ミサイル雑感
北朝鮮がミサイル発射に成功したとの報には驚かされた。
なにしろ北朝鮮のミサイル打上げ技術に関しては、4月の惨めな失敗があまりに印象強いため、発射の予告をしたあとも、そのミサイルとやらは、どうせまた「自称ミサイル」とか「なんちゃってミサイル」とか「ミサイル(笑)」のたぐいだろうと思い、年末までに壮大な打ち上げ花火が一発太平洋上に咲くのか、と予想していたのだが、打ち上げられたのちミサイルは自爆することもなく、無事に衛星軌道まで達した。
あの極貧の国に、そんな科学技術がよくもあったものだ、と感心はしたが、…よく考えると、北朝鮮って中距離ミサイル「ノドン」は既に実戦配備され、他国に輸出もしているという、軍事産業だけは先進国レベルの戦闘国家であったから、それくらいの技術は持っていて当然であったか。
それにミサイルの技術自体は半世紀以上も前に確立されており、電子制御の技術がそれから飛躍的に向上した現在、北朝鮮が長距離弾道ミサイルの作成に成功したところで、政治的な意味はともかくとして、ミサイルの話題そのものとしては、べつだんたいしたものではないと言える。
ミサイルは、「推進装置と誘導装置と弾頭を持つ兵器」と定義される。
この兵器が初めて戦場に出現したのは、第二次世界大戦中の1942年であり、ナチスドイツ製作のミサイル「V1号」が、ドーバー海峡を越えたイギリスに向かって発射された。
上がV1号であるが、このミサイル、現代の我々がイメージするミサイルとはずいぶんと異なっている。尾翼はともかくとして主翼つきであり、ミサイルというより飛行機に近い形態である。
つまりは後部に積んでいるパルスジェットエンジンの推力が低く、主翼なしで長距離飛行ができなかったからこの形になったわけ。
V1号は実戦配備されたのち、ロンドンに向けて多くの数が発射されたのだが、大半が途中で落ちてしまい、なかなかロンドンにたどり着かない。
燃料の量や航続距離の能力に問題があるというわけでもなく、理由の分からなかった開発者が、有人型のV1号を作成して飛ばしてみた。
じつはV1号はプロペラ飛行機なみの巡航速度であるため、イギリスの戦闘機によって補足が可能であった。そして、V1号に乗ったパイロットはドーバー海峡を越えたところで敵戦闘機スピットファイアーが向かってくるのを視認した。
「理由が分かりました。V1号は途中で戦闘機に迎撃されていたのです」と本部に無線連絡をして、…その後、そのパイロットからの連絡は途絶えてしまった、てな話が残っている。
V1号はそのようにして、多くがドーバー海峡の藻屑と消えてしまったわけだが、ただしV1号は爆弾そのものなので、イギリス戦闘機側も下手に近づいて破壊すると、爆発に巻き込まれてしまうので、迎撃にはずいぶんと苦労したらしい。
V1号がなかなかイギリスにたどり着けないので、それではおれの出番だ、とばかり活用されたのが、V1号と並行して開発が進められていた、かの有名なV2号である。
こちらのほうは、「いかにもミサイル」という形をしているミサイルである。
V2号はV1号と違い、ロケットエンジンなので、速度はマッハ4である。そのような超音速で飛んでくるものを迎撃できる技術は当時なかったので、イギリスにはV2号が雨あられと打ち込まれ、ロンドン市民は恐怖のどん底につき落とされた。
こんな悪魔の兵器のようなものをのべつくまなく打ち込まれては、たまったものではない。そして迎撃手段がない以上、V2号の到来を阻止する方法は、ただ一つしかなく、それはもちろん元を断つ、ということである。
連合軍側はV2号発射の元を断つべく、ドイツ本土への進撃を加速度的にはやめ、そして1944年6月のノルマンディー上陸作戦で、ドイツの基地が次々に制圧されることによりV2号はほぼ息の根を止められ、ロンドン市民はV2号の恐怖から解放された。
ミサイルは派手な武器ではあるが、実戦でまともに使われたのは、戦争の長い歴史のなかでもこのV1号とV2号くらいなものであり、かつ戦略的には、保有国の役にはあまり立っていないというのが現実である。
我が国の隣にある迷惑な国は、長距離ミサイルを持った報いというのを、いつかは思い知る日が来るのであろうが、…というかすでに思い知ってしかるべきなんだけどなあ。
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