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May 26, 2012

祝 竹内洋岳氏8000m峰14座登頂

 ヨーロッパでは登山は一流のスポーツとして認められていて、スター級の登山家は英雄的存在であり、またたくさんのスポンサーがついていて大金持ちであったりして、たとえばラインホルト・メスナーは大きな城に住んでいる。
 しかし日本では登山は趣味の延長くらいの位置にしかなく、登山で飯を食っているプロは、ガイド業を除いては竹内洋岳氏、ただ一人しかいない。

 その竹内洋岳氏は、ヒマラヤ8000m越えの山(ジャイアンツ)14座の登頂に挑戦中であったわけで、私も去年そのことについて読書評を書き、「残すはあと2座のみ。栄光の日はいつ訪れることになるのか」と結んだのだが、それを書いて1年もたたぬうち、5月26日偉業達成となった。

 登山の行為のうち、この14座登頂がいかに偉業かというと、それはあのローツェ南壁登攀の次くらいの難易度といえばその凄さが容易に分かると思う。…分からんか。

 8000mを越える高さは、「デスゾーン」と呼ばれ、酸素濃度は平地の3分の1だし、低温、気候等、とうてい人間はおろか生物の存在できるところではない。
 それでも、先鋭的登山家は自然の摂理を無視して、デスゾーンを突破して8000m級の山の登頂に立つ。
 当然に危険極まる行為であり、死の危険が高い。
 8000m級の山に挑戦したさいの死亡率は、wikipediaに詳しくのっているけど、(→ここ)、登山術が発達した1990年以後の記録では、死亡率の高い順に、カンチェジュンガ 22% アンナプルナ 19.7% K2 19.7% と5人に1人が亡くなるというハード極まる山が並ぶ。近年観光化されフィックスロープが張り巡らされたエベレストでも4.4%の死亡率だ。
 確率計算でいえば、14座登って、命を失わずに下山できる可能性は約20%。10人トライして、2人しか成功しないという低い確率。しかもここでの失敗は、すなわち死ということであり、あらゆるスポーツでも死亡率80%なんて無茶な競技はこの「ジャイアンツ14座登頂」くらいなものである。しかもそれに挑む者はトップレベルのクライマーばかりなのであり、その10人のうちの2人しか成功できないというのは、とんでもない難事業なのであって、これを達成できたことは、すなわち国家表彰レベル、国民栄誉賞を与えていいくらいの偉業なのである。
 じっさい、竹内氏のパートナーで一足先に14座登頂を達成したラルフ・ドゥイモビッツ氏は表彰を受けている。

 ところで、竹内氏は日本人初のジャイアンツ14峰登頂者である。
 マナスルの初登頂が1956年の日本隊であることから分かるように、日本の登山の歴史は古く、実力ある登山者も多いのに、竹内氏が初めてであったのは、不幸な歴史がある。
 14座を狙っていた日本のクライマーには、山田昇、田辺治といった世界に誇るモンスター級の登山家がいた。山田昇は「史上最強の登山家」が代名詞であったし、田辺治はローツェ南壁の登攀成功者である。彼らは14座登頂の十分な資格者だったはずなのだが、残念なことに9座登ったところで、遭難死を遂げてしまった。
 9座というのは、日本の山岳会にとって嫌なジンクスとなり、この二人に加え、9座を登った名塚秀二も、9座登ったところで遭難死しており、そして竹内氏も10座目に狙ったガッシャブルムII峰登山中に雪崩に会い、瀕死の目にあっている。
 しかし氏は、破裂骨折した脊椎にボルトを埋め、懸命のリハビリを行い、1年後に同峰登頂のリベンジに成功している。まさに不屈の精神の持ち主だ。

 8000mを越える山の世界では、猛威を振るう大自然の前に、人間などほんとうにちっぽけな存在である。大自然のほんの気まぐれで、あっさりと人間は死んでしまう。じつに過酷な世界だ。
 けれども、それを当然のこととし、それでも己の精神と肉体を鍛えに鍛え、その神々の領域の世界に挑み、そして神の世界に届くような難行を成し遂げる人間がいる。

 極端な登山の世界をナンセンスと思う意見もあるだろうが、人類の歴史とは、ずっと自然へ挑戦を続けてきた歴史であり、そして、こういうジャイアント14座挑戦のような険しい挑戦と成功こそ、人類の力強さ、可能性を改めて知ることができる、大いなる「人間賛歌」であろう。

 その「人間賛歌」を聞くことができた、今回のニュースはたいへん嬉しいものであった。

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