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August 19, 2012

映画:プロメテウス ネタバレ編

 「宇宙に存在しているであろう神にも等しい高次的存在」は、SFにとって魅力的なテーマであり、それを題材としたSF小説や映画はいくつも作られている。
 「プロメテウス」もその系列に位置する作品であり、古代遺跡に残された手掛かりから、その高次的存在を求めて人類が恒星間旅行をする話だ。
 プロメテウスに登場するその高次的存在と目された異星人は「エンジニア」と呼ばれているが、そのエンジニアは、実は人類が想像していたものとは真逆のものであった、というのがオチとなっており、それが新鮮に感じられた。

【エンジニア@太古の地球】
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 映画冒頭。舞台は3万年も前の太古の地球である。上空に巨大な宇宙船が浮かび、そこから降りたと思われる白い巨人が登場。彼は宗教的儀式のように「黒い液体」を捧げ持ち、それを飲み込む。
 すると巨人の肉体は沸騰するかのごとく膨張し、そして海にダイビング。身体は海に溶けていき、そこから生物的活性を持つらしいDNAが放たれ、どうやらこれが地球上生物の素となった模様。

 プロメテウスの神話さながら、我が身を犠牲にして人類の進化を助ける、このエンジニアのその目的はなにであったのか?

【惑星LV223:宇宙船内部】
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 地球に残された手掛かりに従い、30光年の距離を越えて、目的とする星系へとたどり着くと、そこにあった惑星はエンジニアの母星ではなく、宇宙船中継基地のようであった。
 その惑星にあったエンジニアの宇宙船の内部には、礼拝堂のような宗教的施設があり、彼らが「神」と拝んでいたとおぼしき巨大な頭像がある。
 この頭像、のちにエンジニアそのものをモデルにしていることが分かる。
 彼らは、神を見つけること、あるいは造ることは出来ず、自らを拝むしかなかったようである。

【惑星LV223:宇宙船操縦室】
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 宇宙船操縦室にダヴィッドが入って、操縦法を調べているところ。
 ホログラムを起動させると、数々の惑星が映し出され、エンジニア達は地球のみならず、数多くの惑星も訪れたいたことが判明する。


 知的生命体が恒星間宇宙旅行という大事業を行うとして、そのような巨大な労力と費用のかかるプロジェクトを行のは切羽詰まった理由が必ずある。
 最も通常の理由は、その生命体が種として行き詰ってしまい、解決策を求めるため、宇宙に進出するというものであろう。それにより、その生命種は生存圏を拡大できる可能性が生まれ、さらには更なる知的生命体へのコンタクト、いわゆる神探しも行うことができる。
 エンジニアは宇宙進出に成功し、そして遥かの昔から宇宙の探査を行っていた。地球からあっさり引き上げていることから、彼らは生存圏拡大には興味を持っていなかったようであり、そして宇宙船の頭像から示される宗教的希求心から、彼らの主目的は「神探し」であったようだ。
 ところが、頭像がずっと彼らの形であったことから分かるように、彼らはついに宇宙で自分たちを越える生命体に出会えることはなかった。どころか彼らは、彼ら以外に宇宙に生物を認められなかったのだろう。
 おそらく進化の袋小路に入ってしまい、これより進化の方法を持たぬエンジニア達は、神が得られなかった以上、種として衰退していくしかない。
 そこでエンジニア達は、神を求めるために、神を探すのではなく他の手段を行う。その方法が「黒い液体」である。「黒い液体」は、遺伝子に活性を与え、人工的に進化させる物質であるが、それにより、

 (1) 自らの肉体を進化させ、神を目指す。
 (2) 自らの遺伝子を他星にばらまき、そこで生じた生命体が神に進化することを期待する。
 の二つの手段で、エンジニアは神を求めることになる。

【失敗1】
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 (1)は、どうやら大失敗したようで、一人の実験台となったらしいエンジニアが凶暴化して、宇宙船一つがほぼ全滅となってしまった。その失敗の映像が、ホログラムとして残されていたが、全容は不明。

【失敗2】
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 生命の存在が可能そうな地球で遺伝子をばらまく。-このこと自体が、エンジニアが神でなかった更なる証拠ではある。無から有を造りだせるのは真の神だけであり、超文明を誇るエンジニアといえでも、生物は自分の生命を鋳型として造り出さざるを得なかった。

