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March 09, 2013

映画:ジャンゴ 繋がれざる者 (※少々ネタバレあり)

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 南北戦争が起こる2年前のアメリカ南部が舞台。
 ドイツ人歯科医師であるドクター・シュルツは、歯科業をやめ賞金稼ぎとなっていた。賞金首目当てに旅を続けるシュルツの次のターゲットは悪人3人兄弟なのであるが、彼は兄弟の顔を知らない。そこで兄弟が経営していた農場で働いていた奴隷が売られたことを知って、その奴隷ジャンゴを買い主から買い取ろうとして、夜買い主たちに会いに行く。しかしそれをあえなく拒否され、さらに銃を向けられたため、シュルツは早撃ちで相手を倒し、ジャンゴを奴隷の身から解放し、3人兄弟の確認役として雇う。

 ジャンゴは予想外に有能な男であり、彼の活躍により3人兄弟はあっさりと見つかり倒すことができた。シュルツはジャンゴが気に入り、彼をパートナーとして誘う。
 賞金稼ぎというのは返り討ちもあったりして、けっこう危険な職業であるが、ジャンゴは「白人を殺して金がもらえる。こんな素晴らしい職業はない」とのことで、ジャンゴはパートナーとなった。シュルツは、ジャンゴに銃の訓練や、銃撃の手法、覚悟なども教え、そしてジャンゴはめきめき腕を上げていく。


 ジャンゴにはある大きな目標があった。
 ジャンゴにはブルームヒルデという妻がいたのだが、夫婦で農場から脱出しようとして捕まり、拷問を受けたのち、その後二人とも別々に売られて、別れ離れになってしまった。ジャンゴはなんとしてでもその妻を取り返したい。

 シュルツはジャンゴの妻奪回作戦に協力することを決めた。
 冬の間に賞金稼ぎでおおいに資金をためたのち、春になってその奪回作戦が始まった。
 まずブルームヒルデはミシシッピの大農場キャンディ・ランドに売られていることが分かった。農場主は冷酷無比なことで知られており、交渉は厄介そうな人物である。300ドル程度の奴隷女一人買い戻しに行ったとしても、怪しまれ、門前払いになるのは必定で、悪くすれば銃で撃たれる危険もある。
 それで、農場主のキャンディが黒人奴隷たちを命を賭けて闘わせる「マンディンゴ」の主催者でありその愛好者であることから、シュルツを同好者ということにして、闘士を買いに行くという口実で彼に会うことにする。そしてその闘士売買交渉のおまけとしてブルームヒルデを買い取ろうという計画を立て、それを実行に移すべくキャンディ・ランドを訪れた。

【カルバン・キャンディ】
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 シュルツ・ジャンゴコンビの目指すキャンディ農場の農場主、カルバン・キャンディ。
 三代目のボンボンなので、それなりの教育は受けているはずだが、教養は低レベルであり、頭の程度も良くない。しかしなぜか自分は頭がいいと思い込んでいる。趣味は悪く、意地も悪く、ほんとーに嫌なやつである。

 その嫌なやつと、奴隷売買交渉というじつに嫌なことをやりながら、キャンディ宅で話は進む。

 やがて当初の計画は妙な具合にねじれていき、キャンディ激怒のシーンが始まる。生意気なジャンゴに不快感を感じていたキャンディは、キレたついでに一演説をかます。
 幼い頃から黒人に仕えられて暮らしていたキャンディはある疑問を持っていた。それは、「これほど虐げられている黒人たちが何故自分たちに反乱を起こさないか?」ということである。
 キャンディは独自に解剖学的見地からその謎を解いたと称し、「黒人とは生まれながらにしての劣等人種であるから、自分たちに従属するべき存在である」と言う。その証拠だと、頭蓋骨の標本をノコギリで切り、骨の窪みなるものを見せる。
 こういうトンデモ科学を、真剣に、憑かれたように、がなりたてるキャンディの姿は、デカプリオの怪演のおかげで鬼気迫るものがあるのだが、…また滑稽にも感じられてしまう。

【スティーブン】
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 キャンディの疑問「黒人はなぜ白人に反乱しないのか?」は、もちろんキャンディのトンデモ説が答えなのではなく、じつはその答えの一つは、キャンディの目の前にある。ただし、キャンディは気付いていない。

 キャンディ家の代々に仕え、今はキャンディの執事である黒人の老人スティーブン。彼は主人の言うことには常にはいはいと従い、主人を幇間のようにして立てる、愚鈍な黒人奴隷に一見見える。しかし事実は、彼は極めて怜悧で優秀な頭を持っており、家の全てを管理している。そして彼は同種の黒人に対して特に厳しく、その厳粛な管理により、キャンディ家の秩序を守っている。さらにはキャンディ家には執事以外にも特権的な位置にある黒人が数人いる。

 このように、アメリカ南部では黒人は全て低層奴隷というわけでなく、黒人にもヒエラルキーがあり、黒人間でも支配関係があって、その安定した黒人集団の上に白人がいるという、重層的な支配関係がシステムとして完成されていたことが分かる。

 映画では、スティーブンのほうがキャンディよりずっと有能だということが示されてからキャンディの演説が始まる。だから、人種論について得々と演説をぶつキャンディの姿が、迫力はあるのだが、…非常にバカに見える。

