寿司:與兵衛@西大島
鮨好きの者として、有名店「與兵衛」には行きたいと思いつつ、なにしろ不便なところにあるので行く機会がなかったのだけど、今回はなんとか日程が合い、初めて訪れることになった。
西大島の少々寂れた商店街を歩いてやがて與兵衛に到着。暖簾前には、このように3匹のカエルがお出迎え。
ケロケロ、コロコロと鳴き出しそうな臨場感いっぱいのカエルたちであり、この店に入れば、楽しいことが始まりますよと告げているがごとき面白い造形である。
まずはツマミから。
ツマミがずらりと皿に並びます。このツマミ、10年くらい前に嵐山光三郎氏の「鮨問答」で写真に載っていたのを見て、これは食いたい!と思い、それからようやく会えました。
ホタテの煮ヅケの柑橘和え、海老とホタテの肝、イカミミのヅケ、貝柱や縁側の酢和え、煮シャコ、マグロヅケ。
これらは寿司店の先付としては禁じ手に近いものであり、これで酒を飲むとそこで完結してしまうくらいの美味さと完成度である。
こういうものは保存きくだろうから、瓶詰にでもして売ってくらないかなあ。
皿に乗せたツマミを食い終わったのち、鮨に入る
鮨は、どれもが店主独自の工夫を凝らした独自のもの。
旬のマコガレイは甘酢とゴマ醤油で。カレイはあの独自の磯臭い風味をいかに柔らかにまとめるかが難しいと今まで思っていたが、その固定概念が吹っ飛ぶ大胆な鮨。人によっては、カレイの味がしないじゃんとか言うかもしれないが、いやこれはそれとは別の段階に達している。
イカも味をつけており、イカの食感を兼ねたイカ以外の味も備え持つ鮨だ。
キスやアジの〆方もしっかりしており、元のネタの味をさらに複雑、奥深くしている。
このシマアジの鮨も初めて食べるたぐいのもの。
シマアジをタタキにして3枚重ねることにより、香りと食感がより豊かに感じられる。
こういうこの店独特の鮨に加え、煮ハマ、煮アワビ、穴子は正統的なもので、店主の腕の冴えを知ることができる。
與兵衛は江戸前鮨の典型の店と聞いていたが、…いざ食ってみると、ずいぶんと違った印象を受けた。これは江戸前風味の創作系の鮨じゃないのかな。
だって、こういう味付け、〆方の鮨って、他の「江戸前鮨」を出す店で経験したことないから。
それにしても、ツマミから鮨に至るまで、独自、ユニーク、じつに面白い料理の数々だったと思う。全国から、こんな東京の不便なところ(失礼)に人が集まってくるのもよくわかる。
そして、料理のユニークさに加え、與兵衛の店主もまた実に愉快な人物であった。
カウンター越しに交わす会話は、抱腹絶倒ものが多く、店主の人生経験と話題の豊かさを示している。
店主は現役のバンドマンであり、先日もThe Beatlesをボーカリストとして演奏してきたそうだ。
あの年代の者としてThe Beatlesへの思い入れは深いようであり、I saw her standing thereの曲の入りがいかに難しいか、I feel fineをアマチュアがやるのがいかに大変かの実演上の問題とか、あの時代、あの狭いところにThe Beatlesを形成するメンバーが集まった奇跡とか、The Beatlesの初期の曲は永遠に新しいとかについて熱く語る。
その他、The Rolling Stonesも好きなようだが、「あれはキース・リチャーズのバンドである。そしてライブを見たが、ミック・ジャガーよりもロン・ウッドのほうがよほど歌が上手い」とか、なんだかすごいことを主張していた。…そ、そうなのか?
それからドイツ時代の寿司店経営の話もまた続き、現地の苦労話、食事情等、これもまた面白いものであった。
鮨の美味さも、また店主の話も尽きぬ、與兵衛の夜であったが、それも適当なところで切り上げとなり、そのあとは店主のお勧め通り、西大島駅ではなく、錦糸町駅を使って新橋へと戻った。
東京中心方面には、こちらのほうがたしかに便利である。
ついでながら、與兵衛においている酒の数々の書について。
この書、最初は客の筆上手な人が書いていたのだが、(暖簾の「與兵衛」の字もその人が書いている)、店主も書に興味を覚え、そのうち酒のラベルをまねて書を書くようになったそうだ。
このうちのいくつかは店主によるもので、ほとんどプロ級ですな。
鮨、料理、音楽、書、カエル、…店主はかなりの達人に思える。
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