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September 11, 2011

夏への扉はあるのだろうか?

 ハイラインの古典的名作SF「夏への扉」で、主人公ダンはピートという名の猫を一匹飼っている。ダンはピートのために、猫用の入り口を自宅にたくさん作っている。ピートは冬が大嫌いで、冬の寒さがつのったときは、多くの扉を一つずつ一つずつ、飽きることなく開けていく。ピートは、扉のうちのどれかが夏につながっていると思っており、それでピートは「夏への扉」を探し求めて、懸命に扉を開けていくのである。
 ダンは、ピートの行動を肯定している。ダンは、どんな辛いときでも、それを乗り越える道があり、その道へと続く扉が必ずあると信じている。

 「夏への扉」は、親友と恋人にこれ以上ないような残酷な裏切りをされた主人公が、その失意のどん底から這い上がり、幸せを勝ち取る、という物語である。
 その失意から立ち上がるときの、彼の頑張りの核こそ、「夏への扉」は必ずあるという思い込みであった。


 あの大震災から半年が経つ。

 5ヶ月が過ぎたときに、私は石巻市の中心街を歩いてみた。
 そこで見た風景は、街を覆ったガレキや汚泥の撤去はできていたようだが、閉店した、あるいは店移転の知らせのみが張っている店がずらりと並ぶ商店街であり、明かりの消えた信号灯であり、あらぬ時間を指す時計の数々であった。
 5ヶ月が過ぎたのに、復旧、復興はまったくままならず、人の営みは絶えて久しい、そういう街の姿に、私はショックを受けた。

 この大災害と同じ規模の災害を、日本は先の大戦で蒙っている。
 ただしあの大戦後に焼け野原になった街々も、半年近くたったのちは、住宅や交通はとても復旧の段階ではなかったが、それでも仮の家々に人が住み、市場は開かれ、相当な活気は戻っていたはず。

 ところが今回は、活気が戻るどころか、人々はそこから離れようとしており、じっさいに東北からに人の流出はいまだ続いて止まない。
 これは東北だけに原因がある問題でなく、もはや日本には、復旧、復興する力はないのではと思わざるを得なかった。


 どちらかといえば、私はダンと同様に、「夏への扉」の存在を信じているほうであった。しかし震災の地にたったとき、ここには「夏への扉」があるとの確信はとても持てなかった。

 ただし、あの人の姿なく、店の閉まった商店街で、一つだけ営業をしている店があり、それは印象強いものであった。
 それはポルノ映画館「日活パール」であり、あのゴーストタウンじみた風景には不似合いなものであったが、それでもこういうところから、「夏への扉」は開かれているのかしれない、そうも思った。


【石巻 日活パール】
Ishinomaki


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Comments

小説は読んだ事はないですが山下達郎の
「夏の扉」は知ってました。
な~んか夏の歌なのに詩がシリアスだなぁ
と思ってたらこの小説の事だったのですね。
時代を超えて繋がりました。

Posted by: キヨシ | September 12, 2011 08:32 PM

松田聖子の歌にも、夏の扉を開けて~なんてのがありましたね。
日本では夏は「暑い」イメージが強いのですが、あちらの国では夏は「美しく、楽しい」というイメージが主体で、「夏への扉」は「楽園への扉」というイメージがあるようです。

小説、名作ですので、一度は読むことをお勧めいたします。

Posted by: 湯平 | September 16, 2011 11:33 PM

小説を読みました。
この本を知らないと人生を損してると思わせる
ほどの名作でした。
もう一冊「星を継ぐもの」も買いました。
それもこれもこのブログのおかげです。
これからもいいものを載せて下さい。

Posted by: キヨシ | September 22, 2011 09:10 PM

「夏への扉」って、じつはこの世に存在する数あまたの本のうち、「救ってくれる」本として、いまだトップレベルと定評あるものなのです。
どうしようもない状態で苦しんでいるとき、「夏への扉」を読むと、とにかく前へ進める勇気を与えてくれる、そういう力をもった本であります。
「夏への扉」は、冷静に読めば、いろいろと突っ込みどころはある小説ですが、絶望の淵に落とされた主人公の、そこから這い上がる不撓不屈の意思と、それを支える周囲の人の愛情と友情の熱さに、一挙に小説の世界になかに入り込んでいけます。

私は原文もAmazonで買って読んだんですけど、最後のページは夏への扉を求めるピートへの、主人公の肯定「I think he is right」という言葉で終わり、たいへん感慨深いものでありました。
私も、he is rightと言い切れるような人生を送ってみたいものだなあ、とか。

Posted by: 湯平 | September 22, 2011 10:41 PM

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