町の核(Core of a town)@東北2013年9月
三陸の海岸線沿いの国道45号線は、リアス式海岸を通っているので、その地形特有のアップダウンの多い道路である。この道路にはいたるところに、「過去の津波浸水区間」という標識があり、どの高さまで津波が来て、どのあたりが安全地帯かなのかがよく分かる。
そしてその標識は、じつはなくても過去の浸水区間ははっきりと分かる。
小高いところを走っていると、そこには普段通りの人家の建物があり普通の生活があるわけだが、津波浸水区間を走るととたんに家々はなくなり、そこには基礎のみ残った更地が広がっている。そして津波浸水区間は外れると、また人家が現われてくる。
国道45号線はずっとその繰り返しであり、精神的にキツい道路であった。
浸水地区は以前は瓦礫が山積し、また壊れた家屋等も残っていたわけだが、大震災から2年半がたってそれらは片付き、いずこも広い更地となっている。
更地、となっているからには、その地はなんらかの使い方があるはずで、防災地帯とするのか、あるいはまた人が戻ってくる地となるのか、いずれかであろう。
しかし、これらの更地についてはまだどこまでを居住可能範囲とするか、あるいはどこまで嵩上げするかの正式な方針が定まっておらず、人は戻って来ようにも方図がたたない、結局は人の住むことなき無人の地として残されている。
しかしながら、それらの更地のなかにもいくつかには、人が戻りだす魁も現れ出していた。
古来より人々は、町をつくるときにはまずは核となる建物をつくることから始めていた。それは人が集い、人が安らぎを得る場所であり、日本ではそれは社であって、ヨーロッパでは教会であった。そこを核として、町は徐々に家屋を増やし、道を伸ばしいき、多くの人の住む町となったのである。
そして、現在の日本では新しい「町の核」が現われていた。
以下参照。
【セブンイレブン】
国道45線沿いにある更地には、家々は撤去されたのだが、コンビニだけはけっこうな数を見ることができた。
ただしセブンイレブンもローソンも、通常見る姿とは異なっていて、いずれも(仮)と括弧付けたくなるような、とりあえずの状態で店が再開されている模様。これらのコンビニは、いったん流されたのち、もとあった場所で仮店舗のようなものを建て営業しているようである。
考えてみれば、現在社会でのコンビニの機能たるや、通常の小売に加え、銀行や郵便、旅行代理業等も兼ねているのであり、これ一つあればたいていのことは済む、というくらいに大変便利なものである。
だからコンビニがあれば、それだけで近くの人は、特に不自由なく暮らせるわけであり、これが最初に町につくられるのは極めてもっともなことと言えよう。
けれども2013年9月の段階では、三陸におけるコンビニは更地のなかにぽつんと一軒だけ建っているのがほとんどであり、国道走行中の人が途中で寄るか、あるいは高台に住んでいる人が下りてきて利用するかくらいにしか使われていない。
まだ本来の「近くの人の便利のためにある存在」にはなれていないようだ。
それでも、最初の一歩は大事である。
今、三陸では湾岸地帯には更地ばかりが点在している。その更地は、はっきり言って「廃墟」と称していいような存在である。
廃墟に接するとき、私たちは常に心打たれるのであるが、それは人が必ず死ぬように、町も必ず死ぬということを思い知らされるがゆえ、心を打たれるわけであり、しかし三陸の更地群は、廃墟と言ってしまうには若すぎるであろう。まだまだ死ぬような所ではない。
一見、人に放擲された地のように見えるこれらの地も、町の核であるコンビニが仮店舗ながら建てられた。そして町の核は、昔のそれがそうであったように、やがて周囲に人が集ってくる、そういう力を持っている。まずはコンビニから。それから、徐々に町はつくられていく。
そして私は思う。
コンビニは夜も営業を行っている。
人が去り、完全な無人の地となっていたころ、そこは夜には明かりは絶え、真の闇に満ちた地であった。しかし、夜には自然そのままの闇が支配していた地に、煌々と明かりを照らす建物が建てられた。一帯に満たされていた闇は、その建物の明かりで、一画を裂かれ、ここに人の営みがあること、人の命があることを、そして町が生きていることを物語っているであろう。
闇夜の海で沖を行きかう船へその行先を示す岬の燈台のように、コンビニには自らの価値の重さ、それに確かな使命、それらが託された存在であることは間違いない。
国道45号線を走るときに見た、広大な更地に、ぽつんとぽつんとあるコンビニには、「町の核」としてのたしかな存在感があった。
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Comments
被災地の現実の状況が切実に伝わって
くる良いリポートですね。
今現在、コンビニの果たす役割は大きい
と思います。
Posted by: キヨシ | October 07, 2013 03:30 PM
写真で見ても分かるとおり、プレハブ造りの急拵えでも、すぐに店を再建するところがコンビニの再生力の強さと思います。
東北のみならず、日本で一番元気のいい企業はコンビニなのでしょうから、この元気から、東北全体が元気になっていく気がします。
Posted by: 湯平 | October 08, 2013 08:31 PM