東北への誘い(いざない)
東北は、食、歴史、温泉、風景等魅力あふれる地であり、旅行好きの私としてはよく訪れていた地であった。大震災の起きた年も、その夏に訪れたのだが、さすがに津波の直撃した土地は、観光客を受け入れる余裕もなく、いまだ混乱の極みであろうと思い、石巻駅周囲を見るくらいだけに留めていた。
そして大震災から2年半が過ぎ、もう震災地も落ち着いているかと思って、震災地主体に訪れてみたが、いろいろと得るものが多い経験となった。
ところで、震災地を訪れたとき、その地の営業担当のような人たちからよく聞いた言葉。
「日本人は真面目な人が多いから、震災の地を観光で訪れると、冷やかしとか、あるいは物見遊山で来ていると思われるような気がするので、行くのを躊躇してしまう。ならばボランティアで行こうかなと思っても、素人の自分が行っても役に立たないだろうとか思ってしまい、やはり行く気が出ない。で、結局東北に行けない。日本にはこういう真面目な人が多いので、震災から2年半が経つのに、東北に来る人が少ない。
でも、復興復旧には、ともかく人が来ることが大事です。東北でなにか物を買わずとも、そこに泊まって、そこで食事をとるだけでも、東北の物を食べ、東北にお金を落とすわけで、それが東北にとってとても重要なことです。そしてなにより、東北に人が来てくれるということが、東北人にとってどれほど勇気づくことか、それが分かってほしい。ぜひ東北に来てください」
被災経験のまったくない私であるが、彼らの言葉は、まったくその通りだと思うので、私もblogに記しておく。
そして、そういうわけで、私も東北観光宣伝の一助として、「今の東北の魅力」について書いてみたい。なにしろ、震災支援云々は抜きにしても、東北は今の日本で最も興味深く、見る価値の高いところであるからして。
東北という地は、海・山とも自然の恵みが豊富なところであるが、沿岸部に弱点を抱えている。東北沖が地震の宝庫であるため、沿岸部は定期的に津波に襲われるため、ここには大きな交通インフラを築くことが出来なかった。
沿岸部の都市は国道45号線でつなげられていたが、東北の大動脈である東北自動車道、東北新幹線は沿岸部を離れた内陸部を通っている。そのおかげで今回の大震災では、大動脈の被害は軽微であり、健全であった。
しかしながら当然沿岸部の国道45号線はズタズタに破壊され、まったく機能しなくなった。東北自動車道は生きていたので、全国からの物流はそれを使い、東北自動車道から派生している枝道を使って被災地に届けられることになったのだが、その枝道はいずれも貧弱であり、物流の流れは滞っていた。
現在の文明において、物流は極めて重要であり、これが断たれると都市は一挙に機能を失ってしまう。今回の大震災では、東北は交通インフラが脆弱であったことが、最大級の弱点であることが露呈された。
今、東北に行くと、道路を多くの建築資材や鋼材を積んだ大型トラックが走っている姿を見る。それは今なお、被災地の整地作業を行っているからもあるのだが、もう一つは大掛かりな道路建築を行っているからである。
東北では、東北自動車道に加え、新たにもう一本高規格道路を沿岸部に建築中である。山と海ばかりのリアス式海岸部に真っ直ぐで幅広の道を造るわけだから、橋とトンネルだらけの難工事を要する道路となっているが、それでも着々と工事は進んでいる。
それらの工事の風景はいずこでも見られたが、これは陸前高田市のもの。
津波で全てが押し流された平地部の工事に加え、背景の小高い丘でも重機がいくつも入って大工事中である。
今までの陸前高田の姿からすれば、まったく変貌を遂げた姿であろう。
現在工事中の高規格道路は復興道路と呼ばれており、三陸沿岸部にまず一本の大きな基幹道路を造る。このことにより東北の大動脈は二本となり、さらにもう一つの大動脈の東北自動車道にも梯子状に高規格道路を繋ぐことが計画されている。
このことにより、また大津波が来ても、交通インフラは保存され、物流は途絶えることはない。
東北は、復興道路を得て、津波に耐えうる強靭な体力を持つ地に生まれ変わろうとしている。
沿岸部の交通において、もう一つ重要なものが鉄道である。
鉄道は人を運ぶ量の多さと、時間の正確さから、人々の暮らしにとって欠かせないものであり、これが無くなると沿線の町は一挙に寂れてしまう。
東北沿岸部を走る三陸鉄道は、地震と津波が多い地であることから、特にそれらに対して強固な造りとなっていた。基本的には高さのあるところを走り、橋なども特別に強靭に造られていた。
しかしながら、今回の大震災では、その強固な造りの鉄道がズタズタに破壊されてしまい、一時は再開の目途も立たない状態であり、廃線も検討された。けれども、鉄道は沿線の人々の生活の基本であるという認識から、再建が決定された。
【島越駅@「さんてつ」より】
漫画は震災直後、三陸鉄道の破損の状況を調べるために、社員たちが線路沿いに調査を行っていたとき、最も頑丈に造られていたはずの島越駅が無残に破壊されている姿を見てショックを受けるシーン。
元々島越駅は小高いところに建てられており、二つのトンネルを耐震性に優れた構造であるラーメン橋梁で結んだ位置にあったのだが、その橋梁は破壊され、駅舎も流されてしまった。
想像をはるかに超える自然の猛威に、島越駅は為す術もなく崩れたのである。
いったんは廃線も検討された三陸鉄道であるが、結局元あった線路を活用し、さらなる強靭化を行い、再建されることになった。
これは今工事中の島越駅である。
通常の橋梁では津波には耐えられないが分かったため、再建中の鉄路は、盛り土構造を採用し、より強固なものとして改築中である。
このように、今東北では、「東北改造」といっていいような、大規模な工事が広い範囲で行われている。
大震災のときは、そのあまりの被災の甚大さに、自然の力に畏れ慄くばかりであった我々が、時を経て、自らの築いて来た文明の誇りを取り戻すべく、津波に耐えられる世界を、一から再構築中なのである。
東北では今工事のための資材を積んだトラックが大量に行き交い、あらゆるところの工事現場では重機の機械の音は高く、力強い足取りで工事が進捗している。
この熱気、活気は、おそらくは日本では、50年以上前の高度成長期時代にしかなかったものであろうが、それ以上の規模と技術で、復興劇が現在進行中で行われているのである。
東北に行けば、その素晴らしい劇を見、聞き、経験することができる。これは是非とも行ってみる価値のある地である。
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