« ETOランドヒルクライムレース@第一回大会 | Main | 光洋は大忙し »

November 21, 2013

勤勉な無能者ほど有害なものはない -西山事件

【国会参考人招致における西山太吉氏
: 時事通信社より】
Fig_2


 今国会で最も問題となっている「秘密保護法案」。
 この法案が成立したとき、マスコミ側は「著しく不当な取材」を行うと処罰の対象となる。その「著しく不当な取材」の具体例について質問された担当大臣は、「西山事件の判例に匹敵するような行為だと考えております」と答えた。

 もう40年以上も前になるのに、いまだ国会で名が出る報道史上の大事件、西山事件。その当事者、西山太吉氏が参議院の特別参考人として招致され、この法案についての意見を述べた。
 その西山氏の姿をみて、私はいろいろと複雑なものを感じられずにはいられなかった。


 西山事件について簡単に述べる。
 1972年、沖縄が日本に返還されるとき、本来米国が責任を負うべき現状回復の費用は日本が負担するとの密約が結ばれた。
 当時毎日新聞の記者であった西山氏は、この交渉に怪しいものを感じていた。それで沖縄交渉を担当していた外務省部門の事務官と男女関係を結び、彼女からその密約についての情報を得ることに成功した。妻子ある身の者が、人妻を拐かし、重要な情報を得る行為は、きわめて倫理にもとることではある。ただし世の中には倫理を乗り越え活動せねばならぬ職業というのが少なからず存在し、例えばスパイなんてはその典型であろうが、ジャーナリストもそのたぐいに含まれることは否定できない。そして、彼が得た情報は超特級のものであった。現在まで続く日本の米国との不平等な関係の、その始祖の証拠のようなものであり、これについて国民レベルで熟慮すべき問題を提起すべき大チャンスであった。
 しかし西山氏は、その超特級のスクープを手にしたものの、それを活用することができなかった。
 この密約を堂々と毎日新聞で記事にするには、そのスクープのソースをきちんと出さねばならない。そうでないと、せっかくのスクープもただの怪文書もどきになってしまう。しかし、ソースを明らかにすることは、事務官の公務員法を犯した犯罪を暴くことであり、さらに互いの不倫を明らかにすることである。記事は大反響を呼ぶであろうが、互いの家庭は破綻し、さらに事務官は職を失うことになる。
 そこまでの度胸はなかった西山氏は、ソースをぼかした沖縄返還交渉の記事を書く程度のことしか出来ず、それはなんら注目されなかった。
 西山氏は、情報を狙う能力、人妻をたぶらかす能力はあったが、ジャーナリストとしての肝心の能力、情報分析力とか情報発信能力はからっきしであり、せっかくの大スクープをかかえたまま悶々と過ごすことになった。

 西山氏は、その手の能力はなかったのだから、己の無能を嘆いて、この件はそのまま放棄しておけば、なにも起きなかった。
 しかし、西山氏はそのスクープを使いたくてたまらなかったらしく、ここでとんでもなく愚かな行為に走る。その情報を、他の能力あるジャーナリストに渡すのではなく、野党社会党衆議院議員の横路孝弘氏に渡したのだ。いちおう「ソースは秘匿するように」とは依頼したそうだが、社会党議員ごときにそんな良識を期待するほうが間違っている。横路氏は、いざ突進!と、国会内でその密約文書のコピーをふりかざし、佐藤内閣を追求した。日米交渉の不平等を追求するまたとない資料を、横路議員はただの倒閣の道具にしてしまったのである。そして密約文書コピーは、そのまま国会中継され、情報の出所はあっという間に判明した。

 この後のドタバタは最高裁裁判まで到り、いくらでも情報はweb上にあるので詳細は省くが、結果、西山氏と事務官氏は破滅した。また毎日新聞は、当初は西山氏をかばったのだが、「不倫により違法な手段で情報を入手した。それを自社の記事に使うならまだしも、野党の議員に渡した。新聞記者が倒閣運動に手を貸すとはなにごとか」との糾弾については申し開きのしようもなく、一切の擁護はやめた。しかしそのような社員を雇っていた毎日新聞に対する世間の憤りはおさまることはなく、毎日新聞は部数を減らしていき、やがて倒産の憂き目にあった。毎日新聞は会社更生法により再建したが、かつての大新聞社が今ではデマばかりのタブロイド紙扱いされるまで落ちぶれたのは、西山事件に端を発する。そして、これが肝要の米国との不平等な交渉問題については、この騒動にかきけされてしまい、あやふやとなってしまった。さらには西山氏への政府の激怒ぶりに新聞各社は委縮し、この後新聞記者は政治のスクープを扱うことに憶病となり今にいたる。現在でも、政治スクープが新聞でなく、月刊誌や週刊誌でばかり為されているのは、ここに原因がある。


 西山氏は、事件の騒動で自分の職と家庭を失い、同時に事務官の職と家庭をも奪った。さらには、自分の務め先の大企業を倒産させ、同業者の取材活動を委縮させ、40年たった今も悪事の典型として自分の名が国会であげられる。
 このように西山氏は、およそ常人が束になっても為しえぬとんでもないことを、いくつも成し遂げた報道史上の伝説的人物であり、彼が非凡な人物であるのは間違いない。
 しかし、彼が能力を発揮したのは、違法でインモラルな情報収集であり、肝心かなめの情報活用能力はすっからかんであった。だから彼はジャーナリストとしては、情報収集のみに情熱を発揮しておけばよかったのである。ところが、彼は自分の最も能力のないところで能力を発揮しようと焦ってしまった。その分野の能力のないものが、そこで能力を発揮しようとして、良い結果が生まれるわけはない。彼の無能力さが、甚大な災いをもたらしたのは、その後の経過が如実に物語っている。

 こういう経緯をみると、かつてのドイツ参謀部の格言、「勤勉な無能者ほど有害なものはない」ということが、とてもよく理解できる。

 西山事件から40年がたつのだが、事件があまりに広汎な範囲に渡ってしまったため、彼により被害を受けたものは、いまも数多くが存命しているであろう。
 国会参考人聴取で、意見を述べる西山氏の姿をみて、彼らは苦々しいものを感じざるをえなかったのではなかろうか。

 …………………………………
西山事件参考資料
 西山事件最高裁判例 
 運命の人 (著)山崎豊子
 メディアの興亡 杉山隆男(著)

|

« ETOランドヒルクライムレース@第一回大会 | Main | 光洋は大忙し »

雑感」カテゴリの記事

時事」カテゴリの記事

Comments

不倫とはまた聞こえの良い言葉ですね。
酔い潰した上での強姦でしょう。
ここだけ見てれば「スーパーフリー事件」と大差無いわけです。

Posted by: えまのん | December 20, 2013 04:21 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 勤勉な無能者ほど有害なものはない -西山事件:

« ETOランドヒルクライムレース@第一回大会 | Main | 光洋は大忙し »