていたので、(本当のところ、正確な意味はなんなのか知らないけど)、とても入る気になれなかった。

 それで、とりあえず初日は、静かな雰囲気のビストロを見つけて、そこで食事をとることにした。注文はサラダと鴨のローストにしたが、サラダの野菜は苦くて硬くて、まさに「草」であり、鴨はボソボソした食感で旨味もなく、ソースは妙に塩辛いだけで、料理というより「エサ」という感じであり、まさにこれぞ世間に知れ渡っている「イギリスの料理」かと思い、かえって感心した。あ、ビールは美味かったです。

 そして翌日。今回はパブ攻略のための作戦を練り、ともかく日が暮れたらパブには仕事帰りの人でいっぱいになるであろうから、その前、午後6時くらいにパブに行き、さっさと飲んで食べることにした。

 ところが訪れた一軒目は、すでに客が多く、店の人に「予約してないけど、席はあるでしょうか」と聞くと、「飲むだけならカウンター席が用意できるけど、食事の席はすでに予約で満席です」と言われたので、次の店へと向かった。

 その店は客がまだ少なく、なんとかテーブル席で食事を取ることができた。
 そしてメニューを見ると、意外なことにフィッシュ&チップスはなかった。それでその店のスペシャリテであるらしいステーキを頼んだ。

【ステーキ&ポテト】
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 このステーキが予想に反して、なかなかの美味であった。熟成系の赤身ステーキなんだけど、肉そのものの味がよく、塩加減もちょうどよかった。
 イギリスの料理は全部不味いと思ったのは間違いであった。要するに、日本でもどこの国でもそうだけど、美味しい店もあり、不味い店もある、それだけの話だったのである。
 そうしてビールをぐいぐい飲みながらのパブを楽しみ、客が増える頃には帰ることになった。

 とりあえずのロンドンパブ経験記。
 ポイントとしては、
 ・ パブは一般的に賑やかである。
 ・ パブだからといってフィッシュ&チップスがあるとは限らない。
 ・ パブは人気高いようなので、予約が望ましい。
 ・ ドリンクと食事で席が分かれており、ドリンクのほうは席が取りやすい。
 などといったところ。
 それでもガイド本を見ると、じつはパブも様々な種類があり、私はそのほんの一部しか知らないわけで、奥の深いもののようである。

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September 02, 2018

寿司:喜邑@二子玉川

 東京二子玉川に「喜邑」という寿司店があって、熟成系を主体とした独特な鮨を出していたのだが、あまりに独特過ぎて客が入らず、一部の鮨マニアにのみ有名であった。
 だいぶと前にそこを訪れた宮崎の某寿司店主は、その鮨に感心してその技を応用した鮨を一時期出しており、その店主から「喜邑」の話を聞いた私は一度は訪れたいと思いつつ、東京にはほかに行くべき寿司店が多いので、二子玉川まで足を伸ばす気にもなれずに時が経つうち、時代がようやく喜邑に追いついたのか、喜邑はいつの間にか超人気店となり、典型的な予約の取れない店となってしまった。

 それで喜邑はもう私に縁のない店とは思っていたのであるが、以前からの常連であった福岡の鮨マニアの某氏が九州の人にこの素晴らしい鮨を経験してもらいたいと思い、店主に頼んで日曜昼を貸し切り、参加者を募集した。
 持っててよかった鮨マニアの友人、ということで早速私も手を上げ、九州組遠征隊の一員として、今や「幻の名店」と化しつつある喜邑へと行ってきた。

 そして食べてみての感想といえば、確かに世評の通り、巧緻を尽くした独創的な鮨の数々。鮨の世界の奥深さと広がりを改めて知ることができた。
 その鮨のいくつかを紹介。

【烏賊】
1

 本来鋭い歯ごたえと爽やかな旨みを楽しむスミイカは、かなり熟成を利かして、通常と異なる弾性のある食感と、濃厚な旨みのネタになっている。

【皮剥】
2

 カワハギは刺身の下に、肝がたっぷりと敷かれていて、肝が主役でそしてそのあとカワハギが後をひく味わいをみせる複合的な鮨。

【秋刀魚】
3

 新鮮さが命のはずの秋刀魚は何日も寝かせて、そこでねっとりとした食感と、豊かな味が新たな魅力を演出している。そして熟成によって、身がさらに美しくなっているのが面白い。

