旅館:華もみじ@熊本県南阿蘇
旅館を特徴づけるものとして、部屋・料理・サービス・風呂・庭・眺望…等々があるわけであり、その全てが素晴らしい旅館が「理想の旅館」となるのだろうが、たぶんそんなものは存在しない。
個人的には俵屋がその理想の旅館に最も近いものに思えるが、ただし俵屋は眺望はまったくの凡庸である。俵屋が風光明媚なところにあれば、すごい旅館だろうなあとか思わぬこともないが、しかし俵屋は京都のまんなかのあのごちゃごちゃしたところにあって初めて俵屋だという気もする。
それはさておき、南阿蘇の旅館「華もみじ」の眺望は素晴らしい。
山の中腹の高台にあり、阿蘇内輪山と南郷谷を、部屋から一望のもとにのぞめ、九州屈指の観光名勝地阿蘇の魅力を十二分に教えてくれる。
華もみじは離れ形式の部屋を一列にして、この眺望をどの部屋からでも見られるように建てられている。
この形態、これも長崎の絶景を楽しめる旅館「紅葉亭」とよく似ており、名前も似ていることから、同じ系列の旅館かと思い聞いたけど、まったく関係ないとのこと。ただし同様のことを思う人がやはりいるらしく、以前にもそう聞かれたと答えていた。
大露天風呂は旅館から少し離れたところにあり、そこから見た旅館の姿。
華もみじは10年ほど前に建てられており、あの頃に流行った「部屋付き露天風呂のある高級系旅館」という位置づけにある旅館である。
こういう旅館が熊本、しかも阿蘇という地で成り立つのであろうかと、建てられた当時そこそこ話題になったのだが、10年たっても華もみじは健在であり、需要はきちんとあったようだ。
「部屋付き露天風呂」というものは、単に「部屋の外にある風呂」ということが多いのだけど、ここの露天風呂は、露天風呂に最も望まれるもの-眺望もばっちりである。
料理はどのようなものかといえば、
おもに天草産の魚を用いて。平目、イワシ、車海老、サザエ。
この旅館では、このブリの兜煮が名物のようである。半日かけてコトコトと煮たブリの頭は、骨まで軟らかくなっており、すべて食べられる。
ブリという魚は、よく言えば個性的、悪くいえばクセのある魚であり、人によって好みは分かれるのだろうけど、ここまで煮詰めてしまえば、ブリの特徴ある成分はすっかり流れ、出汁の味がかわりに身にしみて、独特の料理となっている。おもしろい料理である。
熊本名物、馬刺しは当然でてくる。
宮崎牛は薄切りを、かるく炙って食べる。
黒豚は角煮ではなく、あっさり目に塩で煮て。
その他、鱧椀、海老餃子、などが出てきて、〆はトウモロコシご飯にて。
全体的に南九州の素材を使って、郷土色を出した料理。
熊本阿蘇を訪れた県外の人には喜ばれるものだと思う。
部屋はまあ普通。広くて、清潔であり、リビングのある部屋もある。
この旅館は、どの部屋からも、阿蘇を眺めることができるのがウリである。
そういえば、泊まった日の夜は食事時にちょうど月が出ており、阿蘇の侘しい夜景のうえに澄んだ光を放つ月を楽しめた。
華もみじは、5年前に訪れたことがある。
そのときは阿蘇花火大会の日であったのだが、3月にしては、季節外れの大雪が降り、たぶん花火大会は中止となったのだろうけど、かわりに雪の阿蘇を楽しめた。そのときの写真を紹介してみる。
雪の降り積もった静かな阿蘇。そこより望む、ほっかほっかと湯気を立てている活火山中岳。
雪はしんしんと降り積もり、雪見風呂を楽しめた。
雪がやんでのちの露天風呂からの眺め。
南郷谷は雪が一面に積もっていた。
九州を代表する名勝地、阿蘇の眺めを楽みたい人には、是非お勧めの旅館である。