 かくて地球に知的生命体人類が誕生し、エンジニアは定期的に地球を訪れ、彼らの進化の手助けをし、これ以上の援助が必要なくなったところで手を引く。
 人類が彼らなりの進化を遂げ、やがて神に近づくまでの存在になったとき、エンジニア達を訪れてほしいとの地図を残して。

 すなわち、エンジニアが地球に残した星系の地図は、招待状というより、「自分たちを救ってほしい」という一種のSOSだったわけである。

 …やがて人類は高度の進化を遂げ、ついには21世紀末には恒星間飛行も出来るほどの技術を獲得し、エンジニアの星を訪れたのだが、

【エンジニアぶち切れの図】
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 宇宙船には、不幸な生物事故からただ一人生き残った者が居て、コールドスリープから目覚めたそのエンジニアと、人類はついにファーストコンタクトを行う。

 しかし、じつはプロメテウス号惑星探索の真の目的は、「ウェイランド社の社長が高齢になって死にかけているので、不死の術を得るために、社長自ら計画を練ってエンジニアの星を訪れた」という、はなはだ即物的、俗物的、形而下的なものであった。
 それゆえ、社長はアンドロイドを通訳として、「自分を不死にしてくれ」てなことを頼む。

 はるか昔に地球に種を播き、高次の存在になってほしいと、人類の成長を見守って来たエンジニアとしては、これはぶち切れますね。
 高文明、高知能の持ち主のエンジニアといえでも、ここは激怒せざるを得ない。
 エンジニアは寝ざめの不機嫌さも相まって怪力まかせに、社長、アンドロイド、ついでにお付きの者も、ぶち殺し、この壮大な宇宙の旅はどっちらけの結末に終わってしまった。

【ついでの結末】
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 話はまだ続きがある。
 あまりの地球人の情けなさに呆れたエンジニアは、それでも生物的上位者としての使命があることに気付く。
 己の力では神への進化は無理であった人類ではあるが、「黒い液体」の力を借りれば、進化するんじゃないの? 自分たちには合ってなかったが、人類なら合わぬとも限らない。
 そういうわけで、エンジニアは宇宙船を始動させ、地球を目指す。

 …しかし、プロメテウス号クルーはそうは思わない。
 宇宙船内部の「黒い液体」を生物兵器と思い込んでいるので、(彼らはエンジニアが自ら黒い液体を飲む冒頭のシーンとか知るはずないから、そう思っても仕方はないが)、生物兵器満載の宇宙船を地球に遣っては地球の破滅だと、プロメテウス号自らを宇宙船にぶつけ、それを阻止した。
 まあ、黒い液体の効果については、既に乗組員を使ってデヴィッドが人体実験をやっているので、その悲惨な結果からは、黒い液体によって人類が神に進化できるかどうかは、極めて勝ち目の少ない賭けとは思うので、この判断はそれなりに正しかったと、人類側からは思う。

 そういうわけでの、クルーにとっても、エンジニアにとっても、またウェイランド社にとっても、さんざんな結果に終わってしまったLV233探査計画なのであった。


 ネタバレその2


【メレディス・ヴィッカース】
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 ところで、この映画、役者陣では見た目でシャーリーズ・セロン演じるところのヴィッカースが最も魅力あり、非常に重要な役割りを果たしているように見える。
 最初の登場シーンの腕立て伏せのところなんてのも、いかにも意味深そうだ。

 そして、彼女はじっさいに非常に重要な役だったのだが、…それは我々が期待するところの重要さ-例えば、

 (1) 人類のなかで、極めて高い知力と体力を有していたため、ウェイランド社から特別に選別された。
 (2) 自身が神になりたいため、この機会を待ってウェイランド社に入社し、その目論見通り、この計画に選抜された。
 (3) じつは、彼女自身が地球人の進歩を見守っていたエンジニアそのものであった。(エンジニアの雄はごつくていかつかったが、雌は華奢できれいだったとか)
 (4) じつは、彼女は、人類の中で最も進化した神にも近い全能の存在であり、それでこのプロジェクトの趨勢を観察するために、無理やり参加した。

