フランス食紀行(5) アルページュ L‘Arpège
パリにフランス料理店は数あれど、そのなかで最も人気があり、予約を取るのも困難な店、アルページュ(L‘Arpège)。
それほどの有名店なのであるが、店自体は、ロダン美術館のすぐ近くの普通の路地に面した、カフェレストラン風の一見素っ気ない建物。
三星レストランの多くが、洋館や城風の、「いかにも」という風情の建物だったので、これはかえって新鮮に思える。
【アミューズ ブッシュ(Maison de cusine)】
アミューズブッシュは、野菜のカナッペ。
野菜を得意とする店であり、まずは野菜の可愛らしい料理から。
アントレ一皿目は、「美しい季節」と名付けられた、トマトの冷たいスープに、アイスクリームを浮かせた料理。
まず、このトマトの酸味と香りがただものではない。そしてトマトの味の豊かさも。
このスープに、マスタードのアイスクリームを少しずつからめれば、味は微妙に変わっていき、さらに奥深き味を知ることができる。
アルページュの看板料理の一つが、この半熟卵。
半熟卵は本来はシンプルな料理のはずであるが、まず上に載せているクリームからして甘みと酸味が絶妙。そして、その奥の半熟の黄身が、見事な半熟加減であり、そして黄身の味が濃厚であることから、クリームとあわせて、じつに複雑で繊細な料理となっている。
ショゼ島のオマール海老に蕪。それにアルガンオイルと酢と蜂蜜で味を調えて。
海老と蕪の素材が素晴らしく、豊かな香りに満ちているのに、さらにスパイスで香りを加え、重層的な香りの料理となっている。
アルページュの名物料理、自家菜園の野菜のラビオリ。
このコンソメスープの味がまず素晴らしいのであるが、さらにラビオリの中にもそれぞれ異なった味のスープが入っており、香りと味の三重奏、四重奏を楽しめる。
アルページュは特に野菜料理に力を入れているが、その代表的料理が、この「自家菜園の野菜のArlequin(アルルカン)」。
アルルカンといえばどうしてもピカソの哀しい絵のシリーズを連想してしまうが、こちらのアルルカンは「陽気な道化師」という感じで、色彩鮮やかに、皿の上に魅力を花開かせている。
それぞれの野菜は、茹でたり、焼いたり、燻製にしたりで、その素材を最も美味しくするような火入れをされており、とんでもなく美味である。
メインの魚料理は、ブルターニュの岬で獲れた平目のグリルである。
まずはこの大きな平目のグリルを、客の前に持ってきて、その大きさで驚かせてくれる。
先ほどの平目のグリルに、野菜とワインソースをあわせて、「Turbot de la pointe de la Bretagne grille entier au Cote du Jura」という料理となる。
ソースも野菜も平目も、全てが美味。
肉料理は鴨である。これも大きい。
…なお、他のテーブルにも同様に一匹丸々持ってきていたので、どうやら鶏も平目も、一テーブルにつき一匹ずつのようであった。すなわち一番美味しいところのみを料理に出して、残りは捨てていたのでしょうな。なんと贅沢。
この鴨料理は、「Rotisserie grand heritaje de Louise Passard (ルイーズ・パッサール直伝の大きな炙り焼き屋)」というユニークな名前。
ルイーズ・パッサールって有名な料理人なんだろうか?と調べたら、アラン・パッサール氏の祖母なのであった。アラン・パッサール氏の最初の料理の師匠は、彼のおばあさんだったのである。
鴨料理は、「肉の魔術師」と呼ばれたアラン・パッサール氏の火の入れ方の素晴らしい技術を、思いっきり知ることのできる逸品。
肉の焼き加減には、ウェルダン、ミディアム、レアとあるわけだが、本当に美味しい焼き加減は、アラン・パッサール氏のやりかたに尽きる、と断言したくなる、全体にほどよく火の入った見事な焼き方。
三星レストランの定義は、「そのために旅行する価値のある卓越したレストラン」ということだが、アルページュはまさにそれそのもののレストランであった。
素材も、技術も、全てがきわめて高水準であり、一品ごとに感嘆と驚きのある、素晴らしい時間が楽しめた。
まあ、値段もそれ相応に、結構なものであったのではあるが…
【デザート(caprice d’enfant「子供の狂想曲」)】
本場のフランス料理というのは、二回戦方式、あるいはダブルヘッダー方式になっており、コースがいったん終了したのちは、新たなコースとしてデザートが始まる。
デザートは量も質も本コースと同じくらいなのであり、これらを全部完食できる人たちを見ると、人種が違うなあ、と思ってしまう。
ミルフィーユもマカロン、ヌガもすべて美味。しかし、全て食うのは私らにはとても無理である。
フランス料理界の至宝ともいえるアラン・パッサール氏は、とても気さくで、かつサービス精神の旺盛な人であり、各テーブルを回り、ユーモアたっぷりに挨拶を交わしていた。
日本という遠方から訪れてきた私たちには、一緒に記念撮影のサービスもありました。
さらに、パッサール氏サイン入りの本日のメニューもいただけました。
レストラン・アルページュのサービスとして、OPINELのフォールディングナイフの持ち帰りがある。
デザインの優れた、洒落たクトーであり、さっそくアウトドア用に使わせてもらうことにした。
アルページュ、今思い起こしても、驚きと、感嘆と、喜びに満ちた食体験であった。
名店ばかりを訪ね歩いたフランス食紀行の、クライマックスとなった一夜であった。
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