【ランドナー】

泊まったホテルにはもう一人自転車旅行者がいて、ホテルの正面に自転車を立て掛けていた。
この自転車が正統派ランドナーであった。
荷物を積んでの長距離旅行用の自転車は、それ専用のものというのがじつは市販していなく、個人好みのパーツを組み立ててのオーダメイドとなる。
この自転車のオーナーは自転車生活の長い人であり、その流れで行きついた自転車なので、やはり格好いいですね。
私も本当はランドナーで自転車旅行したかったのだが、ドタバタしてオーダー自転車までは行きつかず、結局出来あいのツーリングバイク、Giant Great journeyで旅することになった。このバイクで何が困る、ということはないのだが、stylishでないのが難なんだよなあ。まあ、Giantの自転車は全般的にそうなのだが。
さて、米沢からはどこへ向かうべきか。
角館に入ったついでに、ずっと東北の真ん中を南下したので、東北の食の宝庫庄内地方をすっ飛ばしてしまっている。それでここから日本海側に戻るのが賢明とは思う。
しかし地図を見ると、米沢市は福島市に近い。福島市、というか飯坂温泉には料理の美味い名宿「御宿かわせみ」がある。予約の難しい人気旅館ではあるが、今の時期は放射能騒ぎのせいで、福島のどの旅館も閑古鳥が鳴いているとかの話を聞くので、試しにかわせみにTEL。空室あり、一人でも可とのことで飯坂温泉に向かうことにした。
【栗子峠へ】

山形福島県境には栗子峠という難所があり、けっこうハードそうな峠である。
峠には国道13号線の旧道を使っていけるはずで、その道の入り口を探していたが、見つからずに西栗子トンネルまで来てしまった。
【西栗子トンネル】

山形福島両県をまたぐ西栗子トンネルは、全長2675mという長大なトンネルである。
半世紀近い前に造られたトンネルだけあって、じつに不便というか、自転車に優しくないトンネルであった。
古い規格のトンネルゆえ道そのものが狭く、大型車など車線いっぱいである。そして路側帯はなきに等しい狭さで、白線にはスリットが刻まれ、そこに車輪を乗せるのも危険だ。
歩行者用の部分に逃げようにも、狭い側溝の蓋を50cm以上も盛り上げたつくりになっており、歩くのさえ困難で使いようがない。
車の通行量が少ないのが唯一の救いであったが、こんなとんでもないつくりのトンネルを2km半走るのは恐怖以外の何物でもなかった。
【西栗子トンネル出口】

命からがらという感じで西栗子トンネルを脱出。
トンネル内はとても写真など撮る余裕はなかったが、この写真で示すように、路側帯はほとんどなく、そして歩道(?)も高く狭く、とても使いものにならない。現在の規格では考えられないトンネルだ。
こんなトンネルは絶対嫌だ! もう二度と通らん、と固く決意した。
…しかし、国道13号線は、西栗子トンネルに続いて、まったく同じようなつくりと長さの「東栗子トンネル」があるのであった。
似たような感じで命からがら東栗子トンネルを抜けたあとは、すっかりトンネル恐怖症になってしまったであることよ。
ちなみに旅行を終え数百のトンネルを通った経験から、こんなに恐かったトンネルはここだけであった。この2つのトンネルは全国的にも極端な存在である。
栗子トンネルを越えては国道13号線もまっとうな道となり、下り基調で福島は飯坂温泉に到着。
【飯坂温泉中心地】

西行法師も訪れたという歴史のある飯坂温泉は、かつては賑わっていたのだが、今では摺上川沿いの大型ホテルも廃業が相次ぎ、閑散とした静かな温泉街となっている。
ただでさえ下り坂傾向にある飯坂温泉に、原発事故が重なったため、どこも大変だそうだ。
【飯坂温泉 のぼり】

まあ、それでも地道に頑張らねばなんともならないわけで、気合いを入れるこういうのぼりも街中にあったりした。
【御宿かわせみ】

御宿かわせみに到着。
飯坂温泉、というより東北を代表する名宿である。
私は8年前にここに泊まり、部屋、庭、接客、料理等々、なるほど高級宿とはこういうものなのかと感銘を受けたことがある。
そのレベルの高さから人気の高い宿であったのだが、東日本大震災で施設が損傷して休業を余儀なくされ、修復ののちやっと再営業したのに、原発事故の影響で客足が戻らず、けっこう苦労しているそうだ。
福島および東北各県では毎日空間線量の値が定期的にニュースで流されており、いずこも健康被害など出るはずもない値なのは容易に分かることなんだけどなあ。この「なんだかよくわからんが、とにかく放射能恐いムード」が治まるには、いつまでかかるのだろう。
【かわせみ 庭】

かわせみは、部屋も庭も完成度が高い。
庭はまだ紅葉の時期には早かったのだが、中央の樹が一本いい塩梅に紅葉しており、周囲の緑のなかでいいアクセントになっており、趣ある風景となっていた。
【かわせみ 夕食】

さて、楽しみの夕食。
この宿は「非日常」を演出する宿で、特に料理にその特徴が出ている。
素材は鮮度のよい高級食材を全国から集め、それを惜しげもなく、これでもかこれでもかと、次々に供される。そしてその象徴が月がわりの特選メニュー。
「格別の素材を、正当、伝統的な手法で調理し、しかし新たな発見のある料理」てふうなコンセプトの料理だと思うけど、たぶんここでしか食べられない料理。
10月の特選メニューは、「フォアグラスープに、フカヒレ,フレッシュジロール茸,海老芋,蓮根」というもの。こういう個性の強い食材ばかりだと、どこかでバランスが破綻しそうなものであるが、これがギリギリのところでうまくまとまっているという、独創的な料理。
【夜食のおにぎり】

食事の量が多く、それにつれ酒も多く飲むので、とても御飯までは行きつかず、残りは夜食用のおにぎりとなる。
これもいい塩加減で美味しいんですよね。
真夜中、腹はたいして減っているわけでもないが、むしゃむしゃと食す。
【夜の庭】

写真の出来はよくないが、紅葉はやはりライトアップでも見てみたい。
かわせみは当然その期待に沿うように明かりが設置されており、日が暮れての庭は幻想的に美しい。
ところで天気予報では、明日は終日雨の予報。
ならば飯坂温泉に停滞して、かわせみに連泊することにするか。客も少ないようだし。
仲居さんに部屋の空きを聞くとあるとのことで連泊決定。
まさか同じ料理を出すわけにはいかんので、料理長には負担かかるだろうなーとは思ったが、料理長から連泊用の仕入れのプランができましたとの、仲居さん経由の伝言あり。
明日も楽しみである。
