映画:47RONIN
日本の時代劇でももっとも人気のある題材「忠臣蔵」を、ハリウッド流に翻案し、170億円もの製作費をかけてつくられた大作。で、つくってみたはいいものの、あまりに内容に無理があるため、お蔵入りになりかけたという逸話もある曰くつきの映画でもあり、馬鹿映画のにおいがプンプンする作品でもあるが、さて実際にみてみたらどうであろう。
映画は、まずは日本の赤穂というところから始まっているのだが、侍たちは侍という身分にこだわっているわりには丁髷も結っていないし、格好からして侍らしくない。彼らは狩りを始めたが、その狙いの「ケモノ」が姿を現すと、それは体長が少なくとも5mはある日本にいるはずもない動物であり、その姿をよく見ると、どうやらこれは中国の妖怪「麒麟」のようである。
その後、獲物をしとめたのち城下に帰れば、城はいちおう「日本風(or黒澤明風)スーパー城」という感じであるけれど、建物、住居は中国風、ベトナム風であり、女官たちの着物は朝鮮宮廷風である。そして赤穂藩主催の御前剣術試合のため、絶対権力者の将軍が招かれるわけだが、どう見ても将軍のその格好は清朝の皇帝のそれである。
というわけで、この映画は最初のほうからして既に、「日本の描写の勘違いぶりを笑う、とか突っ込む」たぐいの映画なのではなく、忠臣蔵を題材とはしているけど、その舞台はアジアのどっかにあったらしいファンタジーワールドを舞台にした、剣士物語であることが分かる。
とはいえ、やはり日本の地名は使われているわけで、そこのところにはどうしても突っ込みをいれたくなってしまう。
大石内蔵助は、奴隷として長崎に売られた、赤穂藩の異人「カイ」を、討ち入りの助っ人として連れ戻しに、長崎へと向かった。大石内蔵助は断崖絶壁が続く海岸線を越え、その果てに煌々と怪しい光を放つ建物が並ぶ魔界のような都市、長崎にたどり着く。…いったい、それどこのナガサキだい。
また、長崎の出島にカイは囚われているのだが、その出島では地下で奴隷たちの殺し合いショーが行われていて、異国の紳士淑女たちはそれを大興奮して見物している。…いや、オランダ人そんなことしないっしょ。
などなど、こういう突っ込みを入れてしまいたくなるのは、私が今までの洋画の日本のトンデモ描写に毒されて、突っ込みを入れるのが習慣になっていたからであろうな。
映画の本筋に戻れば、赤穂の殿が吉良上野介の術にかかり罪を負わされる→赤穂藩は取りつぶしになる→赤穂の浪士が雌伏して戦力をたくわえる→オリジナルキャラのカイが超常の者の助けを借りて戦力をUPする→浪士自らの死を覚悟し、ついに討ち入り、という元々の忠臣蔵に沿った内容である。四十七士の行動は武士道というものを知らないと理解しにくいところもあるのだが、この映画では真田広之の好演もあり、武士道をうまく説明できていた。
そしてその討ち入り劇が、妖獣あり、妖術あり、天狗あり、魔女あり、等々のファンタジーワールドで行われており、内容に関しては豊富なものを持っている。
すなわち、馬鹿映画と思いきや、ずいぶんと真面目につくられた映画であり、A級とまではいわぬが、準A級のファンタジーとなっていると思う。
ただし、忠臣蔵という素材じたいが内容量が多く、それに付け加えられたファンタジー要素も多いので、2時間7分という上映時間では、映画は少々駆け足ぎみに進んでおり、物足りないところがあった。だから、欲をいえば二部作くらいにすればよかったのではとも思う。
さて、ハリウッドは、アメコミの使いまわしでも分かるように、オリジナル脚本が枯渇しているようである。
日本には、「平家物語」「八犬伝」[四谷怪談]「太平記」「国性爺合戦」…等々いくらでも映画化してもらいたい原作があるので、この「47RONIN」を先駆けとして、ハリウッドが手を出してもらえないものであろうか。
まあ、そのためにはこの「47RONIN」がコケないことが大事なのだが、…う~む、私の予想ではコケる率が90%以上なのが、ちょっとつらい。
この城郭は、敵役の吉良家のものである。櫓をいくつも囲わせて屹立する本丸、これはとても格好いいのだが、やはり、これはちょっと違うぞ、いやものすごく違うぞ、と突っ込んでしまうのは、日本人としては仕方ないであろう。
…………………………………
47RONIN 公式サイト
「映画」カテゴリの記事
- 映画 キャッツ(2020.02.24)
- 映画:ゴジラ キング・オブ・モンスターズ(2019.06.30)
- 映画:アベンジャーズ・エンドゲーム(2019.05.02)
- 事象の地平線@ブラックホール撮影の快挙に思う(2019.04.11)
- 映画:翔んで埼玉(2019.03.08)
The comments to this entry are closed.
Comments
やっぱオマケの画像を見てあれは無い

でしょ~
ラスト・サムライ以下の匂いがします。
アジアを描いた映像はブレード・ランナー
かブラック・レインが最高だと思ってます。
両方 R・スコット監督という事が興味深い
です
Posted by: キヨシ | December 10, 2013 10:28 PM
ラスト・サムライとは、方向性が全然違う映画でしたので、これはこれでありかと。
ブレードランナーにしても、結局は映画監督のセンスで、その映画の世界は決まるわけですので、いろいろな監督がハリウッドの大資本を使って、日本なりアジアなりを舞台にして、楽しい映画をつくってもらうことを期待しております。
Posted by: 湯平 | December 11, 2013 07:25 PM