映画:レ・ミゼラブル
ミュージカル映画は好きなのでたいていは観ているが、「レ・ミゼラブル」ばかりは原作がなんとも悲惨な筋なので、観る気が起きなかった。誰もが懸命に生きているのに、誰もが結局は不幸になり、主人公もほとんど救いのないまま死を迎える。惨めな人々の群像、…まあ「レ・ミゼラブル」という題名がそれそのものなので、そういう筋なのは仕方ないにしても、あえてそのような小説の映像作品を見に行く必要はないと思っていた。
しかし、ミュージカル映画としては異例のロングランとなり、また評判も大変良いので、ならば見てみようかと、封切りからずいぶん経ったのちに観ることにしてみた。
幕明け、囚人達が巨大な難破船を港に引き入れる壮大なシーンに圧倒される。まさに大画面で観る映画の醍醐味。それから、ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウエィ…など、綺羅星のごときハリウッドスターが何人も出演している豪華な配役、これもまた映画の醍醐味である。そして、彼らがまた歌が上手い。向うのスターって、とんでもない競争を勝ち抜いて来た人たちであるからして、やはりみんな芸達者なもんだなあ、と感心。
そして、そのなかでもとりわけエポニーヌ役の女優が、やたらに歌が上手い。声が美しく、声量も豊かで、表現力も優れている。
エポニーヌは、「レ・ミゼラブル」という劇のテーマ、「報われぬ愛」「報われぬ献身」「報われぬ人生」といったものを凝集させたような存在であり、劇の象徴ともいってよいような重要な役割だから、当然に歌も重要度が増すため、このような役者を配したのであろう。
まったくエポニーヌが歌うシーン、ソロの「on my own」が説得力があるのは当然として、マリウスとコゼットの二重唱にからむ「a heartfull of love」にしろ、集団での歌「One day more!」にしろ、彼女の歌がそこに入ると、その歌声が歌全体の芯となって突きぬける、そんな強い存在感を示し、彼女のパートになるとついその歌に耳を集中させてしまう。
この存在感抜群のエポニーヌを演じる俳優は初めて見るし、また映画のポスターにも載っていなかったので、あとで知ったのだがサマンサ・バークスという人であった。この人、じつのところ映画俳優ではなく、ミュージカルスターであり、本物のミュージカルのほうの「レ・ミゼラブル」で現在エポニーヌをやっている人であった。…本職そのものであり、そりゃ、上手くて当たり前だ。
ところで、この重要な役であるエポニーヌは、じつは最初は、歌って踊れる美人スター、アマンダ・セイフライドにオファーがあったそうだ。
アマンダは「レ・ミゼラブル」の大ファンであり、当然内容を詳しく知っていた。
それでアマンダはそのオファーがあったとき、「私にエポニーヌが歌えるわけがない。でもレ・ミゼラブルには出たいので、コゼットをやらしてちょうだい」と答え、そうしてコゼット役をゲットしたそうだ。
「レ・ミゼラブル」において役の大きさからいえば、エポニーヌ>>コゼットなので、欲のない人というか、誠実な人というか。(しかし、プロデューサーは「あんた、コゼットやる歳じゃなかろう」とは突っ込まなかったのかな)
アマンダは具体的には、「エポニーヌを歌うには、『聴く者の心まで激しく揺さぶるような高音』が必要だが、私には出せない」と言ったそうで、それは全く正しい意見なのであり、アマンダに断られたのち、プロデューサーは『聴く者の心まで激しく揺さぶるような高音』を持つスターを探すのに四苦八苦することになった。
ミュージカル映画はあくまでも映画であり、名作ミュージカルを映画にするには、配役には映画スターを出すのが肝要なところであって、…でもエポニーヌを歌える俳優はハリウッド中探しても見つからなかった。そして、その必要とされる歌唱力を持つ者を採用するにあたって、結局ミュージカルでエポニーヌを演じている者をそのまま用いるという、ある意味安易で、かつ確実な方法が取られた次第。
でも、サマンサは他のスターと比べると、たしかに持っているオーラはやや乏しいが、演技はそれなりに上手く、そして何より歌が圧倒的なので、この配役は成功であろう。
エポニーヌという役は、「レ・ミゼラブル」の核でもあるので、この役の成功は、そのまま「レ・ミゼラブル」の成功ともなっている。
冒頭に上げた映画クリップは、「On my own」が映画用に装飾されて入っているので、改めてサマンサがステージで「On my own」を歌っているビデオクリップを紹介しておこう。
(というか、映画クリップはエポニーヌの心象風景の描出があまりによく出来過ぎていて、観ていて心が痛くなる。)
【On my own Samantha Barks】
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