徳島編(3) 美馬→阿波土柱→神山温泉+「壺中庵」 49.7km
ひなびた地のビジネスホテルの朝食は、なにも期待していなかったが、けっこうまともなものであった。
大手のビジネスホテルよりも、個人が経営しているようなビジネスホテルのほうが案外といい飯が出たりする。
美馬を出発したあとは、まずは徳島名物、阿波の土柱に寄ってみた。
130万年の年月をかけ崖の礫層のうち柔らかい部分が流れ、硬い部分がセメント化して柱状、尖塔上に残ったものである。
たしかに奇勝であるが、「雨に削られた崖」だけのようにも思える。
ただし、このたぐいのものが崩壊せずに長い年月残るのは稀なる現象のようで、この土柱のような地形は世界に三か所しかないそうである。
土柱は上まで登れるので、とりあえず登ってみた。
阿波の土柱は観光地としてそれなりに栄えた時代があったようで、頂上部にはホテル跡があった。
もう廃墟となって、10数年は過ぎたような建物である。
土柱自体が崖の廃墟みたいなものだが、人間の造りし廃墟のほうもそれなりに味がある。
土柱を見たのちは、本日の宿泊地の神山温泉へと向かう。
神山温泉に至る193号線は、ここが入り口になるが、けっこうな激坂である。
地図でみてもここからは坂また坂の区間なのであるが、最初からこれでは先が思いやられるところだ。
193号線の坂をひたすら登って行くうち、少しばかり平たいところにあり、そこに「後藤田正晴氏軌跡公園」なるものがあった。
こういう写真入りの顕彰碑ってけっこう珍しいものであり、記念に写真に撮っておいた。
いつまでたっても峠が見えてこない山道を行くうち、道路には雪がみえだしてきた。
四国の山のなかって、寒いところなのである。
とんでもない坂でも、ペダルを回していけば、やがては峠に着く。
「経の峠」は標高770m。弘法大師がここで修業して経をよんだという由緒ある峠である。
由来はともあれ、とにかく疲れた。
あとは下りなので、体力的には楽だが、しかし道路にはシャーベット状の雪がまだ残っており、油断するとすぐ転倒しそうなので、慎重に下っていこう。
こんな感じで下り道にも雪が残っていて、用心が必要。
そして、登りのときにはなにも思わなかったが、下りだと運動しないので寒いったりゃありゃしなかった。
寒い寒いと思いながら、ようやくたどり着いた神山温泉。
ここのホテルは観光ホテルであり、けっこうアメニティが良かった。
そして温泉は、場所的には沸かしの循環だろうなと思い、湯質には期待していなかったが、入ってみれば弱アルカリのぬるぬるした湯で、案外と良かった。冷え切った身には、こういう芯から温もるポカポカ系の湯はたいへん有難かった。
夕食は、徳島の和食の名店「壷中庵」にて。
この店は、12月の名古屋での忘年会の時に、食通の方々が口をそろえて「四国に行ったら、必ず訪れるべき店です」と言われ、そのとき知った。
それゆえ今回の四国サイクリングで一番の候補に入れておいた。
「壺中庵」は山のなかの一軒屋みたいな存在ゆえ、近くには宿などはなく、一番近い宿が8km離れた神山温泉の「ホテル四季の里」であったのだが、フロントでタクシーの予約をしたさい、「タクシーに壺中庵っていって分かりますかね」と聞くと、「このホテルに泊まってから訪れる人はけっこういます。大丈夫です」とのことであった。
「壺中庵」、遠方からわざわざ泊まってから来る人がいるわけで、三つ星クラスの店みたいですね。
さて、タクシーに乗れば壺中庵にはあっさりと着いたが、この店、まさに徳島の山のなかの一軒家であり、外見は田舎の民宿っぽかった。
それでも中に入れば、部屋は一流料亭のそれであった。
床の間には月次の茅の輪が置かれ、金の俵の置物もあり、初春の慶賀な雰囲気。山のなかで、こういう雅な気分を味わえるとは。
鯛、車海老、ミズイカ。
造りを見て私は驚いた。このように美しい鯛の造りを私は今まで見たことがない。
鯛自体が鮮度よく身の締まった上物なのに、さらに切った断面がじつに艶やかでかつ滑らか。
そして食べれば、甘みと旨みが見事に混交した、鋭くかつ豊かなもの。
いやはや。たいしたものです。
正直、徳島の山ゆえ、造りのたぐいはあまり期待していなかったが、まさかこのようなものを経験できるとは。
椀は、渡り蟹の蟹真蒸椀。
渡り蟹は個性の強い蟹だけど、その渡り蟹特有の蟹の味の強さは抑え気味にして、ホコホコした優しい食感を残したまま、上品な京風の椀に仕立てている。
焼物は真名鰹の酒盗漬け。
真名鰹の良さはもちろんだが、その味付けと焼き加減が一流。
見事なものである。
穴子と海老芋の炊き合わせ。
どれも素材の味をストレートに出して、それを薄味の出汁で調え、爽やかかつ奥深い料理となっている。
〆は蛤雑炊で。
蛤の味の豊かさと、御飯そのものの美味さの調和。
しみじみと美味しい。
いやはや、いずれも完成度の高い、熟練の極みのような料理の数々であった。
これならば、遠方からも壺中庵だけを目当てに徳島の山の中に人が訪れるのも当たり前であろう。
しかも、じつは壺中庵の本領はまだ他の時期にある。
壺中庵は、嵐山吉兆直系の店主が、出身地である徳島の美味い素材を供するために、この地に出した店である。そして、地元の食材の真価は「鮎」と「鰻」だそうで、だからこそこの不便なロケーションなのであった。
今回は、思いっきりそれを外した時期に来てしまったが、それらの料理を味わうためにも、また来たいと思った次第である。
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