« 雪の祖母山 | Main | 映画:レ・ミゼラブル »

January 27, 2013

祖母山ミステリ(3) 宮原登山道渡渉部の迂回法

 ミステリー小説において、トリックは重要な要素であり、トリックの本質を知ることにより、謎解きを行うことができる。
 ミステリー小説は100年以上の歴史を持ち、トリックの分類もあらかた出来ている。そのトリックの代表的なものとして、(1)物理トリック (2)心理トリック (3)アリバイトリック (4)密室トリック (5)叙述トリック 等あり、…これらを詳しく説明していると、いつまでたっても終わらないので、そういうものがあるということを述べただけで、ここはいったん終了。


 さて、以前に祖母山の登山記事をネットで検索していると、大雨の祖母山で下山できずに大変な目にあったという記事をみつけた。
 それを読んで、私は「なるほど、これは祖母山ミステリだな。そしてその登山一行は心理トリックにはまってしまったのだな」と思った。
 今回、私はこの祖母山ミステリについて記述、考察し、そして解答を提示したいと思う。

 その登山記事は、以下のような行程となっていた。
 (1)梅雨の時期、7人組のパーティが黒金尾根経由で祖母山山頂に到着した。
 (2)登頂後、宮原経由で下山している途中で、大雨が降って来た。
 (3)下山もほぼ終了し、登山口まであと10分ほどのところで、小さな沢の渡渉部が増水しており、渡れなくなっていた。

【宮原登山道渡渉部】
1

 ちなみに、これが宮原登山道の渡渉部である。
 普段はこのように水量の少ない沢である。
 赤線が渡渉するライン。

【地図 図説】
Photo_7

 (4)の状況を、簡単に図説する。
 登山口がすぐそこである渡渉部を前にして、パーティは困ってしまった。
 なんとかして下山しないといけないのだが、この増水した渡渉部を通らずに、登山口まで着く方法を考えねばならない。
 祖母山ミステリ「宮原登山道渡渉バージョン」である。

 そして、パーティがどのような解決法を試みたかということを、先の記事を進めて示す。

 (5)宮原登山道には林道を行く旧道がある。ここに行くには300mほど登り返す必要があるが、上部の道なので、旧道の途中に一ヶ所ある渡渉部も水量が少ないから渡れるだろうと判断。大雨のなか、旧道を登り返した。
 (6)しかし、なんということか、こちらの道も渡渉部は大量に増水しており、渡れなかった。この時点で本日の下山は断念した。
 (7)下山後は旅館での宿泊を予定していたので、連絡をいれないと遭難騒ぎになってしまう。しかしこの場所は携帯電話の圏外であった。
 (8)パーティは稜線近くまで移動し、宿に連絡。そして、一部は九合目小屋まで行き宿泊。残りのものはビバークとなった。大雨のなかのビバークは大変であった。
 (9)翌朝下山すると渡渉部の水は引いており、無事に渡渉することができた。

 という顛末であった。
 大雨のなか苦労して下山し、あと一歩で登山口という所までたどり着き、あとは宿で宴会だ、というモードからの、いきなりの難行苦行の展開は、まったく辛かったことであろうと同情するばかりである。

【パーティの行動図】
Photo_3

 パーティの行動図を図に示すと、以上の通り。

【パーティの行動図2】
Photo_4

 先のは平面図だが、立体的に示すと、以上のようになる。
 祖母山にいったん登って下山したのち、大雨のなか1000mも登りなおすなんだから、まったく大変な登山だったであろう。

 この「宮原登山道渡渉部が増水のときに、どうやって下山したらよいのか?」という祖母山ミステリに対して、結局このパーティは解答を出すのに失敗したわけだが、これは心理トリックに引っ掛かったんだな、と私は思った。
 祖母山ミステリが提示されたときの図を再掲する。

【祖母山ミステリ】
Photo_9

 この状況でいかにして下山するかだが、このパーティは祖母山をよく知っていたようだ。そのため、
 (1)宮原登山道にはもう一つ旧道がある。
 (2)いざとなれば祖母山山頂を越えて黒金登山道側から下山することができる。
 という知識を持っていた。
 そのため、その知識に従い、結果的には誤った選択をしてしまった。
 祖母山を知り過ぎていたために、心理トリックに引っ掛かってしまったのである。

 ところがもし、祖母山を知らぬ人がこの状況に陥ったとする。
 そうなると最初にすることは、地図を開いて、ルートを検討することである。
 上に示した地図を、祖母山の知識のない、真っさらな頭で、ルートを探してみよう。
 そうすると、案外と容易に解答は見えて来るのではないか?

