読書:人生は五十からでも変えられる (著) 平岩正樹
著者は抗癌剤治療では有名な人であり、独自のオーダーメイド抗癌剤治療を行い、延命効果をあげてきた実績を持っている。
そのため著者のもとに、全国から通常の医療機関では手のつけようのなくなった癌患者さんが殺到していた。
しかしながら、それほど需要があるのに、そういうことを行っている医師は平岩氏ただ一人であり、マンパワーは決定的に不足している。しかも「抗癌剤治療」というものは手間がかかるわりには診療報酬ゼロという技術であり、著者はボランティアでその治療を行わざるをえず、収入はアルバイトで得ていた。(←ひでぇ話だ)
そういうこともあり、著者は精神的、肉体的に疲れ果て、鬱状態に陥ってしまう。そのため、ついに臨床医を辞める。辞めたあとはなにをしようかと考えた結果、学問をしたいとの結論にいたり、齢50過ぎにして母校の東京大学の文学部に入学し、歴史学専攻の学生となった。
そこで著者は学問以外のさまざまなことを知り、「人生は五十からでも変えられる」と、高らかに言い放つ、という本である。
著者が東京大学で経験したのは、トライアスロンであり、海外でのボランティア活動であり、神学、哲学とかであったり、…よく身体を動かし、頭を働かしといったところで、とにかく「頑張るのが好きな人」であるのは間違いない。
日常の生活に倦み、「人生を50才で変えたい」と思っている人は、けっこうな数がいるとは思うが、どう考えても、著者は特殊な人であり、この本がそういう一般的な人の参考になるとは思えない。
さて、東京大学の4年間で、よく学び、よく遊び、よく運動した著者が卒業したあとなにをやっているかと言えば、もとの抗癌剤治療専門家として、臨床の場に復帰している。
…ぜんぜん人生変ってないじゃん、との突っ込みは誰でもいれたくなるではあろう。
ようするに抗癌剤治療医は、著者の天職であり、東京大学の4年間は著者にとてはリフレッシュの期間であったのでしょう。
だから、この本の内容からは、「人生は五十からでも変えられる」との題名は、おかしい。変わってないんだから。
それゆえ本来の題名は、「五十からでも新しいことを始めていい」というふうにするべきではあったのでしょう。
しかしながら、50過ぎたいい大人が、社会のしがらみ、家庭のしがらみを捨て、新たなことをするというのは、恵まれた環境が必要であり、…著者は自分がその恵まれた環境にいるということを自覚していないっぽいのが、この本の少々鼻白むところである。
そういうことはともかくとして、たしかに著者の描く東京大学での4年間の暮らしはとても楽しそうである。
人生の楽しみ方はさまざな種類があり、そのなかの一つの例として、この本は参考になるであろう。
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人生は五十からでも変えられる 著 平岩正樹