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January 31, 2011

祖母山ミステリ 「消えた登山者の怪」

 雪の祖母山を登って、ひとつ妙な経験をしたので書いておこう。

 私が宮原の尾根を登っていると、午後4時ころに下山してきた九州マウンテンツアーガイドの一行とすれ違い、そのときに、私以外にもう一人女性が登っているところだよと言われた。

 それを聞いて私は少し変に思った。入山者に関しては、テン泊予定の女性の入山者が一人いるのは登山口の登山届で確認していたので、女性が一人登っているのは知っていたが、その人(以後、Tさんと書く)の登山スタートは午前9時と記載されていた。するとTさんは今の時間ならとっくにテントを張っているはずで、今ごろ尾根~稜線を行動しているとは考えにくい。
 だからTさん以外にも、もう一人女性が登っているのかなあ、くらいに思った。ただ雪の祖母山に、女性の単独行者が二人もはいっているのも考えにくく、Tさんが非常なゆっくりペースで歩いているのかなとも思った。

 そして午後6時半くらいに、小屋近くのテン場を通り、明かりがついていないテントがひとつ張っているのを確認。Tさんのテントであった。
 その後私は山小屋に入った。山小屋には誰もおらず、そうなるとツアー一行が見たという女性は、山小屋には泊まっていないようだ。そしてこの時間はもう日が暮れて真っ暗になっており、今山のなかで行動している人がいるのは、まずありえない。

 それで、ツアー一行が見た女性は、やはりTさんだったんだろうなあと思った。
 ただそれだとTさんの行動(テント設営→祖母山山頂往復→食事→就寝)の時間が、超人的な速さということになり、どうにも計算があわない。
 ま、そのことについてはそれ以上は深く考えなかった。


 さて、翌日祖母山を下山しているときに、テントをかついだTさんに追いつきいろいろと雑談をした。
 そのときに、「昨夜は山小屋に泊まりました」と私が言ったら、Tさんは「もう一人女性が登っていましたね。小屋では一緒だったでしょ」と言った。
 それを聞いた瞬間、私はぞぞ~としたのである。それこそ全身鳥肌がたつくらいに。

 やはり、もう一人いたのだ。
 ただ、それでは、あの暗闇のなかの祖母山、彼女はいったいどこに行ったのか?

 ちょっと図説してみる。

【午後4時】
Photo_3

 宮原尾根で1200mくらいの高さで、私はツアー一行とすれ違った。ここで私は今行動中の女性が一人いることを聞いた。その女性を●印で示し、仮にXさんと呼んでおこう。Xさんは尾根から稜線上にかけて行動中である。そしてTさんはテン場でテントを設営している。

【午後6時半】
28

 午後6時半ころ私はTさんのテントの前を通り過ぎる。テントに明かりはついていなかったが、Tさんは起きていて、その時刻に私が咳払いしながら通ったのを確認している。
 そして私の前にもう一人の登山者、Xさんも前を通ったのを認識している。
 この時点では、ツアー一行はすでに下山しているので、祖母山にいるのは3人だけである。

【午後7時】
292

 私が山小屋に着いたとき、Xさんは小屋にいなかった。
 これが昼ならばべつに不思議なことではない。Xさんは小屋を通り過ぎて、祖母山山頂に登っていっただけの話だから。
 しかし日が暮れ、真っ暗ななか、雪山の山頂をめざす人がいるとは思えない。ならば、Xさんは小屋にいない以上、どこかで幕営しているのだろう。だが、この先に幕営地はないのである。敢えていえば祖母山山頂が幕営地であるけど、翌朝そこに登った私は、幕営した痕跡も、また新たな足跡もないことを確認している。

 Xさんは、午後7時の時点で、忽然と姿を消したのだ。


 この祖母山ミステリ「消えた登山者の怪」、はたして解答はあるだろうか?

 私にとって一番怖い解答は、「じつはXさんは山小屋の中にいた」というものである。私が一人で泊まっていたと思っていた山小屋に、息をひそめるようにしてもう一人の人間が隠れていた、なんてのは想像するだに怖い。
 ただし、祖母山九合目小屋、隠し部屋みたいなものはあることはあるけど、それでもたいした広さはない山小屋だ。そんな山小屋に他の人がいたとしたらいくらなんでも私は気づくだろう。そこまで私は迂闊な人間ではない。

 思考を極端に飛躍させて、「Xさんは幽霊であった」というのはどうだろうか? 向かいの傾山は「出る」ことで有名だから、祖母山に幽霊が出てもいいであろう。そして幽霊だったらどこで消えてもおかしくない。しかし、いちおうXさんはツアー一行にはっきりとその姿を目撃されている。幽霊がザックかついで登っていたら、そんなものに遭遇したツアー一行はパニックに陥っていたであろうから、これも却下。

