三俣山周回@大寒波到来の日
数十年ぶりの大寒波到来、ということで九重を訪れた。
天気図を知るためにTVを観ると、予報通りに寒波は到来。とんでもない寒波が来ているので、不要不急の外出は避けるようにとの警告がなされている。
雪に慣れていない九州人にとって、車はおろか、徒歩でも外出は危険な状況になっているようだ。
ただ私は雪を目当てにここに来ているのであり、外出は不要不急というわけでもない。そして天気図をみると、本体の低気圧は遥か彼方であり、猛吹雪にあうことはなさそうである。ただし等圧線の幅が狭く、高度次第ではとんでもない強風にあおられそうでもあったが、地形の選択で風はある程度は避けられそうだったので、予定通りに長者原から登山に行くことにした。
宿泊したホテルからやまなみハイウェイを歩いて長者原へ。
すでにとんでもない雪の量だ。
長者原湿原は、先週とはうって変わって雪に埋もれている。
ここに足跡はあり、先行者はいるようであったが、・・・あとで分かったが、いなかった。
長者原からはずっと雪の道である。
ときおり長者原方向に戻って来る登山者に出会う。
彼らは土曜日に法華院に泊まって戻って来る人たちばかりであった。
そういう人たちと会話して分かったのは、坊がつる方向へ登って来る者は私以外誰もいなく、せっかくの大寒波の日、長者原からの登山者は私だけだったようだ。
九重は雪がどんなに降っても、それなりに雪山好きが訪れるのだが、雪山に関しては牧ノ戸ルートが圧倒的に人気があり、今日もあちらに集中していたようである。
いや、私も牧ノ戸をまず考えたのだけど、昨日登ってしまったからなあ。
このルートの名所雨ヶ池は、大雪の日、雪と氷の世界となっている。
登山道は雪のトンネルである。
坊がつるも雪に埋もれ、うつくしい風景になっていた。
ここで遊んでいる人たちは、スノーシューをはいていて、雪道を楽しんでいる。
九州では滅多にみられぬ光景である。
坊がつるに来た時点で、予定を決める。
大船山は登山道が雪で底上げされ、上を覆っている樹木とのスペースが少なくなり、這っていかねば登れないだろうから、それはいやだ。
三俣山なら本峰までは、そういう樹木に覆われた道はないから、三俣山を目指すことにして、法華院経由ですがもり越えを目指す。
法華院から先の道は誰も登っていないと思っていたら、一人ぶんの足跡のトレースがある。法華院泊の登山者が北千里を目指しているようであった。
北千里へ登るうちにトレースをつけていた先行者に追い付いた。というか、ルートを見失っていたようで、地図を見ながら立ち止まっていた。
先行者としばし会話して先に行かせてもらい、それからは、ふかふかの新雪を踏みしめながら、自分好みのルートを行く、雪山の醍醐味を味わいながらの山行となる。
自分好みの道を行く、といいながらも、適当に行くとずんずん雪が深くなったりしてついに腰まで埋り、進めなくなる歯目になり進路をいろいろと変更。雪のないときはなんということもない登山道なんだけど、マークが雪に埋もれ、正規の道が分からなくなると、けっこう大変なことが判明。
それでもなんとか北千里に到着。
北千里は雪と氷の厳かな世界となっていた。
そして、ここからが本日の核心であった。
北千里は風の通り道になっているようで、とんでもない強風が吹き荒れている。それが大寒波の風なので、途方もなく寒い。
長者原がマイナス8度だったので、ここは体感的にはマイナス20度レベルであった。
そうして今回は大寒波用に装備を整えたので、首から下は問題なかったのだけど、ゴーグルが甘かった。
普通の冬用のゴーグルだったので、この冷たい風でゴーグルが凍り、睫毛も凍り、そしてまばたきすると瞼までくっつくという極寒ぶりに遭遇する羽目になってしまった。
ファン付きゴーグル持ってくりゃよかった~と思ったが、あれは北海道でのスキーくらいにしか使ったことはなく、今回の九重登山を予定した時点で、あれを持ってくる発想はなかった。
後悔先に立たずとはこのことだが、なによりも今回の大寒波をじつはなめていたことにその時点で気付いた。おおいなる反省点である。
(でも、九州の雪山でゴーグルが凍ったなんて、初めての経験だよ)
ゴーグルが凍って、視界が半分くらいになり、さらには雪とガスで視界が効かぬなか、それでも強風でガスが吹き払われたときに、道しるべの道標が見える。
