登山:宮之浦岳縦走(荒川登山口→縄文杉→永田岳→宮之浦岳→淀川登山口)
主に縄文杉観光に使われる荒川登山口の朝は早い。
自家用車の乗り入れは禁止されており、この登山口へは屋久杉自然館からバスで行く必要がある。そのバスの時刻が、始発は4:40で、最終は6:00という早さ。縄文杉を訪れるためには、最低でも午前7時には荒川登山口から出発しなさいよ、とのことなのであろう。
縄文杉だけなら午前6時のバスでも良いだろうが、私は目的は宮之浦岳なので4:40の便を使用。
荒川登山口に着いたときは、まだ夜は明けていない。
登山装備を整え、5:40出発。
荒川登山口からは8kmほどトロッコ道を歩いて行く。
枕木のうえを歩くので歩きにくく、ヘッドライトで足元を照らしながら慎重に歩を進めて行く。
やがて朝日は昇り、まわりの景色が見えて来た。
トロッコ道は沢の上などは木板を渡しており、こういうところは歩きやすい。
そしてこのトロッコ道はよくメンテナンスされており、線路はきれいで、ゆがみなどもない。
メンテナンスされているのも当然であって、このトロッコ道はいまだ現役なのであった。
そうなると、屋久島きっての人気観光スポット縄文杉行くのに、トロッコ列車走らせれば便利なのにと思った。屋久杉運んでいたようなトロッコに人間が運べないはずはなく、黒部渓谷みたいに観光トロッコ走らせれば、さらに人気が増すだろうに。
朝日を受け、山肌に満開の山桜が見える。
屋久島は自然豊かなところであり、野生の動物も豊富だ。
屋久島固有種の鹿である屋久鹿もたくさん見ることができた。
屋久島は全体が鳥獣保護区であり、そして観光客慣れしているようで、この島の鹿は人が近寄ってもなかなか逃げようとはしない。
8kmほぼ平坦なトロッコ道を歩いたのち、縄文杉に到る大株歩道へと入る。
ここからは登山道である。
大株歩道の名前の由来になっているウィルソン株。
500年前に伐採され切株だけとなっているが、屋久杉というのは強い木なので、まだ朽ちることなく残っている。
中は大きな洞になっていて、入ることも出来る。
大株歩道にはいろいろな巨杉があるが、そのなかの大スター縄文杉に3時間かけてようやく到着。
今までの名前のついた巨杉もたいへん大きかったが、さすがにこの縄文杉はそれに輪をかけてでかい。
…ただ、樹の形がどうも寸詰まりふうになっており、どうにも景色がよろしくない。でかいだけという感じの巨杉であり、一回見れば十分か、というのが正直な感想である。
縄文杉の標高は1300m。ここから登りはやや急となり、新高塚小屋あたりから稜線沿いの道となる。
新高塚小屋は「鼠の住処」ということで有名だが、覗いてみてもべつに鼠はいなかった。
屋久島は樹々が鬱蒼と茂っているため、登山道から展望はなかなか利かないが、稜線に出てからは樹がまばらなところもあり、そこからようやく宮之浦岳の姿を見ることができた。
なにしろ屋久島の最奥部にある山なので、たどり着くまでの距離が長く、いつになったら着くんかいとか思いながらの登山ゆえ、姿がはっきりと見えると、やる気が俄然出て来る。
稜線を両翼に広く張った雄大な宮之浦岳もよいが、その隣にある、岩塔を空に突き立てている翁岳も、またよく目立つ特徴的な姿である。
標高1600mを越えると森林限界に達したようで、樹々は灌木だけとなり、見晴らしがぐんと良くなる。
そうして、今まで稜線に遮られて見ることのできなかった永田岳も遠くにその姿を現した。巨大な花崗岩の岩の殿堂である。
宮之浦岳への稜線の小ピークが平岩岩屋。
「ここからは強風に注意」との標識があり、じっさいその通りにここからの稜線は非常に風が強かった。
海からの風の通り道となっているようであった。
平岩岩屋のピークを越えると、だいぶ宮之浦岳が近付いてきた。
屋久笹の茂る野に、宮之浦岳へ続く登山道がくっきりと刻まれている。
登山道を地道に登って行き、宮之浦岳と永田岳への分岐の焼野三叉路に到着。