 いろいろ考えると、それなりに解答らしきものは他にいくつか浮かび、たぶんそのうちのどれかが正解なのであろう。
 そのなかで一番いやなのが、「Xさんは遭難した」というものだが、尾平の登山口駐車場は日曜の午後には空になっていたので、Xさんが実在するなら、無事に下山したのは間違いない。

 はっきりとした解答は、もはや闇のなかであろうが、なんとも不思議な祖母山ミステリであった。


 …………………………………
 雪の祖母山(1)
 雪の祖母山(2)
 祖母山ミステリ解決編

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Comments

はじめまして、「T」です。
ネット上では、しゅぷ~ると名乗ってます。

偶然、この記事を見つけて読んでおりましたら、わたしの言葉足らずのせいで、混乱を招いたことがわかり、説明しなくては・・と思いました(笑)

ミステリーの種明かしをすると、謎の女性「X」は実在しません。
下山中の山ちゃん御一行様と、テン場付近で遭遇したのは、間違いなく、わたしです。以下、あの日の行動について書きます。


今日は祖母山貸切りだなーって思いながらテントを設営し、山頂に行ったのが14時。15時にQ合目小屋の前に戻ると、気温計はその時点で氷点下10度。テントに戻って食事をしたら眠たくなり、うたた寝してましたら、小さく咳払いする声が聞こえ、目が覚めました。18時半くらい?どうしてそう思ったのか、それこそ、ミステリーですが、男女二人組の登山者が小屋に向かったのだと思いました。なぜか、女性の話し声がしたような気がしたのです。翌日、渡渉点で追いつかれた時、女性が一緒じゃなかったのかとお訊ねしたのは、わたしが勘違いしていたのです。

こんなふうに書くと、また鳥肌が立つかもしれませんね(笑)。でも全部、わたしの錯覚です。寝ぼけてたし。安心してください。


寒波襲来の予報下でのテン泊でしたので、読者から怒られそうで、この時の記事はわたしのブログでは一般公開してません。
でも、あの日の夜、テントの外に出てライトを照らすと、雪の結晶がキラキラと舞っていて本当に素敵でした。

Posted by: しゅぷ~る | April 14, 2011 11:23 PM

はじめまして。(って、祖母山で会いましたね)
コメントありがとうございます。
解答はみつかることもないまま終わると思っていた「祖母山ミステリ」でしたが、なんと解答編が出ました。これもネットの面白いところです。
このミステリが生じた原因としては、「今、登っている女性がいる」という山下さんの言葉がじつは完了形であったのを私が現在進行形と勘違いしたこと、それに、しゅぷーるさんが私を男女二組の登山者と勘違いしたことにあったわけですね。これで納得いたしました。

…ただ、もしかして6時半の時点、しゅぷーるさんの勘違いでも錯覚でもなく、本当に私の後ろになにかついていたら、とかやはり考えてしまいます。山のなかに入ると、特にテン泊しているときとか、人間のカンは鋭くなりますから。
ま、山ではなにがあってもおかしくないということで。

ところで、しゅぷーるさんのブログを読んでみました。
雪の祖母山を、巨大な荷物を担いで歩くしゅぷーるさんを見て、「この人は強い人だな」と思いましたが、その通りに、強靭な体力と精神力で難しいコースを次々に走破している姿に感服いたしました。長野とかならいざしらず、九州でこのような女性がいるとは驚きです。
出没している山が私と重なっているところも多いようなので、またお会いする時があるかもしれませんが、そのときはよろしくお願いいたします。

追伸:しゅぷーるさんのブログのコメント欄は人でにぎわっていますが、そのなかには私も実物を知っている人がけっこういました。九州の山の世界はせまいですねえ。

Posted by: 管理人 | April 15, 2011 05:14 PM

今日、職場の人にこの記事を見せたら、面白いって評判でしたよ。解答なんかせず、ミステリーのままにしておけばよかったのに、って。それと、「ザックが歩いている・・」という表現が、大ウケしてました(笑)

山は「事実は小説よりも奇なり」、不思議なコトがよく起きますよね。テントの前を通過する時、外はすっかり暗くなっていたから、誰かが付き添ってくれていたのかもしれませんね^^

ご存知と思いますが、わたしの山歴は浅いんですが、祖母・傾・大崩には特別な想いを抱いています。森があって、水があって、生命を感じられるこの山域が大好きです。本州の山やアルプスまでわざわざ行かなくてもいいなーとさえ思います。

強靭な体力、精神力なんてこれっぽっちもありません。ただ、山に行くと、いつも何かに護られているという感じがして幸せです。

立ち話程度でしたが、1月はお会いできてヨカッタです。また、いつか山でお会いできるのを楽しみにしています。

Posted by: しゅぷ~る | April 15, 2011 09:27 PM

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