【大崩山】

紅葉のシーズン。今週末も晴天だったので、大崩山に登ることにした。
祝子川沿いの道から見る大崩山は、晴天のもとくっきりと見え、今日は展望を楽しめる登山が約束されているようだ。
登山口に着き登山届を書いていると、傍を小柄な若い女性が、「お早うございま~す」と挨拶していって、通り過ぎて行った。この登山口の入り口は急傾斜なのだけど、そこを小鹿が飛び跳ねるようにして、通常の登山とは異なる速度で登って行く。
短パンスタイルの軽装と軽装備から、たぶんトレラン志向の人なんだろうけど、大崩山のようなトレランに最も適していない山に果敢に向かうとは、たいしたものだな~、と思いつつ、私は私のペースで登って行った。
【ワク塚渡渉部】

祝子川傍の登山道から、ワク塚渡渉部に下りて行こうとしたところ、そちらから先ほどの女性が引き返してきた。
「あれ、どうしたんですか?」と尋ねたら、「今回初めて大崩山に来て、大崩山山頂を目指しているのですが、まず坊主尾根への登り口が分からず、次にワク塚の登り口に来たけど、今度も見つかりませんでした。だから今度は三里河原へ行きます」とのことであった。
う~む。難しさでは九州屈指の大崩山に対して、あまりにいいかげんな登山計画であるが、ここまでいいかげんだとかえって清々しい。これが若さの特権か、と感心。
ただし、坊主尾根登山口も見つけられぬ者が、それよりずっと難しいルートの三里河原からモチダ谷を遡行できるとは到底思えず、そのまま行かせるわけにはいかんしょ。
「そっちのルートはヴェテラン向けだし、大崩山への一般的なルートはワク塚経由だから、そこまで案内しますよ」と私は言って、一緒に祝子川へ降りて行った。
【ワク塚渡渉部】

ワク塚渡渉部は、私のような一般男性にとっては、川から頭を出している岩を適当にぴょんぴょんと渡って対岸に行けばいいのであって、今までルートなど考えたことはなかったけど、いざこういう小柄な女性を連れて行くと、なるほどそういうやり方では歩幅が全然足りないことが判明。それで、ルートが分からず引き返したわけだ。
ただ河原をよくよく観察すると、上流側にルートがあることが分かり、そこを使って渡渉した。写真で赤テープが垂れ下がっているところが、渡渉後の入り口。
こういうところがあるのを、じつは私は初めて知った。いつもはもっと下流側から渡渉していたゆえ。
【登山道】

その女性には、これから迷いやすところはあるけど、赤テープはふんだんにあるからそれを見失わないように登っていってくださいとアドバイス。彼女は礼を言ってから、また快調なスピードで登って行った、というか走って行った。
登山道を登って行くと、高度が増したところで紅葉が多くなる。
向いの木内山岳の白い岩峰と、紅葉のコントラストが美しい。
そして袖ダキへの急傾斜に入ったころ、後方から軽快な足音が近づいてきて、私に追いつく者がいた。それはさきほどの女性であった。
なんで後ろから来るんだい、という感じだが、ここまでの道でいくたびも道迷いし、そして知らぬ間に登山道に復帰したとのこと。
相当に危なっかしいことやってるので、登山歴を聞いてみたら、マラソンとトレランが趣味で、でも登山そのものはあんまり経験がないとのこと。
とりあえずここから先は道ははっきりしているので、迷うところはないとは思われる。
それで、「このまま行くと、三叉路の標識があり、どっち方向も大崩山山頂には行けるけど、でも左側の袖ダキへ行かないといけないよ」とアドバイスした。
しかし、どうにも頼りない。おそらく単独では道なりに山腹ルートで大崩山に向かってしまい、「大崩山に登ったけど、展望もなにもありませんでした」と、初級者が大崩山に登ったときによくある間違いをおかす可能性は大と思われる。
それで私はギアを上げて、トレラン娘のペースに合わせて登って行き、道案内をすることにして、速度を上げて登山。 …ぜえ、ぜえ。
まあそういうわけで、ハイペースで袖ダキに共に到着。
【袖ダキ展望台】

大崩山を代表する風景。袖ダキ展望台からの眺望。
これを見逃しては、大崩山に登った意味もない、という風景である。
トレラン娘も感動しておりました。
【乳房岩から】

袖ダキに行ったついで、これは知らないと寄らない乳房岩も案内。
ここからの眺めもまた素晴らしい。
【縦走路】

大崩山ほどトレランに向いていない山もないと思われるが、そのなかで数少ないトレラン向きの登山道が袖ダキから下ワク塚ルート。
トレラン娘は、この道気持ちいい~と言って、さっそうと走っていき、あっという間に視界から去って行った。速い、速い。
【縦走路】

