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December 26, 2014

読書:その女アレックス

Alex_2

 「このミステリーがすごい2014」の海外トップ作品。どの書評も好評であるし、帯の「あなたの予想は全て裏切られる」とのアオリもあり、頭の体操のために読んでみることにした。

 冒頭、主人公アレックスは突然見知らぬ男に誘拐され、檻に監禁される。飢え渇きから死寸前に追い込まれたアレックスは懸命に脱出を図る。
 そして最初はただの犯罪被害者と思われていたアレックスだが、物語が進むにつれそれとは全く違う正体が明らかになっていく。
 彼女を軸として、さまざまな犯罪が現れ、敏腕刑事がアレックスの真実を追っていくという話。


 この小説、主人公の名前がアレックスであり、男・女どちらでもいい、いかにもミスリーディングを導きそうな名前であり、さらにはアレックスの職業が「看護師」なのでこれもミスリーディングを誘いそうだ。だから私はアレックスはじつは男なのではと注意しながら地の文を読んだが、どうも違う。さらにはこの小説の原文はフランス語であり、ならば「看護師」という単語は男と女で違っているということに気づき、地の文で「看護師(たぶんinfirmière)」が出たらもうそれで性別は確定的なので、「アレックス=男」説はあっさりと諦めた。
 それでどこかでもう一人のアレックスがいて、入れ替わっているのではとか思いながら読むうち、話は速度を速め、陰惨なシリアルキラーの物語となり、あれよあれよという間に終末になだれ込んでいく。

 アレックスの数奇な人生は読者をぐいぐいと引き込ませる魅力があり、よく出来た小説ではあるが、しかし「あなたの予想は全て裏切られる」というミステリを期待した読者にとっては、アレックスの物語自体は予定調和的であった。だからアレックスの出場シーンについてどういうワナが仕掛けられているのだろう?と思っていた読者にとっては、拍子抜けなところがあった。

 けれども「あなたの予想は全て裏切られる」というミステリ要素がこの小説になかったかと言えば、いや、それはある。
 それは終末近く、警部が相続した絵に関するシーンで描かれるのであるが、そのために警部の部下達はこういうキャラクターだったのかと納得される、見事な伏線の張り方と、驚きと、さらに素晴らしいことに、感動的な解答であった。いや、びっくりしました。
 アレックスのほうに注意をとられていたので、こっちは油断していたので、驚きは一層であった。
 まったく、ミステリ読み慣れた私がびっくりするくらいだから、この部分にびっくりした読者は多いであろう、とか言ってしまおう。

 ただし、「このミス」で賞賛されたこの小説のミステリの部分が、それかと言えば、本当にそうなのだろうか?
 その部は本筋とは少々離れているため、この部分のミステリを認めて、「このミス」一位になったとも思えないし。
 そのミステリは、いちおう2014年度の、私のミステリとしておこう。

 そしてさらに、この小説は、表紙に仕掛けがあった。
 これもまた一つのミステリの提示であり、読み終わったあと、「なんちゅう絵を表紙にするんだい!」とも思ったが、とにかくこれは作者と関係ないところで、出版社がミステリを一つ作っていたわけで、…一本やられましたという気にはなった。あんまりいい趣味とは思えなかったけど。

 表紙の説明をすると、軽いネタバレになるので、段落を落として、軽いネタバレ解説をしておきます。

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         軽いネタバレ

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 表紙には、上半身、両足を椅子に縛られた女が描かれている。
 冒頭からしばらくしてアレックスが個室に監禁されるシーンになるので、その光景かと思いきや、そのところは表紙とまったく違う光景であり、???となる。
 そして物語が進むにつれ、これはずっと以前の、どうやらアレックスがモンスターになったきっかけとなった拷問の場面の絵ということが分かる。さらには詳細そのものは描けないので、奇妙な髪形によってその部分をシンボライズしていて、かなり悪趣味な絵である。
 アレックスが受けた拷問はたいへん残酷なものであり、そのシーンを思い浮かべると、とてもまともに見られる絵ではない。
 本を読み終えると、二度と表紙を見たくなくなる、そういうろくでもない表紙であった。

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その女アレックス 著 ピエール・ルメートル

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