 というふうな、セロンの外見にふさわしい「彼女は超特別である」との役割を発すると、観客は思っていたのに、…映画での役割は、まったく違っていた。

 まあ、惑星探査チームのなかで、最も重要な役と言えば言えるのだけど、これってずいぶん地味な役だなあ。

【ヴィッカース個室にて】
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 ウェイランド社の重役であり、社長の娘でもあるヴィッカースは、このプロテウス号計画に最初からまったく賛成ではなかった。
 異星人の存在なんて元から雲をつかむような話だし、異星人がいたとしたらそれはそれで、一企業の手に余る大問題だ。さらに妙な菌を積んで戻ったりしたら、地球規模のバイオハザードを起こしかねない。
 そして、これが重大なところだが、なによりプロメテウス号のチームがまったく信頼できないような面々だった。彼らにこのビッグプロジェクトを任せておくと何をしでかすか分からない。
 それで、彼女は嫌々ながらこの遠征に参加し、チームを監視していたわけ。

 行け行けどんどんの乗りで盛り上がっているクルーに対し、彼女のみが一貫して冷静であり、まともな判断を下していたのは、そういうわけだったのである。

【ヴィッカース最後のシーン】
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 せっかくシャーリーズ・セロンという大物女優を起用しておきながら、見せ場は最初の腕立て伏せだけかい! という感じで話が進むなか、ヴィッカースは特攻に出たプロメテウス号から脱出する。
 しかしそこへ墜落してきた巨大な宇宙船が、ごろんごろんと転がって来て、これに追いかけられ、必死で走って逃げるも、追いつかれ押し潰されてしまう。
 う~む、セロン久々の見せ場がこれってのはひどいと思う。

 (…なお、映画で観ていると「横に逃げろよ!」と突っ込みを入れたくはなるが、自分がその状況になったと考えると、あんな巨大なものが覆いかぶさってきたら、たしかに横も縦もなく、ただ必死に逃げるのみではあろうな)

 どうにも不憫な役である。シャーリーズ・セロンは、もうギャラとか考えなくていいような俳優なんだから、仕事選べよ! と思ってしまったのはぜったい私だけでないはず。

 というか、この映画のなかで、シャーリーズ・セロンの位置はやっぱりおかしい。彼女は主役級の位置をしめてしかるべき女優であり、たいした活躍の場もない挙句、宇宙船に押しつぶされて終わってしまう端役では、誰も納得できない。
 
 ゆえに、先の私の考察でいって、彼女の正体は(4)にしたい。
 
 彼女こそ、エンジニアが待ち望んでいた「神」なら、彼女は万能であり、物語の流れにもピタっとはまる。
 そして、次作の冒頭のシーンで、宇宙船を押しのけ、「あ~、びっくりした」と言いながら、地中からセロンが出てくると、ここからいくらでも物語は動き出す。
 それなら次作にも彼女は出てくるし、だいたいこの作で終わっては、セロンは不完全燃焼に過ぎる。


 ネタバレ その3


【アンドロイド デヴィッド】
David

 プロメテウス号の惑星探索計画が散々な結果に終わるのは調査隊の無能にもよるが、もう一つはアンドロイド、デヴィッドの暗躍のせいもある。
 このアンドロイド、機能的には超高性能なわりには、ロボット三原則を一切無視して、人間の言うことはきかないわ、人間に危害は加えるわで、本来人間の役に立つべきロボットの風上にも置けない存在である。
 ただ、このアンドロイド、製作したのがウェイランド社ということが最初に示されている。ウェイランド社作のアンドロイドって、既に映画エイリアンに出てきており、それは人間に危害を及ぼすことを全く意に介さず、会社の利益に尽くす、愛社精神に富んだ、厄介な存在であった。
 だからデヴィッドは一般的にはおかしくみえても、ウェイランド社の仕様としては、普通のアンドロイドではあるのだ。

 デヴィッドは乗組員を危機に落とす一方で、ウェイランド社と社長のためには懸命に働いている。そして、働いた結果は、社長が言ったように「全て無駄であった」で終わってしまう。
 哀しくも、空しい、結局こいつはなんだったんだ、てな役であった。


 とか、いろいろ文句を書いたが、この映画の映像美は見事の一言に尽きる。
 100億円以上の製作費をかけて造り出された、奇怪な宇宙船の造形や、嵐の惑星の情景、プロメテウス号の飛行の雄々しさ、等々見どころはいくらでもあり、それらだけでも映画史に残る大作だと思う。
 次作も楽しみだ。

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Comments

おもしろそうですね
レンタル出たら観てみます。

Posted by: キヨシ | August 30, 2012 09:31 PM

面白さはどうとして、この映画の映像美は映画館の大画面で見たほうが、いいと思います。
ヒット作なので、10月くらいまではやってそうなので、映画館で観ることをお勧めいたしますです。
…延岡でも3Dでやってますし。

Posted by: 湯平 | August 31, 2012 01:31 AM

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