稜線上、下ワク塚を振り返れば、黄色に染まった葉と、白い岩峰のコントラストが美しい。
【縦走路】

中ワク塚を見上げれば、こちらもまた紅葉と岩峰のコントラストがまた美しい。
この週末は、大崩山の紅葉はちょうどピークであった。
【中ワク塚】

中ワク塚の手前は、窪みになっていた庭園風になっているのだが、いい具合に紅葉していて、京都の庭園に負けぬような、美しき庭園風風景となっていた。
【中ワク塚から上ワク塚】

中ワク塚から、上ワク塚を眺める。
天空に尖った岩峰を突き立てる上ワク塚と、周囲の緑と紅葉、そして青空。
峻厳たる素晴らしい光景。
中ワク塚から上ワク塚へ向かおうとすると、中ワク塚の岩壁の前で、岩を越えられず困っているふうなトレラン娘がまたも居た。
中ワク塚は、山の技術がある人はついつい稜線沿いにそのまま直行して、ドツボにはまりがちなのだが、トレラン娘もその轍にはまっていたようであった。まあ、岩壁を乗り越えるところまで行ってなかったので、良かったとはいえる。あの岩壁を越えると、進むも退くも大変だから。(経験者は語る)
…というか、袖ダキのところで、「中ワク塚はいったん行き止まりなので、100mくらい下るんだよ」と、アドバイスはしたのであるが。
またもやトレラン娘をガイドしつつ、上ワク塚へと向かう。
【上ワク塚】

上ワク塚へはいろいろと登り道がある。
正面からハシゴを使っての岩穴ルートは、出口が狭いので一般人には難しいが、トレラン娘のような小柄な人なら大丈夫だろうと思い、「あなたならこの道行けるだろう」と言って、私は裏ルートから登った。
写真にはその岩穴から出てくるトレラン娘が写っているけど、「脱出するの大変でした」と言ってたから、やはりこのルートは、あんまり使うべきものではないみたい。
ところでトレラン娘が、鹿納山の位置を聞くので、あそこの出っ張った山がそれだよと教えた。そして彼女の今日の登山計画は、鹿納山に行ってそれから三里河原に下りて登山口に戻るというものであることが判明。
玄人好みの、大崩山の魅力満載のコースである。ただ、これはあまりにハードだ。
「それって普通はテント担いでの一泊二日のコースだよ」と言うと、「私は地図記載のコースタイムの半分の時間で走破できます」との返事。
「そりゃ、あなたなら時間的には大丈夫だろうけど、ほとんど人とも出会わなマイナールートだし、道も分かりにくいし、さらに台風が来た後だから道も荒れているだろうか難易度高い。絶対に道迷いするからやめておいて、山頂行ったあとはまた戻って坊主尾根ルートで下山したほうが無難」とアドバイス。
トレラン娘は、とりあえずその一般コースで下ることを納得したようであった。
初めての大崩山登山を、権七屋谷を使ってのワンディ登山という、成功すれば若き日のいい思い出になる経験を、私のアドバイスで御破算にしてしまったみたいだが、登山口からの流れからして、このシチュエーションならば、百人が百人とも同様のアドバイスをするでありましょう。
【七日巡り岩】

上ワク塚から見る風景の一番の魅力はこの七日巡り岩。
今の季節は、紅葉に囲まれて、いい雰囲気である。
そして、上ワク塚に登ったとき、私に挨拶をしてこられた人がいた。
宮崎市の自転車仲間のSさんだった。じつはSさんが登山する人とは知らなかったので、びっくりしてしまった。先週は私と同様に大船山に登ったそうで、今の季節、九州の登山好きは同じような山を登っているようである。
【上ワク塚】

Sさんと会話して、それから休憩中のトレラン娘に、くれぐれも鹿納山には行かないように言ったのち、私は下山に入る。
上ワク塚を下って、基部の紅葉。
ここは樹の形が独特であり、ななめに入る陽光の効果もあって、美しい風景となっていた。
【象岩】

上ワク塚からは、小積ダキを経由してのパノラマルートで下山。
今日の紅葉は、象岩周囲が最も鮮やかだったようである。
【紅葉】

今日の紅葉のうち、一番の美人さんは、象岩手前のこの紅葉であった。
このレベルの紅葉が全山まとったなら素晴らしいのだけど、なかなかそういう年はない。
【坊主尾根】

坊主尾根周囲も、紅葉が美しい。
大崩山は紅葉の時期、花崗岩と紅葉のコントラストがまた見ものである。
【坊主尾根渡渉部】

坊主尾根を下りきり、大崩山を見上げる。
いつもながら、ここで登山の満足感にたっぷりとひたる。
ところで、私は今日は、夕方の午後6時に知人の結婚披露宴に招待されていた。
それで下山したのちは、午後4時台のJR特急に乗ってで宮崎市に行く予定であった。
しかし私は大崩山パノラマコースはいつもは5時間半前後で回っていたのだが、本日はトレラン娘の速度に知らず知らず引きずられ、4時間45分で回っていた。おかげで、予定よりも相当早く下山できたことから、一本前の各停を利用することができ、結果特急券分節約することができた。
というわけで、トレラン娘と遭遇したおかげで、特急券820円分が節約できたという、なんだかせこい話で、この記事を〆るのであった。