【鰯】
4

 鰯は赤酢漬けで。普通の鰯と全く異なる色合いを見せていてまず驚く。そしてその漬け具合がまた絶妙で、鰯の本来の魅力を幾層倍にも高めている。

【カジキ】
5

 江戸前鮨の華、マグロをこの店では使わないので、それに対抗すべきものはカジキの漬け。もちろん熟成ものであり、味の豊かさと広がりが素晴らしい。

【雲丹】
6

 一通り出たあと、まだ食べていない食材をリクエスト、ということで出て来たのが赤ウニ丼。
 雲丹ばかりは、いじりようがないようで、ちょっと今までのラインとは異なったが、とてもいい素材のものであった。


 喜邑のネタはどれも個性が強く、ツマミならともかく鮨ダネとして用いるには少々厳しいとも思えるのだが、しかし喜邑の真の魅力は旨味濃厚なシャリにあり、各種の酢をブレンドしたシャリは、複雑な仕事を加えた鮨ダネにまったく負けない強く個性豊かな味のものであり、それで鮨全体としてのバランスが良く、どれも絶品ものの鮨となっていた。

 美味い鮨であった。
 この店に行くためだけでも東京に遠征する価値がある、そういう名店である。

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September 01, 2018

ミュージカル:オペラ座の怪人@ケンヒル版

Phantom

 東京に行く用事があり、そのついでに何か面白そうなコンサートはないかなと探したところ、渋谷ヒカリエでの開演のミュージカル「オペラ座の怪人(ケンヒル版)」を見つけた。「オペラ座の怪人」、といえばもちろん天才アンドリュー・ロイド・ウェーバーによるものが有名だけど、それより先につくられたケンヒル版もなかなかの傑作との説明があり、それではと行ってみることにした。

 オペラ座の怪人については、私はウェーバー版と、ルルーの原作しか知らず、ケンヒル版については何の予備知識もないまま観てみたが、たいへん面白かった。

 劇の筋については、前半はほぼ原作に準拠したもの。
 有名なウェーバー版は、じつはけっこう原作と異なっている。
 ウェーバー版での主人公ファントムは、容姿にやや難はあるものの、極めて優れた音楽の才能の持ち主で、さらには演出、歌、演技、そして教育でも名人である。彼はその能力を十二分に生かして、若い魅力的な歌手をスター歌手に育てあげ、そして愛人にしてしまう。そしてやがてその愛人の歌唱力と容色が衰えると、彼女を捨て去り、また他の若い女性を同様に育てて愛人にする、ということを繰り返す、なんともけしからん男であり、まさに作曲者自身をモデルにしているかのような、まあそういう「人間味のある」怪人である。
 しかし、ケンヒル版のファントムは、芸術面では圧倒的な才能の持ち主であることは変わりないが、人格画はまったく「非人間的」としかいいようがなく、己の欲のまま妄執に囚われ無慈悲な行動を続けるモンスターであって、その行動が様々な悲劇を起こしていく。

 そういうファントムが主役となって筋を進めて行くので、このミュージカルは陰惨な物語になると思いきや、ファントム以外の登場人物は、歌姫クリスティーヌを除いては、みな変人そろいであり、彼らのやりとりは始終コミカルなものとなり、ファントムの毒が彼らによって中和される、なんとも微妙なダークコメディとなっている。そして、そこで流れる音楽は、どれも美しく、舞台の美しさもあいまって、全体的にはファンタジックな雰囲気に満ちている。

 そうして、今回のミュージカル、肝心の役者の演技と歌が、これがまた高いレベルのものであった。まあ、主役にジョン・オーェン=ジョーンズみたいなミュージカル界の大スターを招聘しているくらいなので、それは予想できていたことだが、彼のみならず、出演者たち全体のレベルが高く、アンサンブルも見事なもので、とても素晴らしいミュージカルとなっていた。

 この「オペラ座の怪人」。ウェーバー版のかげに隠れてあまり知られることないミュージカルだが、まったくアプローチの違う、そしてとても個性的なものであって、観てとても得をした気分になった。

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