映画:ゼロ・ダーク・サーティ
映画の冒頭、911事件の実際の録音が暗闇のなか流れる。
航空機をハイジャックされ無謀な飛行が続けられるなか、乗務員が懸命に状況をオペレーションセンターに交信している。動転している彼女に対し、オペレーターは「大丈夫、落ち着いて、落ち着いて」と対応するが、突然交信はプツンと途切れる。しばしの静寂のあと、オペレーターが「Oh my God.」とつぶやく。
911が市井の人々を巻き込んだ凄惨なテロ事件であったことが、生々しく甦る、なんともやりきれないシーンであり、そして今なおアメリカという国に深い傷跡を残していることも理解できる。
超大国アメリカに個人が組織を造り上げ戦争をしかけたビン・ラーディンに対し、アメリカは総力を挙げ、多額の予算、大勢の人材を用い、捜索を行うのであるが、パキスタン国境の山岳地のアジトで捕えるのを失敗して以来、行方は杳としてつかめなくなった。
逃亡されてからも、ビン・ラーディンは明らかに健在であり、彼の指令によるテロは世界中のいたる所で起き、止む気配さえない。
ビン・ラーディン捜索の担当はCIAであるが、CIAを象徴する人物である捜査官マヤは、極めて有能なためにチームに選ばれた。自ら志願したわけではないマヤは、パキスタン現地での拷問し放題の捜査の激しさに違和感を覚えていた。
けれども世界各地でのテロの進行、それに同遼もテロの餌食となったことから、彼女は人格を変貌させていった。自らモンスターと化すべく決意をしたごとく、強引な捜査方法を用いながら、彼女は針の穴をいくつも通していくような、細い手掛かりをつなげていき、ついにビン・ラーディンの居場所と思われる場所を突きとめる。
彼女の半ば狂気に憑かれたような説得から、ついにビン・ラーディン殺害計画は実行に移され、ゼロ・ダーク・サーティ、深夜0時半に作戦は決行された。
戦場に生きる男の極限的な精神の緊張と高揚を描いた「ハート・ロッカー」に続く、ビグロー監督の新作。
1シーン、1シーンが緊迫感に満ち、かつ重厚感にあふれている。
テーマは深刻で重々しく、緊迫感が持続したまま話は続いていくが、結局は何の解決もなく、またカタルシスもなく、虚無感だけが残る結末となる。映画的には尻切れトンボ的ではあるも、それは全て現実なのでもあり、すなわち我々が生きている世界は、ここまで「出口のない」世界である、ということが実感させられる。
911から11年、ビン・ラーディン殺害から2年ほどしか経っていないのだが、ここまでのドキュメンタリーを造れるビグロー監督の力量にただただ感嘆。
…ただ、この映画、イスラム側からは言い返したくなることがたくさんあると思う。
しかし冒頭の部位で、この映画は徹底的にアメリカ側から描くぞと宣言しているから、こういうつくりにはなるな。
それで、将来的にはイスラム側から違う視点でのこの事件を描いた映画も造ってほしいなとも思った。
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ゼロ・ダーク・サーティ 公式サイト
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