この時点で、11時10分である。宮之浦岳はすぐ近くに見えており、だいたい20分くらいで山頂に着きそうだ。
山頂からは淀川登山口までは基本下りであり、まだ時間的に余裕がある。
それで、ここから見える永田岳があまりに格好良く、さらに天気も良いことから、永田岳にもピストンで登ることにした。
永田岳は、巨大な花崗岩を積み上げ、それに屋久笹が覆っているような姿であり、白と緑のコントラストが大変美しい。
宮之浦岳の縦走路は山域が大きいわりにはさほど標高が高くないので、傾斜はゆるめであったが、永田岳への登山道はかなり傾斜がきつかった。
そのきつい傾斜を越え、山頂に到着。
やはり眺めは抜群。
谷の隙間から海と浜辺も見える。たぶん、永田浜であろう。
永田岳に登ったあとは元来た道を使って宮之浦岳に登りかえすのであるが、振り返ってみれば、けっこうな高さを登っている。
あの高さを下ってまたそれ以上の高さを登り返せねばならないのか、と少々うんざりしてしまった。
焼野三叉路に戻って、宮之浦岳へと登る。
見た目の姿とおり、永田岳よりは傾斜はゆるめであり、屋久笹のなかの道を進んでいく。
登山者でにぎわっている宮之浦岳山頂に、午後1時にやっと到着。
標高1936m、九州で一番高いところである。
抜群の天候の恵まれ、山頂より360度、雄大なる屋久島の風景を楽しんだ。
屋久島はとにかく雨の多い地であり、晴天の日が少ないことに加え、晴天の日でも容易に高峰の上のほうはガスに覆わるため、初めて登った宮之浦岳でこれほどの眺めを見ることが出来たのはじつに幸運であった。
そしてこの日は好天が午後もずっと続き、宮之浦岳縦走のハイライトである、山頂から花之江河までの、楽園のごとき自然庭園を、ぞんぶんに楽しめたのもさらに幸運なことであった。
今まで宮之浦岳まで歩いてきた、屋久笹の絨毯のような風景も良かったが、宮之浦岳を過ぎ栗生岳方面を見ると、さらに素晴らしい風景が広がっている。
一面の屋久笹の野に、花崗岩の巨岩、奇岩が散在していて、空中庭園のような世界だ。はるか山奥の、人訪れること厳しき地に、このような楽園的風景が存在しているのだ。
登山道を歩いて行けば、その奇岩たちのすぐ傍を通ることになる。
この岩は縦方向にいくつも割れ、大きなダンゴムシのような形だ。
これってナウシカの王蟲(オーム)に似ている。勝手にオーム岩と名付けた。
これはどういう具合でこういうことになったのか、横方向にヒビが入っている。
自転車のヘルメットにも似た形だ。
微妙なバランスで岩が載っている面白い岩。
宮崎アニメのつながりで言えば、ラピュタのロボットにも似ている。
このラピュタ岩は、鞍部に設置されてあるトイレの近くにあり、まるでトイレを見守っているかのようなポジションだ。
この方向から見ると、モアイ像のようでもある。
鞍部からは投石岳に向けて、また少しの登り返し。
屋久島の山の特徴は、なんといっても水の豊富なことであり、山頂近くの縦走路でさえ水が流れ、あるところでは川のようになっている。
そしてその水がまたきれいであり、澄んだエメラルドグリーンである。
投石岳を越えると、名峰黒味岳の姿を見ることができる。
山頂は巨大な花崗岩を積み重ねた独特の姿である。
黒味岳は、淀川登山口からの距離が近いこともあり、人気のある山である。
本日も山頂部に幾人も登っているのが確認できた。
ここから望む宮之浦岳の姿も、また見事なものであろうな。
投石岳を下りきったところの鞍部は、広い平地になっていて、ここが投石平。
6月には山石楠花が咲き乱れるそうだ。
投石平を過ぎ、屋久島を代表する観光スポットの花之江河に到着。
標高1600mに位置する、日本最南端の高層湿原であり、もうしばらくすれば湿原性植物で緑あふれる地となるのであろうが、今はまだそのような彩りはなし。
それでも湿原独特のひんやりとした空気が心地よい。
花之江河あたりは、白骨化した樹々がいくつも立ち並び、独特の風景をつくっていた。
花之江河から少し下ると、また同じような高層湿原がある。
