寿司:もり田@北九州市小倉北区
寿司屋というものは、特に店を初めて訪れるときなど、独自の緊張感が漂っているのが普通である。
繊細なバランス感覚のうえに成り立つ鮨という料理は、握る方も、客の方も、それなりにこだわりがあり、それがカウンターを挟んでの、一種のせめぎあいを生じさせ、あの寿司屋独特の雰囲気をかもしだす。
ただし世の中には、そのような緊張感を微塵も感じさせず、和気あいあいとした、柔らかで温かい雰囲気のうちに、己の極めた鮨を握る達人がまれにいて、その達人の店が「もり田」である。
九州を代表する寿司の名店「もり田」の店主森田さんは、御年70後半という高齢の方であるが、元気溌剌、矍鑠たる姿で鮨を握っている。
もり田の鮨はいわゆる創作系の鮨で、ネタには必ず何らかの工夫が入っており、華やかで、複雑な味わいを持つ鮨が次々にと出てくる。その鮨をいくつか。
イカは松笠切りを少し炙り、それにウニとトビッコ(トビウオの卵)をのせて。
カキの鮨は強めに焼きを入れており、カキの香ばしさがまず印象的。そしてカキのなかは、とろりとしたミルキーな味わい。カキの魅力が存分に広がる鮨である。
子持ち昆布という鮨自体が珍しいが、これにウニとアボガドを添えて、面白い食感と味の鮨になっている。
もり田の鮨は、江戸前鮨や鮮魚系鮨に慣れたものにとっては、にぎやか過ぎるとか、いじりすぎとかに思えることが多少はあるだろうなとは思うものの、それでもどれもが文句なしに美味い。
そしてこの鮨を握る森田さんは、美味い鮨を握ることが、ほんとうに楽しくて楽しくてたまらないという風情であり、この店の独特の温かな雰囲気がそこから広がってくる。「もり田」で森田さんの握る鮨を食う、その時間、その空間の心地よさもまた、この店の大きな魅力である。
森田さんは研究熱心な方であり、つい先日も東北の山形に旅行に出かけ、鮨を食べ歩いてきたとのこと。どの地方にもそれぞれの魅力があり、学ぶこと多きという。
その森田さんが近頃少しばかり残念だったのが、銀座の「すきやばし次郎」での経験。
小野二郎さんとは年が10ばかりくらいしか違わないことから、修業時代の経験なども重なるようなこともあろうと、そういう話などをしたかったのだが、二郎さんは鮨を握り始めるや、矢継ぎ早に20数貫を20数分で握り、話を入れる間もなかったと、かなしそうに言われた。
…しかし、鮨業界の有名人である森田さんを前に、ここからは自分の世界とばかり、超マイペースで一心不乱に鮨を握る二郎さんの姿を想像すると、失礼ながらなんだかおかしくなってしまった。それと、小野二郎が握り始めれば、誰もそれを止めることはできないという伝説は本当だったんだなあ。
それはともかく、話はできなかったものの、森田さんは小野二郎さんの懸命に握る姿を見て、あの二郎さんが頑張ってるうちは、自分もまだまだ頑張らねばならないと思ったと、頼もしいことをおっしゃられた。
九州の寿司好きな人たちは、森田さんが、これからも長く現役でがんばってもらうことを願っているから。
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