酒は静かに飲むべかりけり
宮崎に住んで数年の私からしても、今年の寒さは基準外の凄さと感じられるのだが、延岡から離れることなく延岡で70数年暮らしてきた人が、「こんな寒さは今まで経験したことがない」と言うのを聞いて、たしかに今冬の寒さは規格外であることを確信した。
こうも寒くなると、夜は外に出る元気も出ず、家でちびちびと酒を飲むことが多くなるわけだが、ひとり飲んでいると、…延岡ついでに、延岡出身の有名歌人若山牧水が読んだ高名な歌、
白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒は静かに飲むべかりけり
を思いだしたりする。
酒仙の歌人と称されるわりには、(酒仙李白の詩などとは異なり)、牧水の酒を読んだ歌は、酒を飲む喜びとか酒宴の愉しさとかは感じられず、それよりも人生の辛さ、悲しさをじっと耐えて、それを酒でごまかすという雰囲気が濃厚に感じられ、読んでいて自分まで辛い気分になってしまう。
この歌だって、語句にはないものの、明らかに一人で飲んでいる情景であり、そして「静かに飲むべかりけり」とあるのは、物狂わしい気持が心のなかにあふれ、暴れ出したくなるようなそんな狂暴な心を、無理に抑え、なんとか静かに飲もうと、「静かに飲め、静かに飲め!」と自分に言い聞かせている、孤独な精神の葛藤劇を読んだものであろう。
歌の調べも、s音とk音を多用した鋭いもので、歌の厳しい内容とうまく調和しており、名歌といえると思える。
…ただし、この歌、昔から疑問に思っていたのだが、季節を間違っていないだろうか?
こういう自省、自戒の歌は、逃げ場のないような、寒い冬の日にこそ詠んでふさわしい。
これが「秋の夜」だと、なにかぬるい。
秋の夜なら、寂しさ、辛さに耐えかね、外に飲みに行く逃げ道もあるし。だいたい飲んでいるのは冷酒だろうから、冬のほうがより「白玉の歯にしみとほる」だろうし。
というわけで、私は勝手にこの歌を、「冬の夜の酒は静かに…」と頭で変換して、そしてそれを頭で響かせながら、冬の酒を飲んでいる。
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