映画:イン・トゥ・ザ・ストーム
上映映画の枠のなかで、毎年必ず数作は上映される大災害(ディザスター)モノの、その今年分のうちの一作。
この分野の映画に関してはエメリッヒ監督の「2012」が、世界が滅びる様をCGを駆使した圧倒的な画力でまざまざと見せつけ、大災害の映画的表現に関しては、この映画で全ては表現尽くされた、という感がある。
そして今回の映画では災害の主役は竜巻であり、「2012」レベルの世界規模の災害とはモノが違い過ぎ、画像は期待できないなと思っていたけど、…
なんの、なんの。
災害のとんでもない迫力が間近に感じられる作品であった。
よく考えれば、災害がどんな規模であろうが、それを経験するのは個人の人間なのであり、目の前で繰り広げられる災害が圧倒的であれば、映画の画力も圧倒的になるのは当たり前であったのだ。
空気の高速の渦である竜巻。
竜巻はピンからキリまであり、そのピンのスケールのものがアメリカでは多発することはよく知られている。たまには、町一つを崩壊させる竜巻が生じることもあり、アメリカでは竜巻は深刻な自然災害をもたらす存在となっている。
竜巻はアメリカでは身近な存在なため、その姿を記録する「竜巻ハンター」は立派な職業として成り立っており、本作における竜巻ハンターのピートは、特殊車両を使って竜巻を追いかけている。
竜巻は非常に複雑な気象条件の結果生じるため、それをリアルで記録するには、運も必要であり、ピートは一年間運に見放されている。
ところがテキサス州にその一年間の不運を吹き飛ばすような、強大な竜巻が発生しそうな天候が生じていることを知り、ピートとスタッフはその地シルバーストーンに向かう。
シルバーストーンは小規模な町であり、その日にはちょうど高校の卒業式が行われ、市民たちは普通の生活を送っている。
それぞれの市民、家族にはそれぞれの物語があり、卒業式に際しての、市民たちのビデオメッセージには、結局はそれぞれの物語が、それなりの波乱はあれど、無事に続いて行くのだろうなとのことが語られている。
しかし気象条件は激しさを増し、ここで発生した竜巻は、それこそ竜巻を追ってきた竜巻ハンターでさえ予想もしなかった、シルバーストーンの街全体を破壊し、市民の大量犠牲が避けられないような超巨大竜巻となっていた。
この超トクダネ級、そして破壊神のごとき竜巻をめぐり、竜巻ハンター、それに市民たちが生き残りのために懸命の努力を行う。
その過程と結果を描いた映画。
悪天候のなか、天空から悪意を持ったように下りてきて、地上を破壊しまくるいくつもの竜巻の画像がまず迫力満点。
それから最後に登場するラスボスの超巨大級竜巻は、あまりに巨大すぎ全体像が見えないけど、周りの全てを破壊するシーンでその凄まじさが分かるし、かつ最終盤で見せる、その天空からの眺めは神々しいまでに美しい。
竜巻が主役のこの映画では、けれども竜巻だけで話を進めるわけにもいかず、人間ドラマもそれに絡めて描かれている。
その主筋はこの手の災害ものでは定番の家族愛ものなんだけど、ベタではあるが、よく出来ている。特に家族と生徒を助けるために奮闘する教頭役のリチャード・アーミテッジが、いかにもテキサスの親父という感じの逞しく理想的な父親を演じており、存在感が強い。
またそれとは対称的に、竜巻のことばかり考えている非人間的な竜巻オタクと思われていたピードが、じつは崇高な英雄的精神を持った人物ということが終盤で明らかになり、これも感動的。
たいへん面白かった映画であった。
竜巻ファンが本邦にはどれだけいるのか知らないけど、それらの人には「ツィスター」以来の大傑作として勧められるだろうし、ディザスターものが好きな人にはこれも十分勧められる。
そして、「イン・トゥ・ザ・ストーム」は映画そのものとしても、よく出来ており、今年の夏の映画では、この作品は高い評価を受けるのではないだろうか。
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映画:イン・トゥ・ザ・ストーム 公式サイト