オリンピック雑感: 未来のバタフライ
ロンドンオリンピックでは日本競泳陣が大活躍で、続々とメダルを量産しており、そして宮崎県出身の松田丈志選手がバタフライ200mで銅メダルを取ったときなどは、宮崎県では号外新聞が出るほどの騒ぎとなっていた。
水泳競技は、一般人としてはオリンピックの時くらいしか真面目に観ることはないのだけど、クロール、平泳ぎ、背泳ぎに比べると、バタフライってどうにも妙な水泳法ではあるな、と見るたび思うのは私だけではないはず。
陸に住む人類が、泳法というものを知らない時代、川や海に落ちるなどしてやむを得ず泳がねばならなくなったとき、その泳法はたぶん苦し紛れの犬かきに似た、ジタバタした泳ぎであったと思われる。
それの発展形として、速く泳ぐためのクロール、楽に泳ぐための平泳ぎ、息継ぎをせずにすむ背泳ぎは、これらは必然性をもって、自然に発生したであろう。たぶんこれらの泳法は種々のバリエーションをもって、あらゆる国、人種を問わず、普遍的に存在した泳法と思われる。
【バタフライ Wikipediaより:クリックすると動きます】
しかし、バタフライに関しては、これが自然に発生する理由が思い当たらない。
足の動きは生理的な運動であるキックでもバタ足でもなく、二本足歩行の人類としては無理のある垂直方向の水かきである。
そして手の運動とはいえば、腕と上体を一挙に水面上に押し上げる、極めて筋力のいる泳法であり、さらに足と手の運動は身体全体が協調性をもってくねくねと動かねば、効果的な推進力が得られず、…すなわち、えらく体力と技術のいる泳法なのである。
このような面妖な泳法は、もちろん自然発生するはずもなく、平泳ぎのレースが行われるうち、抜群の筋力のある者によって、「もっと早く平泳ぎを泳ぐため」に開発された、平泳ぎのバリエーションなのである。
だから、他の泳法とは違って、バタフライは、いつ頃、誰によって開発されたかは、きちんと記録に残されている。
この不自然な泳法バタフライが、自然な泳法に匹敵する認知性を持つようになった理由といえば、おそらく、その「格好良さ」によるものであろう。
じっさい他の泳法に比べて、明らかにバタフライは迫力があり、水泳のプロの泳法、という気がする。
バタフライは見ているだけで、気分が高揚するようなダイナミックな泳法であるが、とくに大柄で筋力抜群のスイマーが泳いでいるときが、迫力抜群である。
ビオンディやグロスのような大男がバタフライで泳ぐ様は、大型の砕氷船が凍った海をバリバリ砕きながら突進するような、問答無用の力強さがあった。
こういう妙な泳法であるけど、魅力あふれるバタフライにはじつは欠陥があり、推進が不連続なので、連続して推進するクロールにはスピードで負けている。
水をすいすいとすり抜けていくクロールよりは、水を叩いて進むバタフライのほうが、よほど見た目に豪快なので、私としてはクロールに勝ってほしいのだが、現状の泳法では無理のようであり、自由形にバタフライが登場することは今のところない。
ただ、バタフライはクロールに勝る利点がある。
水泳とは水の抵抗との戦いでもあるのだが、上半身が水面に出るバタフライは、そのときは水よりも抵抗の少ない空気を相手にしているので、そのぶん水の抵抗が少なくてすむ。
となると、上腕の力を上げ、今よりさらに身体の大部分を水面から放り出すようにすれば、水の抵抗はずっと少なくなり、推進力も増すはずだ。
現実にそのような泳法を行っている動物もいて、たとえばトビウオなんて、その典型である。トビウオは水中で思い切りヒレを動かし、その勢いで空中に飛び出し滑空する。
トビウオのように水面の上をずっと飛べとは言わないが、(だいたい飛んでしまうと水泳は失格になる)、水をかくときに身体の殆どが浮き上がるように泳ぎ、上半身が着水したときにまたそれを繰り返して、水面上をぴょんぴょんと跳ねるように泳げば、これはけっこうなスピートの出るバタフライとなろう。
上半身を極度に鍛え、下半身は徹底的にスリムにすれば、決して不可能な泳法ではないと思う。
まあ私が考えつくらいだから、本職は必ず考え付いてはいるだろし、そいういうトレーニングをしている選手も当然いる可能性はある。
20世紀後半に出現したバタフライという泳法が、21世紀さらに進化し、やがては最速の泳法として自由形に登場することを私は夢想している。
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