これがたいへん有難い。
九重は地形がゆるやかなので、滅多に遭難事故は起きないのだが、平坦な地形ゆえ、視界が効かないときは、同じところをぐるぐる回るリングワンデルング現象を起こして、それで疲労凍死とかが起きてしまう。過去起きた九重の重大な遭難事故はほとんどがそれである。
現在はGPSがあるので、リングワンデルングはまずないし、さらには九重はその予防のために過剰なまでに大ケルンと道標を設置してそれが一種の名物ともなっているのだが、この日のように、視界が悪いときはそれが闇夜の灯台のような、とても役立つものということがよく分かる。
北千里は風の通り道となっていたが、その風はどこから来ているかというと、すがもり越え方向から吹き下ろしているようであった。
すがもり越えまで来ると風はまたとんでもなく強くなり、ときおり身体が吹き飛ばされそうになる。
ここからとても三俣山に登る気にはならず、というか不可能なので、このまま下山することにした。
相変わらず視界は利かないが、ときおり強風でガスが吹き払われ、岩と雪だけの世界がくっきりと見えることがある。いきなり鮮明な姿で現れる、その峻厳な世界が息をのむほど美しい。
そして半分ほど下ったところで、4人組の下山者がいるのが見えた。
すがもり越えには足跡はまったくなかったので、いったいどこから下山しているのだろうと不思議に思いたずねてみた。すると大曲方向からすがもり越えへ登ろうとしたものの、あまりの寒さと強風に、それ以上進むのを諦め、下山しているとのことであった。
私もこちらから登山を開始していたら、たぶん引き返していただろうな。
すがもり越えから下って林道に入ると、いちおうの安全地帯。
雪はどっさりと積もっており、長者原までスキーが出来そうであった。
雪のあつく積もった林道を歩くうち、指山への分岐へと着いた。
そこには指山方向に向かう足跡があった。指山だとほとんどの行程は林のなかなので、今日のようなコンディションでもある程度は登れたであろう。
長者原の手前の林道。
このようにずっと林道は雪に埋もれていた。
長者原に到着。
終わってみれば、どの山頂にも立てず、強烈な寒さに震える羽目にはなったが、普段見られぬ珍しいもの、美しいものがたくさん見られ、満足度の高い山行であった。
そしてホテルに戻って温泉に入り、車に降り積もった雪を丁寧に落として、それから帰宅の途に入る。
やまなみハイウェイもまた雪がどっさりである。
強風に雪が舞い上がりときおりホワイトアウトになる。ドライブ中に視界がゼロになるのはたいへん恐いものであるが、ただ本日は走っている車の量が非常に少ないので、車にぶつけられる、あるいはぶつける心配がほとんどなかったのは有難かった。
雪道を行くうち、水分峠の分岐に出ると、国道210号線は除雪されていた。
由布院から日田、久留米にいたるこの道は幹線道路なので、こういう日でもきちんと除雪がされるのである。
由布院に入って、いったん除雪は終了。由布院から別府まではまた雪道となる。
途中、狭霧台で車を止めて、由布院盆地を望む。
うつくしき雪景色の由布院。
そして由布岳を見ると、こちらもかなりの雪の積もりぐあいである。
正面登山口には幾台かの車が止まっており、登山者はいたようだが、はたして本日山頂にたどりついた人はいたのであろうか? 由布岳もマタエから先は強風の世界だから。
高速道路は大分市まで通行止めになっていたので、下道を適宜使いながら帰宅。
ニュースを見ると、今回の大寒波はたしかに記録的なものであり、日本全国の最低気温が氷点下となり、奄美大島では100何年かぶりに雪が降り、鹿児島、長崎では雪が10cm以上も積もり、交通は麻痺、いたるところで水道管が凍って断水となる非常事態が出現していた。
そして宮崎も当然大寒波が到来していることから、尋常でなく寒かった。それこそ痛いくらいに。まずは今日使った登山道具の清掃、整備、後片付けをしないといけないのに、身体を動かす気になれない。
山が寒いのはそれはそれでいいけど、住んでるところが寒いのはやっぱりきついなあ。
改めて、自然の猛威と、それから雪国に住む人たちの大変さを知った、大寒波到来の日であった。
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