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April 21, 2013

映画:白夜

White_night

 「幻の映画」とも称されており、本邦では長く未公開であった、名匠ブレッソン監督作「白夜」が福岡のKBCシネマで公開された。

 原作は、ドストエフスキーによる初期の短編。
 深遠なる思索に満ちた、重厚な長編ばかり書いていたイメージのあるドストエフスキーであるが、じつは初期から晩期まで、その創作にはロマンチック情緒いっぱいの描写もけっこうあり、ドストエフスキーは多彩な才能を持っていた作家なのである。
 そして「白夜(原題:Белые ночи)」は、ドストエフスキーの作品のなかでもとりわけロマンチシズムにあふれた名作であり、最初のペテルブルグの夜の描写からして、ロマンチックの極みであり、私も好きな小説である。

 その原作をフランスのロベール・ブレッソン監督が、舞台を19世紀のロシアのペテルブルグから、現代(といっても1970年代)のフランスのパリに移して、映像化したもの。

 それで観てみたものの、…う~む。なんか、違うなあ。

 原作の、淡い熱にうなされたような不思議な四夜の物語が、登場人物をリアルに描きすぎたせいで、妙に即物的な、ロマンのかけらもない男女の出会いと別れの劇になっている。
 だいたい、映画名が白夜なのも、あの緯度のフランスに白夜があるものか、とも思ったのだが、これは邦題が悪いのであって、映画原題はちゃんと「Quatre nuits d'un rêveur (空想家の4つの夜)」と、ある意味身もふたもない題名になっていた。
 そして、今思い返してみれば、ドストエフスキーの原作も、要約してみれば、「生活力のない空想家の男と、無節操だが現実主義者の女性の、出会いと別れの物語」なのであって、筋だけ追えばじつに「痛い」話ではあった。
 しかしその痛い男女の逢瀬の背景には、常にぺテルブルグの白夜があり、あの夜でもない昼でもない、夢と現の合間のような、この世から少し離れたようなところにある夢幻的な世界が、その痛い男女の物語を、ロマンチシズムで優しく包んでいたわけで、…すなわちこのロマンチック小説の主役は、じつは「白夜」であった。

 そう考えてみると、映画「白夜」では、男女の話を除けば、男女の背景にあるパリの夜は、セーヌ川を照らす控えめの美しいイルミネーションがあり、そしてセーヌ川や通りには、いろいろな歌が満ちており、四夜ともじつに様々なロマンチックな表情をみせた夜であった。
 そこだけ注目しておけば、この映画も、とても情緒豊かなものに感じられたであろう。

 …たしかに、映画でのパリの夜は美しかった。
 パリの夜、これは実物を是非見てみたいものである。

 というか、私は半年前にパリには5夜も滞在したのであった。
 しかし、そのパリの夜は、毎度7時半から3~4時間フランス料理たらふく食ってワインさんざん飲んで過ごし、その後は速攻で撃沈していたからなあ。
 この映画を先に見ていれば、一日くらいは、軽めに食事を済ませ、パリの夜を満喫す予定をいれたのに、と少し後悔。

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 (追記)

 「白夜」の主人公である空想家で女性にふられてばかりの男性は、明らかにドストエフスキー自身をモデルにしているのであり、ドストエフスキーもこの小説を書いていて、じつに痛い思いをしたと思う。
 しかし、ドストエフスキーが晩年に獲得した理想的な妻は、白夜で書かれた女性と同じく、きちんとした現実主義者であった。本来なら、出会ってすぐに彼の性格に呆れ、さっさと別れて不思議でない。
 けれども、「生活力が全くなく、かつどうしようもない空想家」のドストエフキーに対し、夫人は「だが、この男は人類史上最高級の天才である。その才能ある男をなによりも私は愛する」と、無茶苦茶に生活の荒れていたドストエフスキーに対し、献身的な制御を行い、大作家の生活を安定させ、晩年の名作を量産させた。
 現実主義者というのは、長期的視野を持つ目が利けば、自分自身も、それに関わる人も、幸せにできるという、素晴らしい例である。

 …ただし、人類の文化の歴史上、破滅的天才が理解ある伴侶によって立ち直った例は、ドストエフスキーがたぶん唯一の例であって、他の破滅的天才は、夫婦ともども沈没しているのが、また悲しい。


 ちなみにドストエフスキーは、人生の最後まで、ここまで性格が悪く、周囲に迷惑をふりかけてばかりの自分を、人格者の妻が愛してくれているのを、ずっと不思議に思っていた。
 後生の我々からすると、ドストエフスキーは人類の宝のような天才であるから、妻の献身は当然のような気はするのだが、当時としては、ドストエフスキーがそのような超絶的存在であることは、妻を除いては、ドストエフスキー自身を含め誰も知らなかったわけだ。
 「天才+悪妻」のパターンはいくらでもあるが、「天才+良妻」の、たぶん唯一の、人類が持った最高の夫婦である、と思う。

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 白夜 公式サイト 

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