映画:ダークナイト ライジング
バットマン新シリーズ三部作の完結編。
前作では敵役ジョーカーから、悪人狩りをやっているバットマンの行為は、「個人の鬱憤晴らしで、正義でもなんでもない」と喝破され、ジョーカーが破滅したのちは、腑抜けのごとく消沈したバットマン(=ブルース・ウェイン)が、引退生活を送っている場面が冒頭に示される。
しかし、ウェインの生活とは関係なしに、退廃と混沌の街ゴッサムを破壊し浄化することを己の使命と固く信ずる、悪役ベインの登場により、いったんは平和の街となったゴッサムが、また犯罪者の跋扈する街となる。
8年間虚脱していたウェインは、その報を聞いて活気が入り、バットマンとして活躍しようとする。
けれども、そのハッスルしているウェインに対し、彼が最も信頼している執事から、かつてのジョーカーと同様に、「あなたは悪人(と自分が思っている者))とバトルすることにしか生きがいを持てない人間だ。結局それは身の破滅を招く」と諭され、それでも、それしか自分の生きがいはないと信じ、ウェインはバットマンとして復活する。
悪役(ヴィラン)のほうに、より魅力があるバットマンシリーズであるが、そのシリーズのヴィランは知力・体のどちらかに偏った能力を持つ者ばかりなのに、ベインはその双方を持つ怪物。
呪われた街ゴッサムを消し去ることを己の使命とし、自らの卓越した能力をその目的のために最高度に発揮する。これに関しては、前作のジョーカーのような哲学的、思索的な、…分かりやすくいえば、わけのわからない、破滅的衝動による破壊行動と比べ、目的がはっきりしているので、その行動がずいぶんと分かりやすい。
たぶん能力のある革命家というのは、こういう存在なのであろう。
この映画のなかで、その魅力において主役級を食っていたのが、若き警官ジョン・ブレイク。
幼少の頃にバットマンの正体を見抜き、その後も有能な警官として活躍する、知力、体力、ともに高く、そして正義感に満ちた好漢。その一途な正義感により周囲とも衝突するが、極めて有能なため、軋轢をものともせず事件を解決の方向に導いていく。
彼とバットマンの会話のうち、どう考えてもこの警官は、「あの人」だろうなと思うのだが、そういう気配がないまま終章に進み、やっとそういう結論が出て、みな納得する。
そういうおいしい役。
いわゆる「アメリカン・ヒーローもの」のなかで、コミックとは微妙に異なるものの、映画におけるバットマンは、他の陽気なヒーローとおおいに違った性格を持つ。
アメリカは、元が途方もなく大きな国だから、光も影も、それに比例して大きい。そして、バットマンはその影を代表するヒーローで、アメリカの暗闇、矛盾を一身にまとったようなところがある。
ブルース・ウェインは、その幼少の頃に経験した悲劇に打ちのめされ、そこから自分がバットマンになることによって、その悲劇のどん底から逃れたつもりであったが、実は、それからずっとバットマンに呪縛された日々を送っていた。そしてそれは、ゴッサム・シティ、そしてアメリカからの呪縛でもあった。
「ダークナイト・ライジング」は、ウエィンが多くの犠牲を払って、バットマンの呪縛から逃れて、自身の人生を取り戻す、そういう個人の、没落と試練と再生の物語であった。
アン・ハサウェイ演じるところのキャットウーマンは、ずいぶんと微妙な役どころではある。この美しい泥棒が持つ高度なスキルは、高度なわりには、やっていることはコソ泥に過ぎず、いったい如何なる立場の悪人なのかよく分からない。
そして、自分のことしか考えないような我がままな泥棒なのに、彼女をウェインが信頼しきっているところも、観ていてどうにも納得しがたい。
それでも彼女の介在によってストーリーはずいぶんと進んでいき、そして終末間近のクライマックスの、ベインとバットマンの「男の闘い」で、突如介入したキャトウーマンが、いかにも彼女らしい現実的な解決法で、無理やり決着をつけるところは観ていて妙な爽快感があったりはする。
まあ、そういう感じで、この映画のなかで「最も役どころが分かりにくい」キャットウーマンであるが、最後の最後で、伏線を回収しつつ見事にその役割が決まり、観客は、「あ、そういうわけだったのか」と、静かな感動を覚える。
暗く、暗鬱な、やりきれなさばかり感じる「ダークナイト三部作」であったのに、その完結編でこういう、ほのぼのした結末で〆るとは!
ノーラン監督、あっぱれなり。
ダークナイト ライジング 公式サイト
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