 というわけで、読者諸氏は、しばし考えてください。

            ↓
            ↓
            ↓
            ↓
            ↓
            ↓
            ↓
            ↓


 それでは、この祖母山ミステリの解答編を示します。


            ↓
            ↓
            ↓
            ↓
            ↓
            ↓
            ↓
            ↓

【祖母山ミステリ解答編】
Photo_14

 正解は、黒の矢印である。
 あまりに普通過ぎるようであるが、ミステリの解答なんて、本来はこのようなものだ。
 単純にして簡単なものが、だいたいは正解なのである。
 厳密にいえば、この迂回路は、川沿いの一部が崖になっているので、直線で行くのは難しく、いったん尾根に登る必要はあるのだが、正解のキモである「黒金尾根登山道に合流する」という意識さえあれば、どうやっても着くはず。

 そして、じつはこの迂回路は、ちゃんと登山道になっており、無理に直線で行く必要もない。具体的には、下のようなルートになる。

【宮原登山道渡渉部迂回路】
Photo_13

 このルートは、宮原登山道を登ろうとして、渡渉部を渡れなかったときにも使うことができ、けっこう応用度の高いルートである。

 そして、前回祖母山に登ったとき、このルートの写真を取って来たのでそれを紹介。

【黒金登山道への分岐】
2

 渡渉部からは、下りてきた登山道をもう一度登り返す。
 すると、すぐにこの分岐点がある。
 ここはロープが張られているが、それは「立入り禁止」というわけではなく、こちらに行くと別の登山道に入ってしまうから、それを防ぐためのものである。

【迂回路1】
3

 ロープを越えて道に入ると、赤テープがきちんとつけられているので、それに従って歩いていけばよい。

【迂回路2】
4

 歩くこと数分で、大野川が左手に見えて来る。ここで、川原まで下りて行こう。

【大野川川原より】
5

 川原につけば、上流に黒金尾根登山道の第二吊り橋が見えて来る。

【第二吊り橋】
6

 あとはこの吊り橋を渡るだけである。もうここは正規の登山道だ。


 祖母山は水の多い山なので、梅雨や台風のときは沢の渡渉が問題となる。いろいろと整備はされてはいるものの、黒金尾根方面ではまだ渡渉問題は解決されてはいない。しかし、宮原登山道では、これは解決されている。
 そして、本当は解決されているはずの問題が、心理トリックにはまり、下山できなかった人達もいることを知り、山というのは、やはり難しいなあとも改めて感じた。

 これからも宮原登山道渡渉部で途方にくれる人が生じるだろうけど、その際、このサイトが役に立てばとも思ったが、…あそこは電波が通じないので、その時には役には立ちませんな。
 しかし、まあ、降水が予想されるときに祖母山に登ろうと計画した人が、渡渉の件について事前に調べるとき、このサイトがその一助になればとも期待いたします。

 本来は、祖母山の情報については、小屋番さんの祖母傾最新情報が一番詳しくて、この迂回路も載っているのだが、(→ここ)、リンクが複雑すぎてたどりつきにくいからなあ。


  …………………………………

 祖母山ミステリ「消えた登山者の怪」
 祖母山ミステリ(2)「長ハシゴの謎」

|

« 雪の祖母山 | Main | 映画:レ・ミゼラブル »

登山」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 祖母山ミステリ(3) 宮原登山道渡渉部の迂回法:

« 雪の祖母山 | Main | 映画:レ・ミゼラブル »