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March 21, 2014

オペラ:ローエングリン@香港芸術節

 「香港・音楽と食いものの旅」の、音楽のほうの主目的であるヴァグナーのオペラ「ローエングリン」の観劇。
 香港は芸術に関心の高い都市であり、音楽祭が定期的に開かれている。このローエングリンは、春の一ヶ月間に及ぶ音楽祭のうちの一演目であり、フィンランドの「Savolinna Opera Festival」を招いての上演である。

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 ローエングリンというオペラは、中世のドイツを舞台とした一種のお伽噺である。
 そこには、ゲルマンの深い森、威厳高きドイツ王、凛々しき騎士ローエングリン、可憐な王女エルザ、悪辣な魔女オルトルート、等々お伽噺らしい背景と人物が満ちているのだけど、今の時代ではそういう台本そのままに演出することは時代遅れと認識されているようで、だいたいは現代風なひねりが加えられている。

2

 今回のオペラで一番の特徴は白鳥の騎士ローエングリンが、聖杯の守護者にふさわしい神秘性や英雄性は微塵もなく、奇人変人として登場していたことである。
 ローエングリンはその出現時、国王がその奇跡に対する感謝と感動の言葉を述べ、周囲の者もみなそれに聞きふけっているのに、一人だけ動きまわり、所々で立ち止まって手で構図を取っている。いったい何をしているんだろうと観客は不思議に思うのだが、ローエングリンがビデオカメラを取りだしたり、絵を描いたりすることで、やっと彼が動画撮影や絵のデッサンのためのいい構図を探していた、ということが分かる。

 ローエングリンは、剣の腕はよかったが、その前に(センスのよくない)モダンアーティストであったのである。モダンアーティストというのは、現代でも理解されにくい職業であるが、あの時代ならもっとであろう。

 ローエングリンのアーティストとしての乗りはそのまま続き、第三幕エルザとの最初の夜でも、まずローエングリンは寝室のなかに自分の画いた(下手な)絵をいくつも持ち込み悦にいっている。
 そして現れたエルザに白い服を着せ、そこに置いている絵と同じような色を塗りつける。

 最初のうちは笑っていたエルザも、その執拗なお絵かきにキレて、「いったい、あんたなんなのよ!」と、ローエングリンの正体を問い糺す禁断の問いをしてしまう。さらには、狂乱状態になって、ローエングリンの自慢の絵をビリビリと引き裂く。
 ローエングリは絶望し、エルザと別れることにする。

 こんな変なやつが夫になろうとしているのなら、エルザが怒り、正体を知ろうとするのは当たり前であるので、「Who are you ?」という問いかけをするのはよく理解できるけど、…これは大元の台本とは相当に異なる解釈だとは思うのだが。
 台本にはローエングリンが「人間離れした人物」とは書かれているが、「人間離れした奇人変人」とは書かれていないし。

 まあ、観ているぶんには面白く、時にゲラゲラ笑いながら観ることが出来たのだが、…それって「ローエングリン」というオペラの本筋からとても離れているように思うのは、私が真面目すぎなのか?


 そんな感じで主筋はコメディチックに進行するのだが、副筋のテルラムントとオルトルートの悪党夫婦の物語のほうは、けっこう深くて感動的。

3

 魔女オルトルートは、己の野望と欲望のために夫テルラムントを利用し犠牲にしたと普通は解釈されている。
 しかしこの劇では、オルトルートは夫を心から愛し、彼を出世させるために懸命に自分の力を使っていたように演出されていた。夫が亡くなったときの彼女の絶望と悲嘆、そして自殺までのシーンは、悲哀感あふれる感動的な流れであった。
 とくに、オルトルートを演じたJordanka Milkovaは、歌唱力も演技力も優れており、このオペラの一番の見ものであったと思う。

 歌手陣は、オルトルートを筆頭に国王、伝令、エルザ、テルラムント、なかなかの水準だったが、肝心要のタイトルロール、ローエングリンが駄目だったのは残念。
 ローエングリンという役に要される、高音の伸び、声量、声の輝かしさ、そういうものが全くなく、ローエングリンというオペラの魅力を引き出せていなかった。
 オペラ・ローエングリンでは、ローエングリンは聞かせどころがたくさんあり、その歌は観客を陶然とさせるものに満ちている。テノール歌手という職業を選んだとき、ローエングリンが歌えることは最大級の誇りだと思えるのだが、そういう誇りが全く感じられない歌唱であった。

 こういうことを書くと、「ローエングリンをまともに歌えるヘルデンテナーが世界に何人いると思っているのか」という突っ込みが来るんだろうけど、やっぱり他が良かっただけに、愚痴も言いたくなるは仕方なかろう。


 ところで、このオペラ、一階前から3列目という良い場所で、チケット代は980香港ドル(13000円)であった。
 地下鉄代、タクシー代、食事代等で香港のコストパフォーマンスの良さは知っていたが、音楽も同様にコストパフォーマンス抜群。
 香港、いいところだ。

Loe


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