読書:偽憶(著)平山瑞穂
ある資産家が亡くなった。彼は子供の世話をすることが好きであった。そして15年前に彼が主催したサマーキャンプに参加した6人の子供たちのうちの一人のある行為に、とても感動を受け、その後の彼の人生の慰めになった。それでその子に感謝の念をささげ報いたいのだが、ただそれが誰かが分からない。彼は亡くなる前に、弁護士にその子が特定できれば、その子に遺産31憶円を送ってほしいと遺言をのこした。
弁護士は今は27歳に成人したかつての子供たちを集め、彼らが経験したサマーキャンプの手記を書かせ、その「資産家が感動した行為」を明記したものに31憶円を贈ると言った。
彼らはそれらしい行為を思いだそうとはするが、15年前のことなので、記憶などほとんど残っていない。それでも微かな記憶を集め、たぐりよせていくと、そのときのサマーキャンプの思い出がおぼろげながらよみがえってきた…
書評で、いかにもおもしろそうなあら筋がのっていたので、「偽憶」を読んでみた。
「偽憶」という題名は秀逸であり、人の記憶はあてにはならぬものなので、数々の記憶をつきあわせていくうちに、記憶は迷走し、「偽憶」としかいいようのないおぞましいものに変容していく、というような話を勝手に予想していが、作中、案外まともにサマーキャンプの記憶は再構築されていく。
そして、偽りの記憶、間違った記憶である「偽憶」は、この元子供たちにあるのでなく、「事件」を企てた大元のところに存在していたというドンデン返しがあって、解決編にいたるわけだが、
…ひじょう~に後味が悪い。
この後味感の悪さ、ウールリッチの「黒衣の花嫁」を思い出してしまった。
ただ「黒衣の花嫁」は、それなりにミステリの古典的名作で、そこに到るまでに読ませるところはいろいろあるわけだが、「偽憶」はそこまでの芸はないので、結末部の後味の悪さばかりが印象に残ってしまった。
ただしよく読めば、作者は冒頭のプロローグのシーンからその後味の悪さを宣言しているわけで、これはそういう小説なのでしょうなあ。
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偽憶(著)平山瑞穂
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