緒方@晩秋
紅葉の時期を過ぎた東山の寺院を散策したのち、八坂神社を降りて、四条通りを歩き、夕食は烏丸の割烹緒方へと。
日は暮れており、歩いていてとても寒かった。
最初は茶懐石風に、蕪の餡かけ御飯。
寒い京都の街を歩いて来た身には、身体の内から温まる料理。
まあ、目の前に炭火がカンカンに熾されていたので、それですでに身体の外は温まってはいたのだが。
11月を過ぎ、京都は蟹のシーズンとなる。
香箱蟹は、内子と身に、新潟の青モズクを添えて。それに甘めの蟹酢のジュレをかけている。味豊かな蟹と、これも豊かな味の蟹酢で相乗的に豊かな味。
そして、外子はべつの器に盛られ、こちらはすっきりした味と口触りであり、いいアクセントをつけている。
造りは、上対馬の甘鯛、明石の水烏賊。
舞鶴の寒鰤は、辛味大根で。
いずれも、とても上質なものである。
京料理の華、椀物は、小豆と南瓜の従兄煮。
裏漉しした南瓜を吉野葛で豆腐にし、それに煮小豆をかけたものを、お椀仕立てにしたもの。
澄み切った、鋭くも、豊潤たる出汁に、従兄煮がぶつかる面白い趣向。
危ういバランスを見事にまとめている。
この椀は、冬至名物の小豆南瓜を京料理風にアレンジしたものだそうだ。
ズワイガニの王者、間人蟹。
京都丹後半島の間人港は、蟹の漁場が近いために、日本のズワイガニのなかで最も活きのよい状態で港に入って来て、京都の市場へと出る。
店主は活きたままの蟹を鮮やかな手つきで包丁を入れ、このように料理前の姿を見せてくれる。
貴重品間人蟹は、店主が丁寧に焼き上げ、絶妙な火加減で供される。
蟹の純粋な旨みと甘み、それにほどよい食感を楽しもう。
海老芋が一本まるままの姿で出て来る、海老芋煮。
野趣風味豊かといいたいところだが、その形はスマートで、洗練されている。
海老芋の美味さを直線的に表現する、緒方ならではのユニークな料理。
炙った蟹で、蟹酒。
香ばしい酒。
香り高い鬼柚子を釜にして、これも香りと味の濃厚な、鱈の白子と白味噌を入れて、炭火で焼き上げる。
焼いている時点で、香りが尋常でない。
そして食べれば、それぞれの美味さがぶつかりあう、少々過激な料理。
焼き蟹のうち、焼き味噌が出てこないなあ、と思っていたら、蟹味噌は炊込み御飯で出て来た。
米は芯を少し残したアルデンテで炊かれ、その個性が蟹味噌の味の強さに拮抗しており、リゾット風の料理となっている。蟹をほぐした身も入っており、味、香り、旨み、食感、全てのバランスが良く、間然するところなき素晴らしい料理。
京都の高級系の和食店は、冬になるとメインが蟹となるとのことで、…京都市の京料理店で別に(仕入れ勝負の)蟹食わんでもと思っている私であるが、この蟹御飯には脱帽あるのみ。この高度な料理は、蟹の産地地元ではありえない。
素材、創造性、技術、バランス、全てが突出している。
この手の料理を作るのが大好きそうなアラン・パッサールでも、食べたらベタ誉めする料理だと思う、たぶん。
デザートは、くわい餅。
上品で、余韻の残る、いいものである。
京料理は歴史があるだけあって、遊びとか、余裕とか、リズムとか、そういうものが全体の流れにあり、なんとも雅な食の悦楽にひたれるものであるが、緒方の料理はそれとはかなり違う。
どの料理も、流れをぶった切って、私が一番!と主張するような、全てが全力投球の料理。
そういう意味で、流れが読めず、最初の料理が始まると、ジェットコースターに乗ったような感じで、あれよあれよと緒方の食の世界の激流に巻き込まれ、翻弄され、そしてノックアウトされた感想で終わってしまう。
まったく、面白く、美味しく、そして刺戟的な店である。
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