コミック:とりぱん(11) とりのなん子 著
東北岩手に住む作者が、庭を訪れる野鳥たちの仕草、あるいは東北の自然豊かな地で暮らす日々の魅力、移ろいゆく自然の美しさを描く短編集である「とりぱん」。
作者の独自の感性が描く、東北の自然の様々な姿は、あるものはコミカルで、あるものは詩的であり、漫画つきの良質なエッセイと称される分野のものであろう。
季節はいつものようにめぐり、自然は静かであり、平穏なまま過ぎていくであろう東北の日々を描いていたはずの「とりぱん」であるが、連載6年目にして、作者は大事件に遭遇することになる。
もちろん、3月11日の東北大震災のことである。
大地は揺れ続け、電気が通らず、あらゆる情報から隔絶された不安な一夜を明かしたのち、翌日作者は、東北を襲った大災害の実態を知ることになる。
幸いなことに作者は内陸に住んでいたので、自身や家族は大きな被害を受けることはなかったけれど、それでも少し離れた地では大災害の光景が広がっている。
作者は呆然とした日を過ごすなか、いつものように庭を訪れた小鳥たちを眺め、彼らの声を心で聞く。
―小鳥たちは、電気もガスも関係なく、食べ物がなくなり寒さが厳しくなれば、そこで一人で死んでいく。それが当たり前であって、地震や津波だって彼らにとっては彼らが生きている自然のうちの一部である。
作者は自省する。その小鳥たちと異なり、人間は自然とあまりに離れたところで、生活を営んでいるのではないか?
それでも人は今の生活を生きていかねばならない。日常を取り戻すため、人々は社会での己の役割を果たしすべく、コツコツと活動を始めた。
そして作者も机からノートを取り出し、漫画を描き始める。
作者は思う。自然はたしかに厳しく恐ろしいものであるが、それでも、いやそれだからこそ美しいものである。その美しさを描きとめていくことこそ、自分のこの世での役割ではないかと。
あの大災害を経験した人、見た人は、多かれ少なかれ、その人生観や自然観は変わらざるをえない。
明るく愉しかった「とりぱん」の世界が、震災後、明らかに深化してきている。
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とりぱん11 (著)とりのなん子
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