映画:キックアス
B級映画の傑作キックアスは、続編がすぐにもつくられるという話だったのに、なかなか撮影スタートという話を聞かないまま、時が流れていた。続編は第一作同様にヒットガールをクロエ・モレッツが演じるであろうけど、あんまり時間がたつと「凶暴な美少女 ヒットガール」を演じるには、薹が立ち過ぎ、撮影不可能となってしまうだろうから、もう続編はつくられないのだろうな、と漠然と思っていたら、いつの間にか続編が出来ており、来月に封切られるそうだ。
一作目は本邦ではコケたけど、たいへん出来のよい映画であったし、続編もあのレベルなら今度こそヒットしてもらいたいものだが、さていかに。
一作目のキックアスの話。
映画冒頭は主人公のモノローグから始まる。
誰もがヒーローに憧れるのに、じっさいにヒーローになろうとする者はいない。世の中には悪が満ちあふれているのに、現実の世界にヒーローはいない。なぜか? その理由を良く分からないまま、主人公は自分がヒーローになることを決意する。彼は通販で買った安っぽいヒーローコスチュームを身にまとい、ヒーロー「キックアス」と名のり、街の治安活動に乗りだす。が、キックアスは常人なので、何の武術も武器ももってなく、悪人を懲らしめようとしても、反撃されて大怪我をする羽目になるのみである。それでもこりずにヒーロー活動を続ける彼は、次第に町の有名人になる。
そういうキックアスにある親子コンビが興味を持つ。ある時、キックアスが麻薬中毒者たちの溜まり場に乗り込んで、絶体絶命の危機に陥ったとき、彼ら親子コンビは圧倒的な戦闘力を発揮して、ジャンキーどもを片づける。この親子コンビ、ビックダディとヒットガールは、バットマンとロビンのパロディみたいなコスチュームであって、いかにもヒーローっぽい。
この流れからして、ヒーローに憧れた凡人青年が真のヒーローと出会い、ヒーローに成長していく物語なのかなと思いきや、じつはそうではない。
ビックダディは彼の一生を台無しにしたマフィア組織への復讐のために、己の高潔な精神を変容させ、さらに肉体的鍛錬を重ねて超人的能力を得た、悲劇的人物である。さらには自分の娘を幼い時から殺人術を教え込み、殺人マシーンとして育てあげた、狂気の男でもある。この狂気の男と殺人マシーン娘は、その私怨の対象者にたいしては、なんの躊躇も逡巡もなく、バッタバッタと殺していく。
まったくその殺戮は、そこになんの感情も入らず、まるでゲームのように行われる。
例えば、ヒットガールの最初の出現シーン。麻薬ジャンキー達を前に、ヒットガールは「OK you cunts, Let’s see what you can do !」と言い放ち、それから薙刀をぶんぶん振り回し、部屋中を血で染めあげる勢いで、全員を切り捨ててしまう。このヒットガールの動きの機敏さと、それにそこで流れる乗りの良い音楽で、本来陰惨な殺戮劇であるこの場面が、妙にポップで陽気なものに感じられ、爽快感まで感じさせてしまう。
このいかれた親子の怪進撃はずっと続き、非情の攻撃でマフィアを追いつめていく。
しかし反社会行為に対して、それを上回る反社会行為で対抗していくという行為は、自身の破滅にしかつながっていかない。
ビックダディは斃れ、かろうじて逃れたヒットガールは、それでも復讐を止めようとはしない。最後の決戦に行くヒットガールにキックアスは「独りでは無理だよ」と言うと、彼女は「Exactly」と答え、彼の支援を求める。
ここでキックアスは覚醒する。武装をして復讐に行ったヒットガールを援護するため、キックアスはヒットガール所有の30万ドルのヒーローアイテム(?)を使いこなすよう、マニュアルを必死で勉強する。
キックアスの勉強中、敵方の本拠地ビルに乗り込んでいったヒットガールは、凄腕マフィアたちを相手に、卓越した体術と射撃術を使って、大量の殺戮劇を繰り広げる。
しかし多勢に無勢はいかんともしがたく、敵の反撃に追い詰められたヒットーガールのもと、ついに我らがキックアスの登場!
といった感じで、映画は大団円へなだれ込んでいく。
この映画、題名がキックアスなので、彼のヒーローへの成長物語と思いきや、じつはそれは脇筋であった。
主筋はダークヒーロー、ヒットガールの物語である。
人間の感情を持たぬ殺人マシーンとして育てられた少女アンディが、人間に興味を持ち、好意を抱き、そして信頼するようになる過程が映画のテーマであった。この映画はヒットガールが人間に成長していく、そういう物語なのである。
まあ、そういう小難しいことを言わずとも、この映画ではヒットガールの存在感は他を圧している。
下品な俗語を連発して放ちながら、超人的な体術を駆使して、悪人どもを何のためらいもなく殺戮していく。そして、マスクを脱げば見た目は無邪気な美少女なので、そのギャップも相まって、ヒットガールはヒーローの歴史のなかでも特異な存在となっている。
この映画は興行的にはこけたけど、ヒットガールを世に生み出しただけでも、十分映画史に残れる傑作となっている。
クロエ・モレッツはこの映画が出世作であり、人気俳優となった。けれど、ヒットガールの印象があまりにも強かったため、その後「美少女だけど変な少女」が彼女の指定席のようになり、その手の役はたいてい彼女が演じている。クロエは正党派美少女なので、本人としてはあんまり納得いってないのでは。
さて、続編の作成が危ぶまれていたキックアスであるが、なんとか完成し、2月に上映とのことである。
主役はヒットガールであろうが、いったんヒーローを引退した彼女が、いかなる成長を遂げ、いかなる活躍をするのか。そして一夜限りのヒーローであったキックアスはいかなる役回りとなるのか。
ポスター見ると、B級映画のにおいがプンプンするので、前作に似た路線で行くみたいだけど、なにはともあれ封切を楽しみにしておこう。
………
キックアス2 公式サイト