映画:バックコーラスの歌姫たち
きらびやかなスターがステージ中央で演奏するとき、バックで演奏を支えるバックコーラスの歌手。彼女たちは、素晴らしい歌唱力を持っており、ステージにとって欠かすことのできない存在でもある。
しかし、彼女たちがスポットの当たる表舞台に出て来ることはほとんどなく、たいていは無名のまま、いつかはステージを去ってしまう。
その彼女達の音楽と人生を描いたドキュメンタリー映画。
この映画、バックコーラスの人たちが主役なので、普段は注意をもって聞くことのない、彼女達の歌声がよく流されるのだが、…これがマジに上手い。
例えば、ローリンストーンズの名曲「ギミー・シェルター」をyoutubeで紹介すれば、
【GimmeShelter】
ここでバックコーラスを担当しているのは、リサ・フィッシャーという歌手である。そして動画で分るように、彼女はメインボーカルのミック・ジャガーよりも遥かに歌が上手い。声域、声量とも桁外れで、驚異的な歌唱力を持ち、途中のソロパートなど観客はここで一番盛り上がっている。
これほどまでに実力ある歌手なので、彼女はソロデビューも行い、音楽的にはかなりの評価は受けたものの、その得た人気は、本来の歌の実力にはとても届かぬものであった。
そして映画に登場するバックコーラスの歌手たちは、みな、リサ・フィッシャーに劣らぬ実力派ばかりである。例えばダーレン・ラブという歌手は、彼女と組んだスターたちはみな、彼女の歌を称賛している。
彼女の歌はとても素晴らしかった。しかし、彼女自身はかなりひどい扱いを受けた。
彼女が歌ってレコーディングした曲は見事な出来であったのだけど、彼女の名前では売れないと判断した敏腕プロデューサーは、別の人気歌手の名前でレコードを発表し、大ヒットした。
当然それが不満なダーレン・ラブは、そのプロデューサーときちんと約束をして、新たな曲を録音してレコードを出したのだが、…またも違う歌手の名前で出され、やはり大ヒットした。
いろいろあってやる気をなくしたダーレン・ラブは、歌を諦め、家族を養うために家政婦として働いていたのだが、ある日雇い人の家を掃除しているとき、自分が歌った(しかし他人の名で出された)曲「Chrismas(Baby Please Come Home)」が部屋のラジオから流れるのを聞き、なんていい曲なんだろうと思い、自分は歌うべきなんだと、歌手にカムバックした。そして、あまり売れはしなかったものの、音楽通からは評価されロックの殿堂入りを果たした。
いい話なのではあるが、…彼女自身の歌の力からは、その栄光はまだ小さいものといえる。
ちなみに、ダーレン・ラブを騙した悪辣なプロデューサーは、若き日のフィル・スペクターである。ああいう倫理を超越した人ならそういうこと平気でやるだろうなあ、とこちらも納得。今は塀の中にいるし。
この他、いろいろなバックコーラスの人の人生が紹介され、どれも興味深い。
そうして、あれほどの歌唱力を持つ人たちが、メインステージに立つこと殆ど無きことについては、彼女たちを高く評価し、一緒のステージで歌うこと多かった大スターのブルース・スプリングスティーンやスティングがインタビューで答えている。
「バックコーラスの位置から、ステージのメインまでは物理的距離はたいしたことはない。しかしその距離まで行くのは、じつはとてもとても難しい。バックコーラスは歌全体をまとめ上げることさえできればよいのだが、ソロは単独で全体の芯になり、方向を決め、流れをつくらねばならない。それはとても精神的に厳しく、創造性も必要なのだ」というふうなことを、全体で言っていた。
たしかに歌が超絶的に上手いからと言って、それでスターになれるかといえば、全然そうではないわけであり、スターになるには、生まれ持った才能が必須なのだろう。
しかし、それでもスター歌手にはスター歌手の魅力があるように、バックコーラスにも独自の素晴らしい魅力があることを、この映画はとてもよく教えてくれた。
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バックコーラスの歌姫たち 公式サイト
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