« 伊勢海老解禁 シャンシャン茶屋@日南市 | Main | フランス行くところ、行きたいところ(1) »

September 09, 2012

私の好きな絵(4):サロメ (作)モロー

Salome1

 聖書の伝えによれば、パレスチナ王ヘロデの後妻の娘サロメは、王宮での祝宴で玉座の前で舞踏を舞い、それはたいそう見事なものであった。喜んだ王は褒美を与えようとした。するとサロメは王国で布教活動を行っていた預言者ヨハネの首を望み、かくてキリストの先導者ヨハネは首を切られることになった。

 他の歴史書の記述もあわせてみれば、ヨハネはけっこう過激な活動家であったらしく、ならば世に不穏をもたらしかねぬヨハネは、為政者サイドから斬首されても仕方のない立場の者ではあり、サロメおよびその周囲の判断は、さほど間違ったものではなかったようだ。

 ただしそれでは、「美しき少女が、預言者の首を望む」という戦慄的な話が、相当に即物的なものとなってしまい、それでは面白くないとのことで、時代を経るにつれ、サロメのエピソードには様々な文芸的修飾が加えられ、やがてサロメは「宿命の女,運命の女」としての位置を持つようになる。
 すなわち、「サロメは愛する男を殺すことでしか自分の愛情を表現出来ない。そういう呪われた定めに生まれた女だ」というふうな。

 この「宿命の女サロメ」の像を確立させていくうえで、大きな役割を果たしたうちの一人が、画家ギュスターブ・モローである。
 モローは19世紀に活躍したフランスの象徴派画家であり、神秘的な画風が特徴であるが、彼はサロメを題材として多くの絵を描いている。
 その多くのサロメシリーズの中で、最も私が愛好するのが冒頭に示した絵。

 これはサロメの絵の定番である、サロメが踊りを終え、褒美として、腕を差し上げ「ヨハネの首を」と望むシーン。

 絵で示される王宮はなんの華やかさもないものの、壁に残る鈍い金色がかつての爛熟を示すようでもあり、しかし今はその爛熟を過ぎ、全体が崩れ、溶解していきそうな、廃墟的な雰囲気を濃厚に漂わせている。
 中央の玉座に座るヘロデ王は、なんの生気もなく、人間というより、情念だけを残した乾ききったミイラにも見え、また玉座の横の帯刀した衛士は、ただ次の出番、預言者の首を切るだけのために存在しているようであり、二人とも命を感じられぬ置物のようだ。
 この死と滅びの雰囲気に満ちた異様な王宮で、一人サロメだけは、瑞々しい生気を放っている。
 彼女は絵のなかで最も目立っており、それは光の使いかたによる。絵のなかで光源は本来は左にある赤・青の奇怪な発光灯なのだろうが、サロメは明らかに自ら白く光っており、その光で、暖かさ、柔らかさを表現し、この崩れかけた、虚無に沈むような王宮のなかで、独立した美しさを誇っている。

【サロメ:拡大図】
Salome2

 そのサロメのクローズアップ図。
 モローはサロメの絵をたくさん書いており、とくにそのなかでは「刺青のサロメ」「出現」などが有名であるが、それらで示された、暗い情念を持つ、悪魔的なサロメとは異なり、ここでのサロメは、清楚で、可憐な美少女である。
 まあ、だいたいが聖書のテキストによるサロメは、「母親の言うことをよく聞く、純真で、踊りの上手な娘」だったので、このサロメがもっとも原文に近いものなのではある。

 モローの後期の作品からサロメ像はさらに発展し、それはビアズレーやクリムトなどによる、なんとも禍々しい世紀末的なサロメの絵まで行きつくことになる。そして、そういうサロメに食傷気味な現代人の私としては、モローによるこの「原サロメ」あるいは「初期サロメ」といってよいサロメはかえって新鮮に思え、絵全体の独自の美しさからも、サロメの純粋な美しさからも、たいへん好みの絵となっている。


 …ただし、以上は画集やwebの画像からの私の感想なのではあって、本物を見た人の感想によれば、たとえば王宮の衛士は、凄まじき形相でサロメを睨んでおり、その眼力と表情からは、この絵は決して静的なものではなく、次のシーン、ヨハネの斬首と、そしてサロメの殺害をダイレクトに導く波動のようなものが示され、静的な美しさとともに、じつは迫力あるドラマも感じられる絵らしい。


 やはり、これは生を見てみないといけませんな。


 ……………………………………

 参考web

 ・モローのサロメの絵一覧の紹介web
 ・モロー美術館

|

« 伊勢海老解禁 シャンシャン茶屋@日南市 | Main | フランス行くところ、行きたいところ(1) »

フランス」カテゴリの記事

絵画」カテゴリの記事

Comments

サロメと言えば、若かりし頃読んだ星野之宣の「砂漠の女王」(だったかな?)が一番印象的だったなぁ。

Posted by: AB | September 11, 2012 at 11:06 PM

妖女伝説の一節ですね。たしかあそこでのサロメはキリストにいいように扱われる愚かな娘だったような。最後のほうのキリストの不気味な笑みのほうが私はより記憶に残っています。

私的にはサロメは、塩野七生の書いた「優柔不断なヘロデ王に、社会の平和のために擾乱者ヨハネを死刑にするように背中を押す、賢い娘」が一番強い印象を受けています。

Posted by: 湯平 | September 11, 2012 at 11:20 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/88430/55625569

Listed below are links to weblogs that reference 私の好きな絵(4):サロメ (作)モロー:

« 伊勢海老解禁 シャンシャン茶屋@日南市 | Main | フランス行くところ、行きたいところ(1) »