標高が下がって来ただけあって、樹木がまた大きくなってきており、先の湿原ともまた異なった風景となっている。
登山道から展望所への脇道の案内があったので、展望所に寄ってみた。
どれがどの山かは分からねど、みな風情ある姿の山々である。
この淀川にかかった橋を越えると淀川小屋である。
淀川も、澄んだ水のながれる美しい川であった。
淀川小屋。
本日の宿泊者は3名ほどのようであった。
小屋を過ぎ、登山道を下っていけば、登山口まであと何kmという標識が規則正しく続き、そろそろ登山が終わりに近いことが分かって来る。
そうしてゴールの淀川登山口に到着。
16:20分の到着時刻であった。荒川登山口を出たのが5:40分だったので、10時間40分歩いたことになる。これだけ長時間山歩きしたのも久しぶりだな。
さて、ゴールしたのはいいとして、つぎは車を置いている屋久杉自然館へ戻らねばならない。
それでタクシーを呼ぼうとしたが、…携帯が通じない。
まあ、携帯が通じないのは予想していたが、やっぱり通じないのは口惜しかった。
宮之浦岳山頂では携帯の電波は届いていたので、本来はそこでタクシーを予約しておくべきだったのだが、初めての山なもんで、登山口への到着時刻にイマイチ正確性を持てなく、躊躇していたのである。
それで、「もしかして」淀川登山口で携帯を使えることを期待して下山したのだが、やはり「もしかして」と思ったことが、もしかすることなどなく、敢え無く撃沈。
とりあえず地図によればここから8kmほど行ったところにあるヤクスギランドに公衆電話が設置されてあるそうなので、そこまで行ってタクシーを呼ぶことにして、面白くもなき舗装路をてくてく歩くことにする。
ヤクスギランドまでは屋久杉の名木が何本もあるので、それを見ながらの観光散策とでも考えておこう。
歩きついでに、山が開けたところではドコモの電波が入ることもあるのでは?と淡い期待をして、時々電波状況をチェックしていたが、そのようなことはなかった。
「ドコモ、この子はやれば出来る子なんです」とか言えればよかったが、やはり出来ない子であった。
それはそうと、最初に見えた名木が「川上杉」。遠くからでも、はっきりとこれは屋久杉だなということが分かる大きさと高さ。
縄文杉よりも、私にはこの川上杉のほうが気にいったなあ。
歩くうち、バス停が見えて来た。
こんなところまで定期路線バスが来ているのだな、と感心。
時刻表を見ると、14:49にバスがある。
今の時間が16:42であり、2時間早くここに着けばバスに乗れていたわけである。
そうなると、永田岳に寄るのをやめて、あと所々の名所での休憩も短時間にしておけば2時間は節約できたから、そのようにすれば公共交通機関を使っての宮之浦岳縦走は可能だったわけだ。
このブログに、「宮之浦岳 日帰り縦走」で検索してきて訪れた人のために、いちおう情報提供。
でもまあ、そんな時間に追われての登山なんて楽しくないだろうから、とても勧められないけど。
川上杉に続き、次の屋久杉は紀元杉。
これもまた立派な巨木である。
樹齢は約3000年ということであり、そうなると「紀元前杉」のほうが、名称としては正しいのでは、とか突っ込みを入れたくなった。
4kmほど舗装路を歩き、次の屋久杉は「仏陀杉」だよなあ、とか思いながら歩いていると、下山中の東京ナンバーのBMWがそばに止まり、「バス逃したんですか? よかったら乗って行きませんか」と声をかけてきた。
感謝感激雨あられ、とはこのことであり、有難く好意に甘えさせていただき、屋久杉自然館まで送ってもらった。
おかげで余計な歩行と時間を省け、暗くなる前に屋久杉自然館へと着くことが出来、有難きこと、このうえなしであった。
そういうわけで、真のゴールの屋久杉自然館にやっと到着。
日暮れも近い。
今日は夜明けから、日暮れ近くまでずっと山のなかにいた一日であった。
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