正月料理を雪の美山荘で
一月五日の美山荘の夕食は正月料理。
黒豆、紅白なます、田作り、慈姑、数の子。
…おや、ならば明日の朝食も御節だろうから、明日は雑煮が食えるな、などと思った。
汁と向附は、定番の蓬麩白味噌に、鯉の昆布〆と皮揚げ。
鯉は清流を引きこんだ生簀でじっくりと泥を吐かせているので、なんの臭みもなく、鯉本来の味が際立っている。皮はパリっと揚げられており、心地よい食感。
蕗の薹の白和え。
春の山菜である蕗の薹であるが、雪の中に埋まっている今頃のもののほうが、あくが少なく、蕗の薹自体の味がよく分かるとのこと。
蝦夷鹿と、脂のよくのった猪。
ほどよい火加減で、肉の旨みがよく出ている。
今までは清酒を飲んでいたが、これは赤ワインが飲みたいなと思い、美山荘にはたしかグラスワインがあったよなあとか思いつつ、頼んでみたら、置いてないとのことであった。
残念。
…残念と書いたが、私が猪肉で清酒を飲んでいるうち、先の会話を聞いていた隣の御夫婦が「よろしければ、」と持参していた赤ワインを一杯まわしてくれた。
そのワインが、なんとLeroy Nuits St. George 1994。
ブルゴーニュのカリスマ、マダム・ルロワの、しかも赤ワインである。
ワインにはさして詳しくない私といえど、さすがにドメーヌ・ルロワの位置付けくらいは知っている。
「こんな貴重なものはとても頂けません」と答えると、「今日は体調が悪く、ワインが余ってしまうと思っていたのでちょうど良かったです」との言葉に甘え、しっかりと頂いてしまった。
それからワイン談義が始まったが、…ブルゴーニュ・マニアというのは間近に何人か知っているものの、みなさん、底なし沼にはまったような、とんでもない世界に入ってますねえ。たぶん出口のない迷路というか、なんというか。…いや、底のない魅惑の世界というほうが、表現としては正しいのではあろうな。
蒸し物は、筍。
雪降る冬といえど、筍は土の下でもう生えているのである。
甘さと旨さ、それに柔らかさ。
八寸はいろいろ。
柿柚餅子、鳥黐蒟、柚子味噌、干し鮎、手長海老、大根毬和え、などなど。
素朴な料理に見えるけど、じつは隅々まで細心な技術の入った料理の数々。
蛤と菜の花の蒸し飯。
筍に続き、春の息吹を感じさせます。
椀物は、田舎風のしっかりした出汁。
それに唐墨が加わり、くっきり、はっきりした力強い味わいとなっている。
アマゴの炭火焼。
この地を流れる清流のごとき、クセのない、澄みきった川魚の味を楽しみましょう。
私が宮崎の高千穂に居た頃、冬の宴会といえばシシ鍋ばかりであったが、そこで硬~い猪肉ばかりを食っていた身としては、こういう柔らかな口ざわりのよい猪肉は反則だと思わぬこともないではないが、この地で、木の実ばかり食っている猪は、とても優しげな旨みたっぷりの、独自の味を持っている。
炊込みご飯は、琵琶鱒と芹。
豊潤な香りがたまらない。
デザートは干し芋薄切りにアイスクリーム。
上品な甘さでまとめてある。
京都では、柊家、俵屋、美山荘とまわってきたが、どこも個性の豊かな、そして美味しい旅館であった。
そして、美山荘の料理は、京都市内の旅館で出る京料理とは明らかに異なり、京都の山奥の田舎料理なのであるが、その田舎料理は極度に洗練されており、唯一無二の世界にあると思う。
そしてその世界を味わう時、そこはやはり山岳寺院である峰定寺の門前の、渓流が傍を流れるこの美山荘でないと、その本当の姿は経験できない。
美山荘の正月料理を、美しき雪景色のなかで体験でき、たいへん満足であった。
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