登山:モッチョム岳@屋久島
屋久島は島全体が大きな山であり、宮之浦岳あたりを中心として、四方八方に尾根を伸ばして一塊の山となっている。
あまりに山の規模が大きいため、宮之浦岳のように島の奥にある山は、海岸周辺の町からはその姿を見ることができない。しかし、尾根の先端部にあるような山々は、町からよく見ることができ、これらの山を総称して「前岳」という。
その前岳のなかで特異な山容から有名となっている山が二つあり、一つは愛子岳、もう一つはモッチョム岳である。
天気がよければそのうちの一つに登ろうと思っていた。
本日の天気はあまりよいとは言えないが、登れないほどの天気でもない。では登ろう。そして、前岳のうち、昨日のサイクリングで、より印象的であったモッチョム岳に登ることにした。
モッチョム岳の登山口は観光名所の「千尋滝」のところにある。
奥に見えるのがそれである。
よく整備された登山口であり、駐車場も舗装されている。
ここに車をとめ、さあ出発。
モッチョム岳は巨大な太針のような形をした山なので、そういうルートになるのは当然なのではあるが、最初から急登の連続である。登山道はあまり整備はされておらず、滑りやすい足元に気をつけながら、時には樹の枝、根っ子をつかみながら登って行く。
この急登がえんえんと続き、高度を稼いでいく。
展望も利かない道なので、ただただ山道を見ながらの黙々とした登山。
なんとはなしに、山の名がモッチョムなので、ストックを突きながら、「モッチョム♪ モッチョム♪ 」とリズムを取りながら登っていく。
…「モッチョム」というのは地元では隠語なんで、まああんまり口ずさむような言葉じゃないんだが、モッチョム岳の傾斜にはちょうどよい語呂であった。
そうやって、モッチョム♪ モッチョム♪ と登って行くと、稜線に出て景色が突然に開ける。
そしてそこにあるのが巨大な屋久杉である。これぞモッチョム杉、と言いたいところだが、そうではなくて他の名前があり、「万代杉」である。この杉、あの縄文杉よりでかいんじゃない?と思うほどの巨木であり、枝も四方八方に広がっていて、樹の姿がたいへんよろしい。
でかい屋久杉を見たい!と思うなら、縄文杉より万代杉のほうが私としてはお勧め。
ただし、ここまで来るのはけっこう大変なため、縄文杉より見るためのハードルは高い。
…ところで何千年も生きているような屋久杉って、どの杉もせいぜい20m伸びたところで、おそらく雷の直撃にやられて、そこで幹が詰まっている。
前線がしょっちゅう通過する厳しい環境で生き抜いて来た屋久杉の巨木は、「我が身を犠牲に森を守ってきた」とでもいうような、独特の荘厳感がある。
万代杉を過ぎたところから、傾斜はやや緩くなり、そして森はさらに深くなる。
地面に岩は苔むしていて、いかにも屋久島という雰囲気が漂う。
万代杉の次に位置する、モッチョム岳のもう一本の屋久杉の巨木「モッチョム太郎」。
これも巨大な杉であり、なにかの生き物のような怪異な形の幹を持つ。
モッチョム太郎を過ぎると、尾根の傾斜が強くなり急登となる。またもモッチョム♪ モッチョム♪ とリズムをとりながら登っていくと、やがてようやく展望の利く「神山展望台」にと出る。
本来ならここで視界が一挙に開け、モッチョム岳に続く稜線や、900m直下に広がる太平洋を望む、抜群の風景を楽しめるはずだが、…ガスに覆われていて何も見えない。
まあ、下からモッチョム岳を見たときから、山の上半分はガスに覆われていたからそれも当然なんだが、残念である。
ここで進行方向の藪がガサゴソと動き、青年が一人現れ、「あ、そっち道あるんですね。そこ下山路ですか?」と尋ねて来る。なんでも道に迷って、モッチョム岳頂上への道を見失ったそうだ。
こんな一本道の登山道で、しかも稜線上なのに、どこをどうやったら道に迷うのだろう?と不思議に思ったが、とりあえず「君の今いるところを、そのまま真っ直ぐ行けば頂上だと思うよ」と答えておいた。
その青年、神山展望台から進むうちあまりに下って行くので、下山路に入ってしまったと思い込んで引き返し、頂上への道を探していたそうだ。
…しかし、地図みれば、モッチョム岳は頂上手前でいったん下り、それからきつい登り返しのある道なのは分かりきってるんだが。地図も持たずに初めての山に入るなよ、と言いたくなってしまう。というか、言った。
ついでにその青年は屋久島が好きでよく訪れるのだが、登山自体は今回が生まれて2度目の登山だそうだ。2度目が曇天のモッチョム岳単独かよ。チャレンジャーだなあ。
けれども初心者のわりには登山そのものはしっかりしていて、こういう難所でも、するすると素早く登って行く。体力ありますな。若さって、素晴らしい。
鞍部から登り返して、ようやくモッチョム岳山頂への痩尾根となる。
この痩尾根は、稜線が両側スパッと切れ落ちていて、本来なら高度感抜群のはずなのだが、ガスのせいでなにも見えない。
そうしてようやくガスのなか、モッチョム岳山頂の巨大な岩が見えて来た。
ここは直登は無理なので、東側にまわって、岩溝、あるいはロープを使って、山頂に登ることになる。
先行の青年は無事登頂。感極まって、歓喜の叫び声をあげていた。なんとしても登りたかった山だったそうだ。
私もそれからロープを使って登頂。
こうして、苦労してきつい傾斜を登ってたどり着いたモッチョム岳山頂。
ここからは360度、素晴らしい屋久島の風景が広がっているはずだが、ガスにてまったく視界がよくなく、残念なり。
それでも山頂で写真を撮っているうちに、強風にて、ガスが一瞬吹き払われ、今まで歩いていた稜線を見ることが出来た。
花崗岩と樹々がおりなす、美しくも峻厳な世界。
これ見られただけでも、登った甲斐がありました。
山頂で休憩し、青年君と雑談。
青年君は私がデジイチで写真を撮っているのを見て、「自分も写真が好きでNikonのデジイチを持っているけど、故障が怖くてザックの中に入れているので今日の登山では万代杉しか撮っていない。普通にもっとデジイチで写真を撮りたいのだけど」と言うので、デジイチみたいな精密機器だって、ウエストバッグに入れるなり、サコッシュに入れるなり、あるいはタスキ掛けにしたところで、繊細に山歩きすれば故障なんてしないよ、とadviceしておいた。
まだまだ屋久島に滞在するとのことで、おおいに屋久島を満喫してください。
山頂からは元来た道を下ることになる。
下りは、ますますガスが濃くなってきて、そして雨も降り出したので雨具をつけて下山となった。
万代杉を過ぎてしばらくすると、下のほうから千尋滝の轟音が響き出し、その音の大きさによって登山口が近付いてきていることが分かる。
登山口からは千尋滝はすぐなので、よってみた。
千尋滝は、巨大な花崗岩の壁を側面に、高さ80mを落ちる滝で、屋久島にしか見られないような豪快かつ雄大な滝である。
アプローチは容易であり、屋久島を訪れたときは寄ってみるべき滝である。
車で外周道路に出て、またモッチョム岳の方向を見てみる。
やはり山の上半分はガスに覆われており、…今度来るときは是非天気の良いときにと思った。
本日の宿は、この山のすぐ近く、尾之間温泉にある「屋久島いわさきホテル」。
温泉につかったあとは、ビールとワインを楽しむことにしよう。
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