【ドクター・シュルツ】
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 ドクター・シュルツは、緻密な計画と、冷静な判断力によって生き抜いてきた、凄腕の賞金稼ぎである。その仕事は、ほぼ完璧に成し遂げられていたわけだが、しかしキャンディ農場を訪れてからは、彼の思考・行動には少しずつ歯車が狂いだし、なにかと周囲との齟齬が生じだす。(相棒ジャンゴにもそれを指摘される)

 これは彼の人格に弱点があったためということが、だんだんと分かって来る。

 問答無用で人を殺しまくったり、子供の目の前でターゲットを殺したりするなど、その非道ぶりがあまりに印象的なので、ついつい誤解してしまっていたけど、シュルツはじつはヒューマニストなのである。
 彼はどう考えても博愛主義者であり、正義感に富んでいる。法律も重んじ、虐げられた者に対しても常に優しい。これは最初の登場シーンから一貫してそうであった。
 賞金稼ぎやってる者がなんでヒューマニストなんだという説もあろうが、賞金稼ぎの動機がヒューマニズムであることは、よくよく考えればなんら矛盾はなく、かえって合理的でもある。

 シュルツの前半生は映画ではなんら描かれてはいない。
 想像するに、まさかヨーロッパの歯医者が賞金稼ぎを目的にアメリカに渡ってくるわけもないので、歯科医稼業でひと儲けしようとやっては来たものの、アメリカ南部の、人間が人間を虐げ合うあまりにひどい世界に、彼の精神性がNoを突き付け、紆余曲折あったあげく、賞金稼ぎへと転じた、ということなのだろう。

 黒人など人間とは扱われず、家畜以下、牛馬以下、生かすも殺すも主人次第という思考が当たり前というか常識であった時代、彼の「黒人だって自分たちと同じ人間だろう」という思考は全くの異端であり、常識外れであった。
 だから他の登場人物もシュルツに対して「なぜこいつは白人のくせに黒人をパートナーとして、かつ彼の助けをしているのだろう?」と奇異に思い、彼の行動がまったく理解できない。
 それどころか、当のジャンゴからしても「いったいなんでシュルツは自分を助けてくれるのだろう」と不思議がっており、ついに彼の真意を知ることはなかった。

 奴隷制を憎んでいたシュルツはべつにのちの公民権運動みたいな「黒人に自由を!」なんて運動をやろうとしていたわけでもなく、またやる気もなかったろう。
 けれども彼の高い精神性は、奴隷制度に対して、ずっと嫌悪感、違和感を示し、その感情を解消するべき手法として、彼には賞金稼ぎという職業の選択しかなく、ずっと誰にも理解されぬまま孤独な戦いを続けていた。ジャンゴというパートナーを得たのちでも、結局は、彼は孤独なままだったのである。

 キャンディ農場に来てから、シュルツの調子がおかしくなっていくのは、つまりはキャンディ家がアメリカ南部の暗部を凝集し濃縮したような所だったからである。シュルツは、その空間が嫌で嫌でたまらなかった。その極限的な嫌悪の念が、彼の判断力や洞察力を鈍らせてしまい、やがては全ての計画を台無しにして、彼の破局を招くことになる。

【ジャンゴ】
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 タイトルロール、ジャンゴは主役のはずであるけど、物語の半分くらいは、シュルツのほうに存在感があり、脇役的存在となっている。
 しかしジャンゴは、シュルツほどの人物にその有能さを見こまれパートナーにされたくらいだから、彼はどんどん成長していく。さらにジャンゴには南部アメリカという黒人にとって地獄のような世界を生き抜いてきたので、精神は既に鍛えられており、やがてはシュルツよりも強靭な精神を持つ賞金稼ぎとなっていく。

 シュルツの破局以後は、もちろんジャンゴが主役となる。シュルツのような甘さ、弱さがないジャンゴは、傍若無人に大活躍するわけだが、これがタランティーノ得意の血肉の吹き飛びまくる殺戮劇。「虐げられたものの復讐劇」という見地からこの映画を観ていたなら、おおいにカタルシスを感じるところかもしれない。

 …しかしながら、私はこの映画をシュルツの孤独な戦いの物語と観ていたので、ジャンゴの派手な活躍は一種の後日談のようにして観ていた。


 南北戦争前のアメリカの奴隷制度というのは、人類の歴史のなかでも、最低最悪のものであったのは間違いなく、しかしそのひどい時代のなかで人々はそれぞれ懸命に生きてきたのも事実であり、その生きてきた人々の群像を戯画化しつつ魅力的に描いた映画。
 文句なしの傑作であり、アカデミー賞脚本賞受賞も当然といえよう。


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 ジャンゴ 繋がれざる者 公式サイト

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Comments

出演者が私好みです。
で監督がタランティーノなら
観ない訳にはいきません。
音楽もよさそうですね、
チェックしときます。

Posted by: キヨシ | March 13, 2013 09:26 PM

これは映画好きなら見逃すべからず名作なんですが、問題は宮崎でやってくれるかどうかなんですねえ。
これと「アルゴ」を観に、わざわざ福岡まで行ってきました。

Posted by: 湯平 | March 13, 2013 10:22 PM

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