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September 17, 2010

隠微な楽しみを得るために、無実の人を無理やり起訴してはいけない。

 「北九州爪切り事件」という看護業界ではけっこう有名な事件の福岡高裁判決が16日にあり、被告人無罪という妥当な結果が出た。
 この事件、事件というのも憚れるほどのものであった。

 元々の発端は、寝たきり老人が多くいる病棟に新しく赴任した看護師長が、そこで患者達の足の爪が伸びっぱなしになっており、衣服やシーツにひっかけたりして出血することが多いことに驚き、自ら率先して患者達の爪を切ったり整えたりする「フットケア」を行ったことにはじまる。彼女はフットケア技術の習熟者であり、前に働いていた病棟でもフットケアを全般的に行っていて、実践,指導ともに、最適の人物であったからして。
 そしてこういう寝たきり老人たちの爪は白癬症により肥厚、変形していることがほとんどであり、爪切りの際に爪が外れてしまったり、少々の出血が生じることがある。それでもそういうふうにして爪をケアしないと、結局はより以上の出血や感染を引き起こすことになるから、やはり爪のケアは必要である。
 ところがフットケアの何たるかを知らない、その爪を延ばし放題にしていた病棟の看護師たちは、そこまで爪の処置をすることは老人虐待ではないのか?との疑義を発し、上層部に苦情を訴えた。そしてやはりフットケアの何たるかを知らない病院管理部によって、その仕事熱心な看護師長が告発されてしまった次第。
 このもとはただの勘違いである事件は、なぜか大事件になってしまい、記者会見はあるわ、病院謝罪はあるわで、看護師長は逮捕され、起訴までされてしまった。

 ………
 逮捕、裁判の過程で、フットケアというものがれっきとした看護業務ということが理解されだした。病的な爪を爪切りして少々の出血があっても、それは看護業務として許容されるのである。もともと医療行為、看護行為自体がある程度の人体への浸襲は織り込みずみなので、それをいちいち傷害などと言っていては、医療・看護行為は成り立たない。それこそ外科医は、手術したとたんにみんな傷害罪で訴えられることになる。
 だいたい看護師長を傷害罪で起訴した検察側の証人医師でさえ、「爪切りは看護業務である。検察側が傷害の証拠として示した爪切り跡の写真をみても、これは医学的にもまったく問題ない」というくらいだったので、看護師長の行為は傷害事件になりようがなかった。

 ところが、その仕事熱心で患者の評判も良かった看護師長をなんとか罪人にしたい検察側は、すごいストーリーをつくり上げた。
 この看護師長は、看護業務を隠れ蓑にして、病人の爪を深く切って血を流すことに喜びを感じている性格異常者である。だから例え、爪切りが看護業務のように見えても、それは看護師長の変態的欲望による傷害行為なので、だから有罪だと。
 検察はか弱い女性の看護師長を100日以上も拘留して、そういう自白を師長に強いてそれを供述調書とした。

 世界には70億人近い数の人間がいるのだから、そのような「老人の病気の爪を深く切って血を流すことに隠微な喜びを感じる」変態もいないとは断言できないが、それでも看護師業を長くまっとうに続け師長にまでなった人を、そんな超絶的な変態とするのは、いくらなんでも無理があろう。
 結局は検察の妄想なのである。妄想をそのまま被告人に押しつけて、妄想そのものの供述調書を作成して、それを証拠として裁判を行う。不条理そのものの世界であり、被告人としては、たまったものではない。

 検察は裁判で、被告人は「(職場の人間関係などによる)欲求不満を解消し、隠微な楽しみを得るため、爪を切り詰めるなどして出血させた。正当な業務行為ではない」と主張した。
 そして福岡地裁では、なんと裁判官はこの検察の妄想を認めてしまい、「看護業務であればたしかに爪切りは問題ないが、師長は自分の快楽のために爪を切ったので有罪」と判決を出し、師長は有罪となってしまった。
 まあ地裁はトンデモ判決が湧いて出てくる玉手箱みたいな存在なので、その判決はあくまでもコートジョークとしてしか意味はなく、実質勝負は高裁の控訴審になるという、よくあるパターンがまた繰り広げられ、そして昨日の妥当な判決にいたった次第。

 高裁は供述調書を検察の妄想、作文と一蹴し、師長はそんな異常者でなく、爪切りは正当な看護業務であり、なんら傷害罪を構成するものではない、よって無罪と真っ当な判断を行った。
 じつはこの師長の起訴と地裁有罪判決で、全国の看護師が「フットケア」に恐れを抱き、患者の爪が伸び放題てな事態が生じていたため、看護協会、および看護師、それに数多くの患者さんたちも、ひと安心といったところである。

 この裁判が最高裁まで行く理由はまったくなく、師長の無罪は確定であろう。
 しかし検察の無知と妄想により、3年間も裁判を闘うことになり、拘留されたり、有罪判決を出されたりで、この師長の人生は破壊されまくりであり、本当に気の毒である。

 この裁判、師長の行為になんら問題がないのは分かっていたはずなのに、検察は妄想まで出して、懸命に師長を有罪にしようとした。
 社会のなかで誠実に、正直に、犯罪などとは縁無く生きている人を、無理やり罪人にしてしまおうという検察のはた迷惑で暗い情熱は、どこから来ているのだろう?
 彼らは、目をつけた者はなにがなんでも有罪にしないと気がすまない、それこそ無実の人でも有罪にすることに隠微な快楽を感じる異常性格者なのだろうか。
 私は検察全体がそういう異常者ばかりだという馬鹿なことは言わないが、それでもこの「爪切り事件」それに先日無罪判決が出たばかりの「村木局長事件」をみるに、検察のなかに一定数、そういう異常者がいると判断せざるをえない。

 看護師長は検察の誤った起訴により甚大な被害をこうむった。
 しかしここまで迷惑をかけられても、日本の法律は、個人が検察を訴えることはできない。検察官はまさに特権階級なのである。
 しかしもしも将来的に、このようなひどい目にあった人が、取り調べをした検察官を告訴できる仕組みができたとする。
 すると裁判での告発状には、「検察官某は、欲求不満を解消し、隠微な楽しみを得るために、無実の人を無理やり罪人に仕立て上げ、その人の人生に多大な障害を与えた。これは傷害罪にあたる」と書かれるであろう。
 そしてそれは妄想でなく、今ここにあるれっきとした事実なのである。

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» 当時のブログ記事は酷いのばっかりだったなぁ…。 [バカゲー・洋ゲー・クソゲー三昧 〜KRTさん(三十路)のブログ〜]
■まさに「鬼畜看護師を許すな!」という記事ばかり 「爪剥ぎ事件」と言われてた事件、無罪判決が出た訳だけど…。 「無罪判決に安堵」と日看協−認知症高齢者の爪はがし事件 (医療介護CBニュース) - Yahoo!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100916-00000003-cbn-soci 日本看護協会(日看協、久常節子会長)は9月16日、北九州市で起きた「認知症高齢者の爪はがし事件」で、被告の北九州八幡東病院の元看護課長に福岡高... [Read More]

Tracked on September 17, 2010 08:36 PM

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