ガラコンサート:ロベルト・アバド指揮 トリノ王立歌劇場管弦楽団
今回の香港音楽祭のメインは、トリノトリノ王立歌劇場管弦楽団を率いてのアバドのヴェルディのオペラ「シモン・ボッカネグラ」。
その前日にガラコンサートが開かれた。
演目は前半がヴェルディの歌劇からの抜粋。後半はヴァグナーの楽劇からの抜粋であった。
この指揮者、ナマを聞くのは初めてであったが、たいへんリズミカルで、ノリのよい、快調な、それこそ「いかにもイタリア」という演奏をする。そのスタイルがヴェルディの曲によくあっていて、前半のプログラムはたいへん楽しめた。
ただし、後半のヴァグナーをそのノリのままでいったら、どうにも違和感ありまくりになってしまうのではないかとも思った。プログラムは、「さまよえるオランダ人序曲と水夫の合唱」「パルシファル 聖金曜日の音楽」「タンホイザー序曲 巡礼の合唱」の3曲である。
後半はオランダ人序曲から始まった。そして、演奏スタイルは前半同様であった。
軽く、優しく、快調なテンポで、あの呪われた船長の物語が語られていく。うーむ、と最初のうちは当惑したが、だんだんと面白く感じられてきた。あの北の海を描写した、荒れ狂う波濤のうねりが押し寄せて来る情景が、アバドが棒を振ると、まるで南国の、波は高いけど、透明で、光に満ちた美しい海の情景になり、そこを走る船は、スポーティな快遊艇である。聞いてて心地よく感じられ、これはこれでありと思えた。タンホイザー序曲も同様であり、そこにドイツ式の金管群の暗い咆哮はなく、リズミカルな若者たちの元気溌剌な行進曲のような、元とはベツモノになっていた。
そうして、一番の問題になると思われたパルシファル、これがじつはたいへん良かった。
パルシファルは、「音楽家が、音楽の枠を超えて、宗教をも創造した」という、音楽史上の特異な曲であり、そこにはヴァグナー教祖による、独特の宗教観が濃厚に詰め込まれている。だからこの曲を演奏する場合は、どうしてもヴァグナー教の宗教儀式みたいになりがちなのだが、アバド流の演奏では、そういう宗教的背景はいっさい取り払われ、音楽がナマの姿で光のもとにさらされて、じつに明快に演奏される。まるで室内楽のように、一つ一つの楽器の音が明瞭に鳴らされ、そしてスムーズに流れて行く。そうなるとですね、これが美しいのである。パルシファルってこんなに旋律が美しく、楽器も美しく鳴る曲って、初めて知った。聖金曜日のテーマを奏でる管楽器のリレーのところは、ただただひたすらに美しく、私は、感動いたしました。
まあ、あとでの皆での雑談のとき、クラシカルなヴァグナー好みの人の意見は、「やっぱり、あれはダメ」とのことであったが。
アバドは指揮姿も優雅であり、まるで踊るかのように全身を使って指揮をしており、こういう指揮だからこそ、ああいう流れのよい音楽が作れるのかと思い、聞いても良し、眺めても良しの、素晴らしい指揮者であった。
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