ドゥダメル演奏会:「シティノワール」「新世界より」@香港音楽祭
ドゥダメル第二夜の一曲目は「シティノワール」。
アメリカの作曲家ジョン・アダムスの現代曲である。香港音楽祭のプラグラムにこの曲が載っているのを見て、CDを聴いて事前準備はしたのであるが、CDを聴いた時点でさっぱり分からなかった。
まあ、現代曲はバルトーク、ベルクあたりまではともかくシェーンベルク以後はさっぱり分からない私なので、CD聴いたところで分かることは期待していなかったけど、でもライブを見たら少しは分かるようになるであろうかとかも思いながら、ライブを聴いてみた。
とにかく大量多種の楽器からなる大編成の曲。そして、パーカッション部隊は当たり前のことながら、管も弦も、旋律よりもリズムを重視して、そこから曲を造り上げる仕組み。旋律らしきものはサックス、その他の金管が単発的に吹き鳴らすだけ。下手すればてんでばらばらになりそうな曲なのであるが、各パートは高い完成度と、そしてバランス感を持って演奏しているので、全体の統一感は失われることなく、最後のクライマックスまで一塊となってなだれ込んでいく。
指揮者と、そしてオーケストラの卓越した技術があって初めてこの世に音楽として存在できる、そういう曲であった。
私にとっては一回ライブで聴けば十分な曲ではあるが、曲の構成がアクロバットなこともあり、これを聴くのはなかなかエキサイティングな経験であった。
二曲目はドヴォルザークの「新世界より」。
全く耳慣れぬ現代曲と、ある意味通俗的な「名曲」の組合わせは意図したものなのではあろう。
そして、たぶんドゥダメルにとって手慣れた演奏であった「シティノワール」のやり方は、そのままこの曲にも使われている。
この曲で濃厚に漂う土俗的なメロディは、快適なテンポとリズムにより、颯爽かつ明瞭な旋律にとなり、たいへん流れよく進む。それゆえこの曲にまとっていたはずの民俗的雰囲気は削ぎ落とされ、曲本来の持っていた旋律の美というものが、単純化されて、鮮やかに見えてくる。
それゆえ、そういう土俗的雰囲気が最も薄く、また元々リズミカルである第4楽章が、ドゥダメルの力量を存分に発揮すべき舞台となり、全体の仕上げのように、リズムの積み重ねがどんどん迫力を増していき、圧倒的フィナーレへとなだれ込む。
昨日のマーラーから続けて、二日かけて、ここでようやく、指揮者+オーケストラの真の底力を見せつけたような、そういう怒涛のフィナーレであった。
しかし、今夜の本番はじつはアンコールにあった。
一曲目の「スラブ舞曲 終曲」は、指揮者もオーケストラの楽員も乗り乗りの、みんなソロでの演奏は、演奏しながら椅子から飛び上りそうな、あるいは踊りだしそうな、そういう音楽の自発的喜びがじかに感じられてくる、魅力あふれるものであった。
そしてさらに観客の大拍手に促されての二曲目の曲も、舞曲のたぐい(知らない曲であった。香港の会場は、あとでアンコール曲名貼り出さないから不親切ではある)で、これも乗り乗り。終わったのち、また大拍手であったが、ドゥダメルはオーケスラのメンバーを讃えながらの喝采を求め、そしてさすがにここで終了となった。
ドゥダメルは、昔の巨匠たちの演奏に慣れきった私のごとき者にとっては、深さとか荘厳さとか精神性とか、そういうあやふやなものについては、物足りないものはあるのだが、全体を盛り上げていくリズムの管理、そしてオケの慣らし方については抜群の腕を持っていることを実感した。
日本にもよく訪れる指揮者なので、また機会があれば聴きに行ってみたいものだ。
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